借金の肩代わりとしてパーティーから追放された俺、地下闘技場で戦って魔法少女の才能に目覚めたため杖と身体に魔法を込めて戦います!!①
「ちくしょう!!」
石が積まれて出来た壁に拳を叩きつけながら赤髪の少年パスクが怒鳴る。拳を叩きつけたい相手がいないこの地下牢では壁を殴っても、天井から水滴が落ちるのと隣の牢屋から抗議の声が飛んでくるぐらいだ。
「次にあいつらの顔を見たときにはぶん殴ってやる!」
そう叫びながら怒りに任せて行動するも段々と怒るためのエネルギーも減ってきてしまってので、仕方がなく藁の寝床に乱暴な動きで横になる。
元々パスクは幼馴染であるモーク、ジェーナ、ウィンデスとパーティーを組んで魔物の討伐や遺跡の探索などを行っていた。リスクのある仕事だがやりがいもあったし、彼らと一緒に過ごす日々は楽しくはあったが一つ問題があった。モークは酒と女に、ジェーナは宝石と衣服に、ウィンデスは賭け事に湯水のように金を使ってパーティーは大量の借金を抱えていたのだ。毎日借金の催促が来ても浪費生活は続き、遂に食料も買うことができなくなった時、リーダーであるモークが全員を集めて借金を返済できる方法が見つかったと話した。パスクが方法を尋ねようとした瞬間、魔法使いであるジェーナがパスクを魔法で拘束したのだ。
『どういうことだ。』
と尋ねるパスクにモークがばつの悪そうなふりをして話す。
『悪いパスク、その方法がお前を地下の闘技場に売ることなんだ。』
地下に賭博目的で違法に運営されている闘技場がある、という噂はパスクの耳にも届いていた。魔物や借金を返しきれないもの、凶悪な犯罪を犯した者が日夜殺し合いを行っており、貴族や王族などの有名人物も賭け事に参加しており取り締まることもできないらしい。
『でも、そんなは噂のはずで…』
『いやぁ、俺も噂だと思ったんだけどね。昨日金を借りてる貴族から闘技場の話が合ったんだよ。』
『ちょうど1人分今回のトーナメントで枠が開いているから借金返済のためにそこに出ないか、って言われたのよ。ギャラだけでも借金は消えるしね。』
『でも、なんで俺なんだよ!』
モークとジェーナの言葉にパスクが疑問を投げかける。
『まぁ、お前は金遣いは荒くない。むしろ見習いたいほど健全な方だ。しかしお前とウィンデスは戦士で役割がかぶっていてウィンデスのほうが力がある。俺もジェーナも固有の役割だから行きたくない。だったらもうお前しか送れる奴がいなくなっちまったんだ。』
『その後モークは私とジェーナにこのことを事前に伝え、君を拘束して闘技場へ渡すことに合意したのです。君のおかげでパーティーのピンチを乗り越えることができましたよ。』
確かにモークやウィンデスの言うとおり、パスクはジェーナのように魔法が使えず、モークやウィンデスほど力があるわけでもない。しかし、だからといってこんな扱いをされていい気分ではない。何んとか魔法の拘束から逃れようともがくパスクにモークがゆっくりと近づく。
『…というわけだ。パスク君は頑張って地下闘技場で生き延びてくれたまえ。』
それと同時に魔法の拘束が強まってパスクの意識が薄れゆく中、モークが冗談めいた口調としぐさでパスクに話して、ジェーナとウィンデスがパスクに対してふざけたように鼓舞するしぐさを行う。
次合ったら全員ぶん殴ってやる。
そう心の中で強く思いながらパスクの意識は消えていった。
こうして借金の肩代わりとして地下に連れて来られたパスクは責任者らしき男から闘技場のルールとして、相手の戦意を喪失させた者―もちろん相手の殺害も含む―が勝ちであること、そのための手段は問わないこと、また勝ち続けるほど自分の報酬や待遇が向上し、地上に出れるかもしれないことを伝えられ、試合があるまで牢屋にぶち込まれた。こんな扱いを受けた上に地下で死ぬのはごめんであり、何よりパスクの性格上、戦いで簡単には負けるつもりはない。かつての仲間たちに怒りをぶつけることを中断し、軽く体を動かそうと起き上がったその時、
「よぉ坊主、えらく張り切ってんじゃねぇか。」
と地面から中性的な声が聞こえる。この牢の中には自分しかいないはずだと驚愕しながら声のした方を見ると、50cmくらいの桃色のねずみが立っている。つぶらな瞳を持つねずみには悪魔のような長くて先が尖った尻尾や小さな角、蝙蝠のような羽が着いている。目を見開くパスクに
「初対面でそんなに見られるのは少し恥ずかしいぜ、坊主」
とねずみが言葉を続ける。
「しゃ、喋った!?!?」
「おいおい、別に喋ったっていいだろ。」
パスクが驚いて叫んだことに不満そうにねずみが返す。
「俺はチェルノート。かつては名の知れた悪魔だったが、今じゃこんな薄暗い地下で暮らしてるのさ。」
悪魔は魔物の中でも高位の存在であると同時に人間に数多の厄災をもたらした存在であり、必ずその名が記録されるが、チェルノートという悪魔の名前は聞いたことがない。本当に悪魔なのか疑問に思ったその時、遠くの方から音楽と歓声が微かに聞こえてきた。同時に周りの牢屋の空気が重く感じる。
「ちぇっ、もう始まったか。世間話も出来やしない。」
とチェルノートが呟くとパスクのほうを見て質問をする。
「簡潔に聞く。坊主、この闘技場から出たいか。」
「あぁ、必ず地上に出て、俺を売ったあいつらをぶん殴ってやる。」
問いに即答したパスクを見てチェルノートがニヤリと笑う。
「よし、お前には魔法少女として俺の力を使える才能がある。お前に力を貸すから代わりに俺も地上に出させろ。」
そうチェルノートが話した直後、甲冑姿の兵士がパスクの扉を開ける。その隙にチェルノートがパスクの胸ポケットに入り込む。
「出ろ、最初の試合だ。」
チェルノートにいろいろ聞きたいことがあったがこの状況では仕方が無い。パスクは兵士に連れられて闘技場へと向かっていった。
しばらくランタンがぶら下がった通路を歩いた後、パスクの視界が開けると同時に歓声が聞こえてくる。地下にいることを忘れるほど巨大な空間は大量の照明で昼間のように明るく、パスクのいる地面を円形に囲む壁の上には仮面をつけた人々が叫んでいる。闘技場に入ったパスクの背後ではゆっくりと鉄格子が降りて退路を断ち、同時に反対側のの鉄格子が上がりそれがゆっくりと闘技場へ向かう。6メートルはあるであろう巨体、返り血で赤黒く染まった鬣、獅子の見た目をしたその魔物はパスクを見て涎を垂らしている。獅子から隠すことなく溢れる殺気を受けて、パスクはこれまで自身が戦ってきた魔物のどれよりも圧倒的に強いことを悟る。加えてパスクに武器は支給されてない。しかし生きて地上に戻るためにまずはこの魔物に勝つしかない。パスクが呼吸を必死に整える中、ポケットから声が聞こえた。
「聞こえるか坊主、お前に力を貸してやる。」
チェルノートの声とともにパスクの体を白色の光が包む。魔物が警戒し会場がざわめく中、パスクの体に膝くらいの丈の水色のスカート、両肩と胸元に白色のリボンがついた半袖の服、両腕に白色のリボンのついたリストバンド、後頭部に白色のリボンが次々と現れる。最後に白色のハートがあるステッキが右手に現れパスクの魔法少女への変身が完了した。
元々パスクは身長が高めでがっしりとした体格であり、魔法少女の服はあまり似合ってない。しかしそんなことを考えている余裕は今のパスクにはない。パスクの脳内に多くの魔法の発動方法が自然と流れ込んできている。
「どうだ。新しい力があふれてくるようだろう。」
杖からチェルノートの声が聞こえ、パスクが驚愕する
「この時は杖に変身してるんだ。それよりも攻撃と行くぞ、坊主!!」
突進してくる獅子の魔物を狙ってパスクがステッキを構える。炎の呪文を不慣れな中で詠み、ステッキの先に火の玉が現れる。後は発射をするだけだ。しかし放った炎は魔獣の真横を通り過ぎて壁に激突する。そのすきに魔物が距離を詰めてパスクに爪を振るう。何とか回避するが頬を軽く引っかかれ血が流れる。
「おい!外してるぞ!」
「大丈夫だ、次は必ず当てる!」
チェルノートの声にパスクが返して、ステッキから炎を再び出す。完璧に狙いを定めて発射するも再び魔法は魔物に当たらず、魔物からの攻撃を必死に回避する。
「また外したじゃないか!」
「あれ…おかしいな。このステッキ壊れてるんじゃないか?」
「そんなわけあるか!坊主が下手なだけだ!」
チェルノートと叫び合いながらパスクは更に魔法を撃ち続ける。しかし多くの種類の魔法をどんなに近くで撃っても、6メートルもある魔物に当たることなくそれて行ってしまう。魔法は体力を魔力に変換して撃っているため、魔法を撃ち続けているうちにパスクの体が徐々に重くなる。その結果、回避が間に合わず魔物の爪がパスクの腹部に激突した。パスクが吹き飛んで地面に転がりながら倒れて、攻撃された腹部からは血が滝のように流れてくる。痛みと出血で立ち上ろうとしても上手く出来ない。その間にも魔物は牙を近づけてパスクを食べようとする。逃げろというチェルノートの叫び声もパスクの意識が徐々に受け付けなくなってきている。このまま自分は喰われるのだろうか。そうぼんやり考えながら魔物の口を前にしてパスクの目は閉じかけた。
「まだ、だ…」
パスクの喉から声が漏れ、泊まりかけた体を無理やり動かす。あんな形で別れてしまった地上にもう一度戻りたい。だからこそ此処で死ぬわけにはいかない。その思いと連動するようにパスクの右手から魔法によって炎が上がる。それを見た獅子の魔物がパスクを食べるのを中断して後退しようとした瞬間、
「ぅぁああああぁ!!」
と雄たけびをパスクが炎に包まれた拳が魔物の顔面を直撃する。拳を喰らった魔物は牙の何本かが欠けた上に、拳の炎が鬣や体に燃え移りながら大きく吹き飛んだ。吹き飛ばされた魔物は炎に包まれる中でも必死に体制を直して最期のあがきとしてパスクに突っ込もうとする。パスクも体が既に限界だったが、魔物の爪が振り下ろされる瞬間に、ステッキごと拳に炎を宿して魔物めがけて投擲した。勢いよく飛んだステッキが魔物の右眼に深く突き刺さったことで、魔物が激しく暴れてそのうち動かなくなっていった。暫くの沈黙の後、闘技場全体を震わせるかのような歓声が響いた。歓声の中でパスクは肩の力を抜き大きく息を吐きだすも体に限界が訪れそのまま横になった。
「全く、俺を魔物に刺すとはなんてことを…」
観客たちが気付かない声量でチェルノートが不満そうに話すも、パスクの方を見て
「しかし、魔法を自身の体に纏うとは…やっぱり見る間違えてなかったな。」
と明るい声で話した。




