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竜に願いを問うならば  作者: REN
1章.過去の咎
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07.呼び起こされる記憶の中で

「すまないな、食事まで世話になって。」


「いい、どうせあの大きさの猪は一人じゃ食べ切れないからむしろ助かったまである。」


しかし話はそれきり、特に話すこともなく私は黙々と食事を摂っていく。


「…なあ、竜に関するものは見つかったのか?」


が、少し経つとこの無言を続けたくないのか話題作りの質問が飛んでくる。


「...ああ見つかったよ。」


私は口から言葉を絞り出す様に、力なくそう返事をした。

何故だろう、ここまで彼の正体を知っておきながら冷静に対応出来ているのは。未だに()()事実が信じられないせいか、それともその事実を理解し怒りで震えているのか。


「良かった、実はさっきまで見つからなかったらどうしようかと心配してたんだ。でも見つかってんのなら安心した。」


ああ、駄目だ。先ほど彼の顔を見た瞬間から憎悪が止まらない。もし寸分でも気を抜けばその刹那有り余る憎悪が奴に向かって剣を振るい、復讐を果たしてしまうだろう。


「...あ、そう言えばアンタはこれからはどうするんだ?...っともし泊まる所がないんならうちを使ってもいいぜ。家には結構空き部屋あるし──」


…息が、荒い。


「なあ、さっきから俯いたまま喋って...気分でも悪いのか?少し休んでから──」

「ふざけているのか?」


もう無理だ。我慢が出来ない。


「...え?」


そして決壊した川の様に、次々と言葉が溢れ出てくる。


「八年前お前の所為で何人、いや何万人殺されたと思っている?そして私を知りながらものうのうと…心底腐った奴だよお前は。」


「いや...何言って──」

「そうやって()()()もそうやって私達を騙して見殺しにして、お前は幻術を自身に使って逃げたんだよなぁ。でもな、今日お前を見つけられたお陰でようやくあいつ等に花を手向けられそうだ。」


「あ、あの意味が──」

「まだとぼけるのかお前は!!」


思わず、声を荒げてしまう。

あ…そうだった、奴は幻術使いだった。きっと自身の記憶を無くすことで私の追及から逃れようとしているのだろう。

だが、同じ轍は踏まない。


「八年考えてもお前の目的が私には分からなかった。だから、だから最期に教えてくれよブランジャール=イージス。八年前、何故あんな事件を起こしたんだ?」



対象の真名。それは幻術を解く解呪の言葉。






~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・






瞬間、視界が暗転した。


「アッ、はっァ──」


何か、得体の知れない何かが濁流のように流れ込んで来る。


『■あ、■ージス、今日■■段と機■が■■ね。』


これ...記憶か?


『イージス、そ■の■■頼む。』


何だよ、一体何が起こってる?


「お前には聞きたいこと山ほどあるんだよ、イージス。」


騎士は侮蔑したような表情で俺を見つめてそう言う。


「違う俺は、イージスじゃ、ない。」


俺の名前はレインだ、イージスなんて名前で呼ばれた覚えはない。

騎士は俺がイージスって人だと思ってる。けどそれはきっと人違いだ。だって今まで俺はそんな奴のことなど露知らずに生きて来たし、俺が子供の時の記憶も知っている。

それに俺には家族も──


「...あれ?」


思い出せない。

思考に靄がかかっている。父さんのことを思い出そうとしているのに何故か霧のような...不明瞭な何かが邪魔している。

いや、いや、大丈夫だ。一つ一つ整理していけば必ず思い出せる。父さんは学者で...家出てって………




...いやそもそもこいつ父さんだったっけ?




「ふむ、これだけ長い時間幻術にかかっていたとなると…以前の自身の記憶に自我が抵抗して上手く同期出来ないのか。...でもまあ時間の問題か、じきに全て思い出すよ。」


「俺は…いや違う!」


きっと、きっと何かの間違いに決まってる。

なんでも、本当になんでもいい。なにか俺を証明できるもの...


「なっ…」


走った。何も分からず本能が求めるままに全速力で走った。

俺が俺であることを知りたいがために。間違いだと、そう信じたいがために。


「ハァ...ハァ──ぁ」


そして気づいたら父さんの部屋にいた。


「…これ」


ある。この先の、あの机の中に何かがある。

何があるのかはわからない。だけど俺の穴を、俺に()()()()()()を埋めてくれる物がそこにある気がする。

朦朧とした意識と頭痛に悶える体に鞭打ってなんとか机に寄り、その引き出しを開ける。


「何これ...宝石か?」


透明の水晶に薄く赤色が混じっていて、自然のものとは思えないほどに綺麗。

宝石を手にとって、顔の近くに持っていく。一目のうちに、俺は今までのことも忘れたかのようにその宝石の虜へとなっていた。


「──っ!お前その石に触れるな!!」


「えっ...」


ビクンと身体が強張って、(うつつ)に意識が戻る。


「今すぐその手を離せ!」


彼女の鬼気迫る表情は、恐怖すら覚える程に必死だった。

無意識に身体が引き締まって、宝石にかかる力が強くなる。

嫌だ。この宝石だけは渡さない。これを取られたら俺はもう自分を保っていられない気がする。だから騎士に向かって叫ぶ。


「もう俺に近寄って──」


すると願いに呼応するかのように、宝石が光を出し俺を包み込んだ。






~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・






奴が持っている宝石が眩く光を出し始める。

まずい、これは本当にまずい。

大きく踏み込んで抜刀。まだ今すぐに接続を切れば──


「…っっ!!」


が、急激に膨張する肉体がそれを阻み、カウンターの様に振り払われた奴の身体によって私は跳ね飛ばされて家を突き破り、近くにあった木に激突する。


「ぐっ…遅かった…!」


振り払いだけでこの威力。やはりその名は伊達ではない。

膨張は天井を突き抜けた所で止まり、そしてスペースに余裕が出来たのか()()は背中の大翼を広げその全貌を露わにする。

体は鱗に覆われ、尻尾は鞭の様に波打ち、頭には神々しさすらも感じる二対の角。


「…化物め。」


立ち上がり私は改めて()()(ドラゴン)と相対する。

その巨躯から放たれる咆哮に私は少し身震いが起こったものの、それは一瞬のうちに静まり逆に心から溢れ出る憎悪がその身を覆い尽くす。


「来な。」


それだけ言って、私は地面を駆けた。

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