EX.出会い
「っし、まあ今日はこんなもんだろ。」
畑仕事を終え、ひと息つこうと近くの木陰に移動する。
もうだいぶこの生活にも慣れてきた。最初は分からないことだらけで皆に迷惑かけてばっかだったけど、今では仕事が身に染みてきてほんの少しではあるが時間の余裕も生まれ始めている。
「お、今日はもう終わりかい?」
ふいに声をかけられた。
「はい、だいぶ作物の調子も良いですしもう今日はそこまでやることも無いので早めに切り上げようかなと。」
「そうか、中々好調みたいで良かったよ。っとそうだ、暇なら近くに張ってる罠の様子見てくれねぇか?最近俺ぁ腰やっちまってよぉ…もし動物がかかってたらそれやるから行ってきてくれねぇか。あ、でも大物かかってたら少し俺にも分けてくれよ!」
「あはは了解っす、じゃあちょっと見てきますね。」
木陰から立ち上がり、森へと向かう。
ここの人たちには来た頃から今まで物凄くお世話になっているし、こう言う暇な時間に恩返しの一つでもしておこう。
「ナイフは...よし、あるな。」
この集落周辺は近くが森に囲まれてるとだけあって畑を荒らす害獣がよく出る。当然俺たちは黙って見ているだけ、と言う訳にもいかず罠を仕掛けて返り討ちにする。獣肉は家畜に比べて少々臭みが強いがしっかりと血抜きすれば全然気にならなくなる。
「ここは...かかってないか。」
罠が張ってある場所を見て回る。仕掛けた罠に動物がかかっている確率は体感にして大体1割弱。最近は動物の方も学習して来た様で誘引用の餌だけ上手く喰われていたり、罠にかかっていても力ずくで壊されてしまうことがある。
「これ結構錆びてんな...まだ大丈夫そうだけどもうじき取り替えるか。」
分かりやすいように小さな印を付け、その場を後にする。この辺りにはあと1つか2つ仕掛けてあったはずだ。
確かここらの道の脇らへんに…
「お」
かかっていた。
それも小さな猪が一匹。
猪は罠から抜け出そうと派手に暴れたのか、足元は血で汚れている。
「あー可哀想に。今楽にしてやるからな。」
懐からナイフを取り出し、心臓がある辺りに狙いを定める。
殺す時は確実に、無駄な苦しみを与えぬように。
「ふう…」
取り敢えず一発で仕留められて良かった。こっから解体なんだが…どうするか。もう結構血出てるしここで血抜きくらいは終わらせ──
その時、横腹に衝撃は走って俺は二、三メートル程吹き飛ばされた。
「痛ってぇ...」
あー忘れてた。
「そりゃ子供いたら親もいますわな...」
クソ、仕留める時もうちょっと周囲に気を付けるべきだった。親猪は子を殺されて相当気が立ってるらしく、恨みを晴らそうと再度突進の構えに入る。
どうしよう、突進と同時に身をよじって横へ避けて全力で逃げれば何とかなるだろうか?
がそんなこと考える間もなく、親猪は再度俺に向かって突進を開始する。
「やばっ──」
まずい反応が遅れた。これは当たっ...
「...あれ?」
しかしいつまで経っても俺に衝撃は来ない。
何が起こったのかを把握しようと、無意識下に閉じていた目を恐る恐る開ける。
「血の匂いがしたので何事かと思い来てみれば...大丈夫か?」
俺の眼前には、剣で猪を仕留めている白銀の騎士が立っていた。
「怪我は無いか?」
「え、あ、はい。多分打撲はしてるけど...大丈夫です。」
「一応ちょっと見せてみろ。」
そう言って騎士はそのままではやりにくいのか兜を外して俺の手を見、そして靴を脱がして足を見る。
「…少し危ない所を怪我しているな、ここは放置しとくと骨がやられるかもしれないから手当てをしておこう。」
騎士は腰に備え付けられているポーチから何やら包帯と薬液?みたいなものを取り出して俺に手当てしてくれる。
...その間、特にやることも無いので騎士の顔を見る。
長い白髪の髪から覗く燃えるような紅色の瞳に、堅々しい鎧には似合わない華奢な身体。
意外にも、その騎士は女性だった。
…?でもなんでだろう、この人なんか見覚えがあるような気が──
「良し、簡易的だが処置をした。歩けるか?」
手を貸して貰いながらも立ち上がる。素早く処置をしてもらったせいか、体にあった痛みはびっくりするほどなくなっていた。
「あ、ありがとう。色々助けてくれて。」
「気にするな、そこまで褒められる事はしていない。」
そして騎士は猪に刺さっている剣を抜き、血を払ってから鞘にしまう。
その綺麗で洗練された動きに、俺は見惚れてしまっていた。
「…少し聞きたいことがあるのだが。」
その声で現実に引き戻される。
「突拍子もない質問で申し訳ないのだが、この近くに竜が出ると聞く村はあるか?」
「竜?いや、俺の所じゃ聞かないな。」
竜、それは魔獣の中で最高位に位置する生物。俺は実物を見たことがないので本で知った話にはなるが、竜はそれ単体で圧倒的な力を持ち、上位に位置する種は一夜にして国を滅ぼしたと言う伝説も聞く。
しかしはたまた竜とは...何故そんなものを。
「あ、でも父さんが研究者だったから...もしかしたら部屋に行けば何かあるかも。俺はこれから村に戻るし、もし良かったら家に来るか?」
それに助けてもらったのに礼もせずに帰るってのも気が悪い。
騎士は少し考えた後、
「ああ、言葉に甘えてそうするよ。」
と快い返事をしてくれた。そして、
「遅くはなったが自己紹介をしておこう、私はリア=ラムルベル、しがない騎士だ。リアと呼んでくれて構わない。」
「ん、ああ俺はレイン。よろしくな。」
その騎士の名前を知ったのだった。
実はこの話伏線結構張ってたりします。