アミンバース物語:第3話
惑星〈ルオ=シェルタ〉は、雨が光を帯びて降る世界であった。空から落ちる雫は、すべて淡い青や桃色に輝き、地面に触れると小さな音を立てて弾ける。その光の雨が降るたびに、街は静かに明るくなり、住民たちはその光を浴びながら穏やかな日常を過ごしていた。
この星に暮らす種族〈ミルナ〉は、丸みを帯びた身体に柔らかな膜を持つ非人型生命体である。彼女たちは声帯を持たず、身体の色と振動で感情を伝える。色が濃くなるほど強い感情を示し、淡くなるほど落ち着きを表す。
若い女性〈リィナ〉は、街の中央にある〈雨光の庭〉で働いていた。庭は光の雨を集めて植物を育てる場所で、ミルナたちにとっては憩いの場であり、祈りの場でもあった。庭の中央には、古代から伝わる石碑が立っている。
――〈パーカー・アミン〉
――〈パーカー家〉
――〈光は日々を照らす〉
この石碑は、ミルナたちが毎朝祈りを捧げる場所であった。リィナもまた、仕事の前に必ず石碑の前に立ち、身体を淡い金色に染めて祈りを捧げる。
「今日も、穏やかな一日になりますように……。」
ミルナたちは、パーカー・アミンを“日々を照らす神”として崇拝していた。彼が宇宙を守る神族の長であり、パーカー家がその血統として神聖視されていることは、この星でも広く知られていた。
リィナは庭の手入れをしながら、光の雨が降る音を聞いていた。雨が葉に触れるたびに、柔らかな音が響く。その音は、まるで誰かが優しく話しかけてくるようで、リィナはその時間が好きだった。
ある日、庭に新しい見習いがやってきた。名は〈ソルナ〉。身体は淡い緑色で、まだ感情の色が安定していない若いミルナだった。
「今日からよろしくお願いします、リィナさん……。」
ソルナの身体は緊張で少し濃い緑に染まっていた。リィナは優しく身体を金色に揺らし、安心の色を返した。
「大丈夫よ。ここは静かで、優しい場所だから。」
ソルナは少しだけ色を薄め、ほっとしたように揺れた。
その日から、二人は毎日一緒に庭の手入れをした。光の雨が降る日は、雨粒を集めて植物に与え、晴れの日は葉の影を整えた。ソルナは不器用だったが、真面目で一生懸命だった。
ある日、ソルナが小さな声で言った。
「リィナさん……私、まだ祈りの色が上手に出せなくて……。」
リィナは微笑むように身体を揺らした。
「色は心が決めるものよ。無理に出そうとしなくていいわ。」
ソルナは少し考え、石碑の前に立った。身体は淡い緑のまま、ほとんど変わらない。それでも、彼女は静かに祈った。
――パーカー・アミン様……どうか、私の心を導いてください。
その瞬間、光の雨がふわりと強く降り注ぎ、ソルナの身体が柔らかな金色に染まった。リィナは驚き、そして嬉しそうに揺れた。
「ソルナ……あなた、できているわ。」
ソルナは自分の身体を見て、ゆっくりと色を揺らした。
「……本当だ……。」
その日から、ソルナの色は少しずつ安定し、庭の仕事も上達していった。リィナとソルナは、光の雨の下で笑い合い、時には静かに祈り、時には植物の成長を喜んだ。
ある夕暮れ、リィナはソルナに言った。
「あなたと働く日々が、私の光を強くしてくれているの。」
ソルナは身体を淡い桃色に染めた。感謝の色だった。
「私もです、リィナさん。ここで過ごす時間が、私の心を温かくしてくれます。」
光の雨が静かに降り続ける中、二人は庭の中央に立ち、石碑に向かって祈りを捧げた。
――〈光は日々を照らす〉
――〈パーカー家の名は、迷う者を導く〉
その言葉は、二人の心に静かに染み込んでいった。
こうして、雨光の庭で過ごす穏やかな日々は、二人にとってかけがえのない時間となり、彼女たちの光は少しずつ、確かに強くなっていった。




