借金の肩代わりとしてパーティーから追放された俺、地下闘技場で戦って魔法少女の才能に目覚めたため杖と身体に魔法を込めて戦います!!②
地下闘技場、王族や貴族の娯楽として建てられたこの場所で行われるこのトーナメントを勝ち残った者には、賞金に加えて地上行きなどの特典を選ぶことができる。パスクが来た頃に大会の運営者がそう話したのを彼は覚えている。だから地上に出るために必ずトーナメントに勝ち続けると心に決めていた―
「まぁ、無理だろうな。」
チェルノートが呆れたようにパスクに話す。魔物との戦いの後、パスクが運ばれた治療室には多くの怪我人がいるが、就寝時間ということもあり皆眠っている。彼らを起こさないようパスクが小声で話す。
「はぁ?無理はねぇだろ。運営者の奴もそう言ってたんだし…」
「確かにそいつが言うことも完全な嘘ではないだろうな。だが優勝するのはほぼ不可能だ。」
チェルノートが小声で話を続ける。
「まず、トーナメントで戦う相手は借金で売られた奴以外は好戦的な殺人鬼や強力な魔物だ。坊主もいくらか腕がたつが今のままだとすぐにお陀仏だぜ。次に、坊主は言われてねぇだろうがトーナメントで勝ち残った奴は最終的に大会の運営者と戦うことになる。そいつに勝てば優勝になるだろうが、今まで相手にして勝った奴を俺は知らない。」
「運営者とも戦うのかよ。やっぱりそう簡単に地上は拝ませねぇんだな。」
「そうだな。多分相手は生かして地上に出したくはないんだろうよ。」
そしてチェルノートはパスクの顔を見ながら少し悩んだ顔する。首をかしげるパスクに数秒経った後チェルノートが真剣な眼差しで話す。
「…なにせ運営に悪魔たちが紛れ込んでいるからな。」
思わず叫び声が出そうになった口をパスクが塞ぐ。悪魔を始めとした魔物は人の血肉を糧として人類に数え切れない被害を与えてきたため討伐対象とされており、パスクたちがいる国も悪魔と徹底抗戦する事を宣言している。その悪魔たちが王族や貴族が娯楽として訪れる闘技場にいるなんて。
「それって、獅子のやつみたいに魔物の出場者扱いってことか…」
「そういうわけでもない。出場者の奴もいるかもしれないし、運営者の奴もいるかもしれない。なにより奴らは人間に似せていて紛れているから誰が悪魔かすら直ぐには判断できない。」
やや悔しそうにチェルノートが語る中、まだ実感のわかないパスクが話す。
「でも奴らは何でこの地下闘技場にいるんだ!?」
「さぁな、さすがの俺でもわからねぇ。だが悪魔が闘技場にいること、それだけはわかる。」
チェルノートの話を聞いてパスクが考え込む。なぜ王国の重要人物が訪れる闘技場に悪魔がいるのだろうか。仮に悪魔がいた場合どこの誰なのだろうか。そもそも同じ悪魔であるチェルノートはなぜこのことを人間である自分に話したのだろうか。目の前にいるネズミの姿の悪魔は一体何者なのか。元々考え込むのは得意ではないパスクの脳内に情報と疑問が濁流の様に流れ込み、頭が重たく感じたパスクは倒れるように粗末なベッドに横になった。
ふとパスクが目を開けるとあたりで怪我人が雑談をしていたり、看護師が資料に軽く目を通しながら素早く歩いたりしている。いつの間にか起床時間を過ぎていたようだ。地下にある闘技場の照明はランタンなどで日の光が一切差さず昼夜が非常にわかりづらい。不便に感じながらパスクが両手を天井に伸ばしたその時、横に自分を見つめる人がいることに気づいた。中性的な顔で黒色の髪を腰まで伸ばしたその人は、椅子に座っているも今にも飛び込んできそうな体制で目を光らせながらパスクの方を見ている。
「うわわぁぁぁぁっ!!」
パスクがベッドから飛び出すかのように移動してその人から距離をとる。
「な、何なんだ!お前は!!」
パスクの叫び声に黒髪の人はきょとんとしていたが、宙を見つめながら自分の行動を顧みたのち
「…あぁ!ごめんごめん、びっくりしたよね。」
と中性的な声で話す。
「あの魔法と肉弾戦!!君の戦いすごかったよ!見ていてとってもワクワクした!!」
「見ていたって…お前まさか観客なのか。」
「観客とは言っても貴族のような偉い人じゃないかな。出場者でも闘技場の光景が見れる場所があるんだよ。いろんな戦いが見れて面白いから今度連れていってあげるね。」
「そ、そうか、ありがとう。ええっと…」
いまだに戸惑いが消えないパスクに黒髪の人は子供のような笑顔で話した。
「僕はアン、君と同じでこのトーナメントの出場者さ。」
突然の訪問者に驚くも、パスクはお互いのことについて話し合った。アンは両親から酒代のツケとして闘技場に売られてきたらしく、魔法が多少得意だったため1回戦でも何とか勝ち抜くことができたそうだ。そして治療後に移動している際、偶然闘技場を眺めることができる場所を発見してパスクの試合を見たのらしい。
「君が急に変身したときはびっくりしたよ。魔法が当たらなかったときはヒヤヒヤしたけど、拳に魔法を纏って殴るのは初めて見たし本当にすごかった。」
頬を赤らめ瞳を光らせながらアンが話すのを見て、パスクの口角も少し上がる。
「僕もいつかやってみたいなぁ。誰かに教えてもらったの?それとも我流?」
アンの質問にどう返答すべきか少し迷う。アンは闘技場に悪魔がいることは知らないだろうし、今すぐにネズミの姿をした悪魔から教わったと言っても混乱を招くだけだ。
「…闘技場にぶち込まれた直後に使えるようになっていたんだ。あの魔物に初めて使ってみようと思ったけど、魔法の使い方もわかんねぇし危うく死ぬとこだったぜ。」
チェルノートのことは伏せたパスクの回答に、アンがそんなことがと不思議そうに頷く。しばらくしてアンがパスクに声を掛ける。
「もしよかったら君の魔法を見てもいいかい。こう見えて魔法の研究が好きだから、何か君の役に立てるかもしれない。」
「マジか!ありがとう!俺なんて魔法なんて全然わかんねぇから助かる!」
嬉しそうに話すパスクの声にアンが照れくさそうに笑う。その後集合場所と日時を確認して、アンは用事があるらしいためここで別れることになった。アンが治療室を去る直前、パスクに向けて手を振りながら話す。
「今日は色々とありがとう!また会うね!」
パスクもアンに手を振り返す。そうしてアンが去ったあと、パスクの布団から話を聞いていたチェルノートが顔を出す。
「おいおい坊主、あいつも出場者だろ。戦うかもしれない相手に特訓してもらって大丈夫なのかよ。」
チェルノートの言葉にパスクが笑みを浮かべて返事をする。
「まぁ、問題はねぇよ。逆にアンのことだって何か知れるかもしれねぇし、それに地上に出るためにはもっと強くなった方がいいしな。」
それを見てチェルノートは表情を緩めて話す。
「まぁそうだな、トーナメントでの優勝はあくまでサブプランだ。メインプランをやるには少しでも仲間が多い方がいい。」
「メインプランってなんだよ。」
疑問に思うパスクにチェルノートが笑みを浮かべて答える。
「地下闘技場の監視をかいくぐって外に出る…要は脱出だ。」
治療室でパスクと別れ、ランタンの灯りだけが照らす薄暗い通路をアンが飛び跳ねるように歩く。
「パスクかぁ、面白い奴だったな。」
蟻を見つめる子供のように笑顔を浮かべたアンは更に暗くなる通路の先へ進んでいった。
小設定
①イルファ王国
パスクたちが暮らす王国のこと。建国当初はあまり裕福な国ではなかったが、物語開始から数百年前に当時の国王、ジョアム1世により穀物の生産性増加や魔法の発展など様々なの政策が行われ、それらが成功して王国が繁栄していった。




