05.決着
決める。
地上では土に阻まれ攻撃出来ないだろうが、空からならやれる。
【──Ανοιχτό】
そう言い放った直後、身体中の魔力が瞬く間に”風”に変換され、生まれた爆発的な風力が私を押し飛ばした。
「ハァ──ッ!」
「な──」
起死回生、反撃の一撃。
それは魔術師の左胸を抉るように大きく切り裂いた。
「…ゴフッ」
魔術師は体制を整えようと私から離れる。が左胸が消し飛んだせいか自身の体を支えることが出来ず、数歩下がった所で地面に倒れこんでしまう。
「クソッ…」
「首を飛ばそうと斬ったのだが…少々手元が狂ったか。だが観念しろ、終わりだ。」
魔術師の下へと歩み寄り、その首元に剣を構える。
「最期何かに言い残すことはあるか?」
「へ、へへへっ、卑怯なヤツだとは思ってたが、まさかここまで卑怯だったとは驚きだわ。まさか体の内側にそんなモン隠してるなんて誰が気付くよ。」
「切り札は隠し持っておく、戦いにおける定石だろう。」
「はっ、そうかよ、どこまでもいけ好かない野郎だ。...でもいいさ、俺はもう石に生気を殆ど吸い取られちまってんだ、お前が来なかったとしても遅かれ早かれどうせ俺は死んでたんだんだろうし、ここが丁度いい幕切れってことで潔く死ぬとする。」
「...っ!お前気付いて居ながら何故──」
「自由に生きたかったんだよ、誰の束縛を受けることなくな。俺の人生の半分は死んでた様なモンだったんだ、どうせ死ぬなら余生はパーッっと行きたいだろ?お前もソレ持ってんなら少しくらい俺の気持ちは分かるはずさ。」
「...そうだな。無駄なことを聞いてすまなかった。」
剣を上げ、せめて最期は無駄な苦しみを与えぬようにと、勢い良く首に向かって振り下ろす。
「でも…最後に一つ聞かせてくれよ。お前はソレ持ってんのに何故こんな事ができ──」
剣に付いた血を払い、鞘へと戻す。
そして、主が死んでも尚煌々と輝き続けている魔晶石を回収する。
…今更言っても聞こえないと思うが、この質問には答えてやらないときっと浮かばれるものも浮かばれないな。
「私は約束したんだ、だからここで剣を振るってる。理由はと言うのはそれ以上でもそれ以下でも無いさ。…強いて言えば小さな契約みたいなものかもな。」
と言った後、急に全身の力が抜けてその場に倒れてしまう。何事かと思ったが、その理由は直ぐに分かることになる。
…ああ、本当に疲れた。
まあ当然と言えば当然、何せ身体にあった魔力の相当数をあの攻撃に使ったんだから疲労しない方がおかしい。それに連戦ともあって身体はとうに疲弊しきっていたんだろう、戦闘時にあれだけ俊敏に動いていた足も今では感覚が希薄だ。
身体を下げ、一旦休憩を取る為地面にもたれかかろうとするが──その時、ある物が私の手にぶつかった。骸となった、魔術師の顔。私に敗れ死んだのにも関わらずもう未練など無いと言わんばかりの表情をしていた。それを見て、ある一つの疑問が私の頭をよぎってしまう。
──コレは意味のある行為なのか?
と。
その言葉には、未だに明確な答えが持てていない。
しかし、意義はあるとは断言できる。
「…戻るか。」
時間にして大体五分程休んだ後、我に返ったかの様にそう呟いて私は立ち上がり、そして歩き出した。
◆◆◆
「なるほどねぇ~じゃあ今回も違ったんだ。」
「いい加減お前から確実な情報が欲しい物なんだがな。」
「まあまあ、でも良かったじゃない。これでウェト君と街のみんなは助けられた訳なんだし。終わり良ければ総て良し、ってヤツでしょ。」
はあ、と溜息をつきながら情報屋と会話を交わす。
あの後情報屋と合流し、ウェトを街に帰してそのまま街を去ろうとしたのだが、ウェトが何かお礼をさせて欲しいと言って聞かないので渋々手を引かれるがまま案内されたこの酒場に入り、さらに情報屋も付いて来て今に至る。
「ありがとうなぁあんちゃん達、うちのウェトの面倒を見てくれた上に近くのゴロツキ共も倒してくれるなんてよ。お礼にしちゃあこんなもてなししかできねぇが、好きなだけ食べてってくれ!」
がはは、と笑う酒場の店主。
どうやらここはウェトの父が経営している酒場らしく、お礼と言わんばかりか私と情報屋のテーブルには大盛りの料理がこれでもかと並んでいる。
「おおっ!コレ美味しいですね!」
「だろだろ?この味が分かるなんて兄ちゃん中々に分かってるねぇ!」
って情報屋、もう店主と打ち解けてやがる。商売道具として多少のコミュニケーション能力は養っているのだろうが、それにしてもコイツの周りへの溶け込み方は天性のソレだ。
そんなどうでもいい事を考えながら口に飯を放り込む。
…これ意外と美味しいな。
「で、他の魔晶石の場所が分かったって言ってたが本当か?」
飯を食べ終えた後、話を戻すように情報屋に問う。
「ああ、魔晶石絡みかは分からないけど竜を見たって言う情報をさっき耳に挟んでね。場所もこっから半日もあれば着く場所だし…気になるなら行ってみる?」
「無論そのつもりだが。」
「そ、じゃあコレ地図。僕はここでまだやることがあるから先に行ってて。」
「感謝する、では私はこれで。あと店主さん、豪勢な料理をどうもありがとう。」
情報屋から地図を受け取り、私は席を立つ。
「嬢ちゃんまた何時でも来いよ!次はタダとは言わねぇが少しくらいはまけてやるぜ!!」
店主に見送られながら店を出る。
「あ、あの!」
と、店を出ようとするが呼び止められる。振り向くとそこにはウェトが立っていた。
「あ、ありがとうございました!」
「…私の目的とウェトの利害が一致しただけだ、感謝されることなどしてない。」
そう、突き放すように言う。しかしウェトは、
「ぼ、僕も鍛えればあなたみたいに強くなれますか?」
なんて事を聞いて来た。
「無理だな。」
「えっ…」
「ウェトが鍛えると私なんか比べ物にならない程に強くなってしまうじゃないか。」
「──っ」
ウェトは数秒驚いた表情をした後、
「また来て下さいね!今度は絶対強くなってますから!」
「...ああ、楽しみにしてる。」
暮れる夕陽を背景に、私とそう約束したのだった。
ここで言うかとは思いますが、この章は第0章と言うべきか前日譚と言うべきか、つまり物語のプロローグ部分になります。
次回からは視点も変わる場面もあって、物語が本格的に動き出していくこととなります。なのでここでつまんねとか思っても出来れば!次の章まで読んで下さるとありがたいです。
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