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01.荒廃した街

「ああ、この街ならこのまま進んで行けばいずれ着く。」


「そうか、感謝する。」


「しっかしお前さん、何故今更そんな所なんかに行くんだ?あそこはもう終わった街だ、行ったところで何にも残ってないが。」


「…少し、野暮用があってな。」


そしてお礼と言わんばかりの小さな礼をし、足早にその場を去る。

昔から人付き合いは得意な方ではない。それは幼い頃からあまり人とコミュニケーションを取ってこなかったせいなのか、はたまたただ単に自分が人見知りなだけなのかはよく分からない。

…だが、人と一緒にいるよりかは一人でいる方が気楽なのは事実だ。

私が今向かっているのは三十年程前に大きく栄えた鉱山の街リナファ。私はそこである人物と会う約束を取り付けている。


「そろそろだな。」


人知れずぼそりと呟いて、また歩き出す。日の傾きを見るにまだ日没まで時間はありそうだが…ここは人もいない辺境の街、近くの宿屋にまでかなり歩く。完全に陽が落ちてそこらで野宿、とはならないよう早いとこ終わらせて帰ろう。

…それにしても今回の待ち合わせ場所がこんな辺境の街とは、アイツも中々に気が難しい。再会したら文句の一言でも言ってやるか。

そうして三十分程歩き続けていると少しづつ道が整備され始め、あの鉱物特有の鼻がつんとする匂いが辺りを充満させ始める。そして街の風景が見えてきた頃、視界の奥に待ち構える様にして立っている”アイツ”を発見。アイツも私に気付いた様で声をかけて来る。


「もうちょっとかかるかと思ってたけど…案外早いね。」


「まったく、遠路はるばる来てやったと言うのに最初の一言がそれか、情報屋。」


私が情報屋と呼ぶ…華奢な体つきの青年は私のその言葉にくすくすと笑い、そして続けて話す。


「はは、僕だって申し訳ないとは思っているよ。だけど話をするにはここが一番良いと思ってね。」


「こんな寂れた鉱山で話をするのが一番良いと…?お前の考えは到底理解出来そうに無いな。」


いつもそうだ、奴と会う時はいつも場所を指定される。時にそれは大都会の中心部であったり、田舎の農村部であったりする。しかしこんな辺境を指定されるのは初めてだ。まあ情報屋という立場上、同じ場所での商売は危険なので場所をその都度変更しているのだろうが、それにしてもコイツは少々やり過ぎな気もする。


「ま、立ち話もなんです、少し腰を下ろして話しませんか。君を待っている間に長話をするにはうってつけの良い場所を見つけたんですよ。」


そう言って情報屋は歩き出す。なにからなにまで指示されて情報屋の言いなりにはなりたくは無いものだが、ここまで来ておいそれと帰る訳には行かない。私は渋々情報屋について行く。

カツカツカツと、二人の足音だけが虚しく街の中に響いてゆく。目に映る商店や住宅はことごとく荒れ果ていて、荒廃している。この街はその昔、貴重な鉱石が採れる鉱山として栄えていたらしいのだが、今ではもう見る影も無い。


「哀しいよね、一時は隆盛を極めた街がこんな姿になっているんだから。そして今ではここら一帯野盗の住処となってしまっている。」


長い年月の中で生物が老い、木々が朽ちていく様に、この街もまた月日の中で老い、そして死んでしまったのだ。

盛者必衰の世の中の無情を、この街はこれでもかと表していた。


「…ふっ、死んでいるのは私も同じか。」


寂れた街の中で私はそうぽつりと呟いた後、少し早足で情報屋の後を追っていった。

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