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04.本陣へ

「また随分と薄汚い場所に拠点を構えるものだな。」


奴から聞き出したところ、この廃坑の周辺に魔晶石を所持している魔術師がいる。こんな所に拠点を立てているのも金になる鉱物を採掘する為だと。


「よお、わざわざ出向かずとも来てくれるなんて優しいじゃねぇか。」


と、一人の男が廃坑の前に立っていた。全身をローブで包んでいて顔は分からないが、身から溢れるその魔力はコイツが魔術師であることを物語っている。


「…貴様か。」


剣を抜き、戦闘態勢へと入る。


「待て待て、そう()くなよ。」


眼前に見えるのはあの男だけだが…他にも視線を感じる。それも一人や二人なんてものでは無い。知らぬ間に囲まれてしまったらしい。

そして、


「その魔力…貴様相当魔晶石を使い込んでいるな?悪いことは言わない、今すぐ持っている魔晶石を私に渡せ。今渡せば命までは取らん。」


魔術師の体から溢れるこの魔力。大半が魔晶石由来のドス黒いものへと変化しているとなると…竜化も時間の問題だ。一刻も早く魔晶石との繋がりを絶たなければ。


「ハァ?何を言い出すかと思えば…無理に決まってんだろ、この石が俺にとってどういうモノなのか知って聞いてんのか?」


そう言って私に石を見せてくる。丸い、手のひらに収まってしまう程の小さな石。しかし、その石からは途轍もないエネルギーが放出されているのが離れた場所から見ても肌で感じ取れる。

魔晶石、それは命の結晶。使用者に莫大な魔力を与えるが、それと引き換えに石は使用者の精神を蝕み、やがては肉体を竜へとなれ果てさせる。竜となれば自我は消え、ただ本能のままに行動する獣に変化してしまうのだ。もし今あの男が竜となったらこの街など跡形も無く消えてなくなってしまうだろう。

それだけは、なんとしても絶対に阻止しなければならない。



      あの悲劇を、もう一度繰り返させない為にも。



「もう一度言う。今魔晶石を渡──」


「うっせーな、俺が無理って言ったら無理なんだよ。ああもういいや、お前腹立ったから殺す。」


予想はしていたがやはり交渉決裂、か。仕方ない。


「あまり争いはしたくないんだが…後悔するなよ?」


「はっ、それ俺の台詞だっての」


魔術師が詠唱を始めると同時に私は地面を駆ける。魔術師との戦いは速さが命だ。近距離でしか戦えない剣士は魔術を使われてはまず勝ち目が無い。なので魔術師に詠唱をさせることなく一瞬で決着をつけることが重要。先ずは首だ、切断出来ずとも声帯さえ傷つければ詠唱が出来なくなる。

私は魔術師の下へと向かおうとするが、隠れていた野盗達によって行く手が塞がれる。

その数は軽く10人以上。強引な突破は出来そうにない。そしてその間にも魔術の詠唱は進んでいる。


「クソッ」


出来れば使いたく無かったが、時間が無い以上もうなりふり構っていられない。


「オラァ死ねぇ!!」


斬撃が四方八方から飛んで来る。しかし、


「──あれ?」


その斬撃は私には届くことはなかった。


「う──うわぁぁぁ!!」


何故なら武器を持ったその腕ごと、切り落としたのだから。


「コッコイツ!!今何しやがった!」

「やべえ!」「腕がっ!」

「ひるむな殺せ!!」


また無数に刃物が私へ振りかざされるが、結果は変わらない。ただ腕()()()()()の残骸が増えていくだけ。


「ヒッ、ヒィ!」


あれだけ威勢の良かった声がたちまち悲鳴へと変わっていく。しかしその悲鳴も長くは続かず、喚く奴等にお返しの一閃を見舞う。それで大方静かになった。

魔術師の下へ駆ける。幸いまだ魔術師は詠唱中。大きく一歩を踏み出し一気に間合いを詰め、剣が魔術師の首を捉えようとした時、


──死ぬ。


と、私の中の第六感が伝えた。


「…っああ!!」


咄嗟に身をよじって真横へ逸れる。

その直後──土が隆起し棘が先ほど居た場所を貫いた。


「あー惜しい、もうちょっと反応が遅れてたら串刺しにできたんだが。」


この魔術師、まだ魔術の詠唱が終わってないと思わせて私の攻撃を誘った──


「汚いやり口だ。」


「そりゃどうもって言いたい所なんだが、お前も人の事言えねえだろ。そんな体に物騒なモン身に着けといてよ…そりゃあいつらがやられる訳だわ。」


「…チッ」


気づかれたか。


「魔術の知識が無い奴じゃあ切り込んだ時点で負ける。どうやって詠唱したかのかは知らないが...卑怯だなぁお前。剣士だと思わせておいてその実中身は俺と同じか。そんな真似してちゃぁ鍛えた魔術が泣いちまうぜ?」


「…黙れ。貴様にどうこう言われる筋合いは無い。」


再び剣を構える。

その矛先は魔術師の首だ。


「へえ、まだ勝つ気なんだ。…いいぜ、動いた瞬間腹に風穴開けてやる。」


魔術師は余裕ぶった表情でこちらを見ている。無理もない、奴は既に魔術の詠唱を終えた。この地面一帯は魔術師の思うがままに操れる。その気になればぐしゃりと私を潰すことも可能だろう。

…が、それをしてこないのは一種の気の緩みか。


それが付け入る隙となる。


「ハッ!!」


全力で駆け出すと同時に地面が揺れ、私を串刺しにせんと棘が全方位から襲い掛かって来る。それは鎧を削り、私の体にも傷を付け、そして心臓をも穿たんとする。

致命傷、致命傷だけ避ければそれで良い。


「ぐ…」


棘が横腹を掠る。


「ハハハ!いつまで持つだろうなぁ!」


棘の攻撃がより一層激しくなる。まるで狼の群れに追われる小鹿の様に、無数の棘は正確に私の位置を捉え、その体を貫かんと襲いかかる。

そんな棘の追跡から逃れようと私は足に魔力を集め、高く跳躍した──が、


「身動き出来ない空中に逃げるなんてな、終わりだぜ。」


それを追撃するように、地面から一本の棘が空中へと伸びたのだった。

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