今、始まる。そんな気がした。
少女は力を持って風を助ける。
その身に宿す力は『毒』に等しいというのに。
銀の作ったご飯を食べ終わり、プランを読んでいた。
解りやすい解説付きだ。
この宿は安い宿泊料金でご飯とかが着いていないタイプだった。
銀の料理っておいしいな。
女として負けたきがする。
「エルデナ。お主は女の姿がいいか?。今のままで良いか?。」
「女の子でよろしく。」
銀のほうを見ると和風テイストな洋服になっていた。
…この辺りでは目立つ気がする。
にしても、魔法と言うのは便利だ。
わたしの『力』は殲滅戦に使える力だ。
手加減の具合とかを知ればもっと戦略の幅が広くなるはずだ。
接近戦ではまるで駄目だろう。
遠距離戦でボコすかと打ち負かした方がいい。
「解っているが、奴には心臓に呪爆があるのは知っているな。」
今は窓を見ていた。
銀の調べた結果だ。
逃げても無駄。
呪いがかけられていて、
自身の意思で逃げようとしたら心臓が爆発するらしい。
銀は詳しい。
その時にも見張りが一人居たらしい。
「我々は『ココ』来て日が浅すぎる。エルデナも完全には力を使いこなせていない。」
「知ってるよ。全部が全部、プランに書いてあるもん。」
そうだ。
全部、書いてあるのだ。
カバンからガラスの時計を取り出す。
「でも、これでいいのかなぁ。」
わたしはルカを縛りたくない。
でも、銀の魔法で心臓を作る事ができるらしい。
それが4日後。
到底間に合わない。
だから、代用で立てないといけない。
「お主もそれで納得したではないか。」
そうだ。
それでも、複雑なんだ。
「銀、時間だよ。」
ドアを開き、野次馬に紛れて見に行く。
剣や大剣、武器系は銀が持っている。
なんでも、亜空間に入れているらしい。
わたしのカバンにもそういう機能をつけてくれました。
第一段階開始。
もう、そろそろしたら時間だ。
はぁ、憂鬱だ。
エルデナに似た子を助けただけだ。
命令違反したわけだ。
後悔はしていないと言えば嘘。
もう二度とエルデナに会えない。
「時間です。ナンバー4を処刑台まで連行します。」
逃げれない、剣で抵抗する事も出来ない。
目の前に居る埃すら払えない。
麻酔に縄に縛られて、逃げ出せるわけがない。
さらに、呪いまでかけられている。
外に出されると人塊が沢山。
ウザイ。
今すぐにも皆殺しをしてしまいたい。
俺はエルデナに会いたい。
あの薄い色素の金色の髪に触りたい。
あの赤い眼に俺が映ればいい。
ここにいるゴミを切れば、エルデナに会えるというなら切る。
こんな俺にも優しかった。
人殺しの俺にも優しかった。
嫌われてくない。
エルデナは白も赤も似合う。
でも、血の色は似合わない。
誰かの色に染まるなんて嫌だ。
町を抜け、処刑台がある湖へ向かう。
あと少しか。
心臓を一刺しされて、不要な死体は湖にぽちゃん。
捨てられるわけだ。
嫌になるな。
目の前には処刑台。
考え事している間に着いた。
眼に光もない処刑人、次の柱がいた。
次のナンバー4。
呪いは感染する。
槍を伝い、次の人形の心臓に住み着く。
可哀相に『力』を持っているせいで担ぎ上げられて、同情はするね。
「柱よ。汝は使命を真っ当しなかった。」
勝手いうよね、この宣言者は。
なんでも言う事を聞く異能者が欲しくてこんな事をしているのにね。
洗脳教育でも楽しく勤めているくせに何を言ってんの?。
「故に消えろ。」
槍が俺に向かってくる練習なんて沢山積んでいるのだろう。
事実、俺も受けた。
ミスなんて在りえない。
風が吹く。
槍が飛んでいった。
眼を開けると見慣れた赤が白が見えた。
「だったら、お前が落ちろ!。」
宣言者が湖に落ちる。
この声に姿を俺は知っている。
居るはずなんてない。
権限を使ってまで探したのに居なかったんだ。
本当に別の世界に居たんだ。
本当に存在して居たんだ。
「さて、」
湖を覗きこんでいた。
音からして溺れているのだろう。
この湖には屍肉を食らう魚が居る。
流石に生きた人間は食わないとは思うけど。
「一緒に行こうか。」
勿論、この手をとるのは当然だった。
エルデナは俺の光でもあるから。
動けたらその手を握りたい。
「ほら、大丈夫だよ。ルカ。」
痺れが消え、縄の感覚が消えた。
握れる。
「そっちの子も来る気あるのね。」
振り向くとこっちに近づく俺の元部下。
良い子ちゃんだもんな。
「行くよ。ルカに無愛想な子。」
それは失礼だろうと思いながらも、笑った。
心底から笑えた気がした。
遠く、遠くに飛ぶ。
黄色い煙があった。
銀、其処が落ち合い場所ね。
すとんと地上に着地。
「旨く行ったな。おまけが居るが大丈夫か?。」
「大丈夫ですって、コイツはお偉いさんより俺の言う事をきくし。」
ルカ、良かった。
ほっと安心する。
でも、早く事を進めないとルカが死んじゃう。
「ごめん。ルカ、その前に呪いを解くから…」
言わないといけない。
解っていても苦しいだけ。
それだけだ。
「一度、死んでください。」
眼を大きく開き、すぐに元に戻る。
無愛想な子が睨んでくる。
「大丈夫だから、大…丈夫だから。」
「いいよ。このままじゃ呪いが発動するもんね。」
あっさりと了承してくれた。
今のわたしは泣いているだろう。
「一度でしょう?。生きるために必要って事でしょうが。」
コクコクと頷いた。
次に抱きしめられる。
「俺は良いよ。許しちゃうからさ。」
ルカの心臓のある位置に手を置いた。
銀は今、アレを握っている。
そういえばわたしって人と触った事もない。
かかわりを持った事も余りない。
あの『力』を使う。
災害ではなく毒に等しいこの力を振るう。
ルカが崩れ落ちる。
糸の切れたマリオネットみたいに崩れる。
わたしは支えた。
徐々に座り込みながら抱きしめる。
でも次の瞬間に銀の握っていたアレが消えた。
「こんにちわ。エルデナ。」
わたしは泣いた。
ルカはまた抱きしめる。
「あー心配した?。コウも。」
わたしはただただ泣いた。
泣いて泣いて泣き疲れるまでに泣いた。
「はい。」
今のわたしは泣くしかなかった。
少女は今はただ泣いた。
今は泣くしかない。