せめてあなたのそばに
彼は背中に傷がある。
彼は、剣士だった。
とある国で。
私は剣を持たない。
私はペンを持つ。
彼を弁明するために。
背中を伝う。
彼が起きようとしている。
私は、ゆっくりとその場を離れた。
もう、私ったらなにしてるんだろう。
「おはよう」
旦那に告げる。
彼は起きたのか聞いてくる。
そうなのだ。
彼は、戦場に行ったきり、帰ってきた。
そして私たちを守っている護衛人になった。
深くは言えない。
「風呂に入りたい」
「二人の仲は変えたくない」
「知っている、夜にお前がいることを」
壁合わせで会話をする。
幾年月前、彼を孤児院で引き取った。
それから、彼は若くして戦死になった。
どんな世界、生活であったのか、私はどうしようもできない。
「それでも、特攻隊長だわ」
「わかっている、泣いていることも」
声は届いていないと思っているのかもしれない。
でもわかるの、彼が自分の肉体を抱きしめているところを。
彼は戦場帰りである。
指揮はトップクラス。
武術、剣術、その他もろもろ、なにもかもが天才の領域だ。
だから。
彼を守りたいことがある。
精神面のほうだ。
他が犠牲になったときに激高する。
そんな生活が見ていられない。
どうすることもできない貰い手だった。
だからその人柄で、戦場までたどり着いた。
私は……
彼を……
救いたい。
彼を見る。
風呂から上がった後、いつも涙袋が膨らんでいる。
これが戦場帰り!
アツアツとしてくる。
これが女性。
どうしようもないの、こんなこと。
いつものように、声をかけた。
「ちょうどよかった?」
「ああ」
別のことを考えている。
そうしてこうなるのだ。
「飴が欲しい」
ちいさなころに戻っていたことを忘れていた。
そんなことも思い出せない人間になった。
調査表のことを忘れていたのだ。
「飴が欲しいよ」
「買ってきてあげる」
「ほしいんだ」
指を舐める。
そういえば彼にはこんな時期はなかった。
だからなの……
ある日、新聞を読んでいた彼。
止まっていた。
敗戦の知らせである。
よそよそと、ベットに戻る。
「があああああああああああああ、私が育てた国があああああああああああ」
泣き叫んでいる。
私は何があったのかわからない。
そんな彼がどうなっていくのか。
どうか希望をつかんでね。