僕の超能力
僕には才能がない。何事も人並みにはできるが、それだけだ。超能力でも手に入れば なんて考えながら、今日も大学へ行く。早歩きでサラリーマンを追い越し、女子高生を追い越し、駅への道を歩く。最近は工事ブームらしい。駅の近くは もちろんのこと、我が家の両隣も工事をしている。天ノ弱で、流行りに興味のない僕は工事現場に目もくれず通り過ぎようとした時、
「オイッ!」
「危ないっ!」
声のする方に ふと目をやると、僕の背丈の2倍は あろうかという大きさの木材が目に入る。おかしい。こちらへ近づいている気がする。どうやら気のせいではないらしく、ゆっくりと木材が倒れてきている。ゆっくりと?そう、やけに遅い。僕は動体視力も(例に漏れず)そんなに良くないはずだが。なるほど、コレが噂にいう走馬灯か。何か思い出が蘇ってくるわけではないが、そっちのパターンね。ワンチャン避けられないものだろうか。自由落下なら ともかく、倒れてくる木材くらいは避けられるのではないか。それとも走馬灯が見えている時点で詰んでいるのか?あるいは、生命の危機に瀕してゾーンに入ったのかもしれない。それにしても やけに遅い。これなら√2が無理数であることの証明も余裕で できてしまう。そんなことを考え、√2が有理数であることを仮定しようとした その時、
「危ないところでしたね。」
綺麗な声がする方を向く。そこには銀色長髪の男が立っていた。『ヒ●ルの碁』のサイに似ている。いや、読んだことは ないが。
「えっと…こんにちは?」
挨拶は大事だ。コミュ障だけど、挨拶くらいできるもん。
「こんにちは。案外 余裕そうなんですね。」
男が言う。そりゃあ証明を おっぱじめるところだったのだ。数学専攻をナメるなよ。というか、コイツは誰だ。僕の証明の邪魔をするとは。アルキメデスならキレてたぞ。
「あなたは どちら様ですか?僕は しがない大学生ですが。」
「神です。」
神だった〜!定番は つるっパゲの好々爺かキレイな女神だろ!なんで こんなモテそうな男なんだよ。
「危ないところだったので、お助けしました。」
いくつか疑問が浮かぶ。なぜ助けたのか、なぜ姿を表したのか、なぜ好々爺でも女神でもないのか。
「ありがとうございます。体が動かないのですが、これは助かったと いえるんですか?」
「正確に言うと、これから お助けします。体が動かないことについて言えば、今は時間の流れが止まっているので、あなたの体が動くと、周りの人から見たらゲッダンしているように見えてしまうため、動かないようになっています。」
クソ。皮肉に対してネタで返してきやがった。流石は神だ。
「具体的には、これから どうなるんですか?」
「私が消えると同時に時間が流れ始め、あなたは奇跡的に木材を回避します。それこそゾーンに入ったように。」
なるほど。走馬灯であり、ゾーンでもあったのか。
「そうなんですね。それにしても、なぜ僕を助けてくれるんですか?助からない人も居ますよね。」
「神が人を助けるのに、理由は要りません。少なくとも あなたの神にとっては、ですが。あなたを助けることができたのは、たまたま近くに いたからです。」
どうやら、この男は僕の神らしい。定番を外してきたのは、僕の逆張り傾向の表れか。近くに いたって、時間は操れても空間には縛られるのか。
「あの、お願いが有るのですが…」
「聞きましょう。」
「僕に超能力をいただけませんか?」
ダメで元々だ。頼む分には いいだろう。
「よいですよ。」
左様か!言ってみるもんだな。
「ありがとうございます!」
「他に何もないようでしたら、そろそろ私は消えますが、よいですか?」
「よいです よいです。改めて、ありがとうございました。」
「よいのです。それでは。」
バァンッ!
本当に避けられた。ということは超能力も?あ、しまった!何の超能力か聞いてないじゃん!使用方法も分からないし。コレじゃ無いのと同値だぞ。
「大丈夫ですかっ!?」
んー、違う意味で大丈夫では ないんだが。とにかく注意深く観察して、今までと違う部分を探すしかないか…
「大丈夫です。にしても、不注意じゃないですか?最近 彼女でもできて、その人のことばっかり考えでもしてたんですか?」
「え?」
え?皮肉で言ったんだけど、当たった?
「なんで分かったんですか!?」
いや、だから皮肉だって。まあいいや。通じてないようだし。電車に乗り遅れないように、もう行くとしよう。
「たまたまです笑。それでは。」
「あ、ちょっと!」
-1時間後-
超能力の正体を探すには、どうすれば良いんだ。超能力学なんて授業は無いよな。とりあえず、人と関わるのが大事だ。僕の変化に気づいてくれるかもしれない。めちゃくちゃモテる能力かもしれないしな。
「おはよ」
教室の中央列 前方で僕を出迎えたのは、友達の悠だ。
「おはよう」
何から話し始めるか。とりあえず、さっき死にかけた話でもするか。神と会ったなんて言ったらバカにされるだろうし、工事の あんちゃんに皮肉が通じなかったモヤモヤを、コイツに共感してもらうとしよう。
「悠さぁ。彼女できたばかりだとするじゃん?」
「え?」
え?反応がデジャヴだぞ。いや、1時間前にあったから、実際に経験したことだが。
「昨日 俺に彼女できたの、まだ言ってなかったよね?」
おい。どいつもこいつも彼女彼女って。僕は恋のキューピッドかよ。ん?待てよ。有り得る。僕は超能力を得たのだ(あの銀髪イケメンが嘘をついていなければだが)。こうしては いられない。もう一人 試さねば。下ろしかけた腰を上げ、後ろの方へ小走りで行く。もう一人の友達の元へ(anotherではなくthe other)。
「圭介!最近 彼女できた?」
「いきなり何だよ。できてねぇよ。興味ねぇし。」
僕は恋のキューピッドではなかった。いや、そんな能力は嬉しくないから、むしろ喜ばしいのだが。
「悪い。何でもないわ。」
「何だよそれ!」
彼女がいない方の友人を置いて、悠の元へ戻る。
「何?友達に彼女できたか聞く趣味に目覚めたの?」
先程 無視してしまったのを根に持っているのか、軽口で迎えられる。
「そうなんだよ。今日 僕を殺しかけた奴にも聞いたわ。」
「は?」
-数分後-
「朝から不運だったな。いや、当たらなかったんだから、逆に幸運か?」
「不運がなければ幸運は無かったよ。」
そうだ。木材が倒れてこなければ、それを避けるという行為はすることができない。工事の あんちゃんに彼女ができていなければ、悠に彼女ができていないかもしれないのだ。ん?そうか。予知能力か?工事の あんちゃんと悠に対しては発動し、圭介には発動しなかった。発動条件は 冗談で聞くこと だろうか。よし、また試そう。
「それでは講義を始めます。」
超能力学者ではない教授が講義してくださるそうだ。仕方ない。授業中 機会があれば、最近 未解決問題を解決できたか聞いてみることにしよう。
「代数的数αに対して…」
-90分後-
特別なことは無く講義が終わった。どうやら代数学に関する超能力ではないようだ(もしそうなら、今回の講義中にした幾つかの証明を自力で できただろう)。
「なぁ悠」
「わりぃ。この後 急ぎの用事があって、もう行くわ。」
「そっか。じゃあね。」
「おう、また。」
悠を見送って後ろを見ると、圭介は もう居なかった。仕方ない。今日のところは帰ろう。
-1時間後-
今朝 死にかけた場所を横切って帰っている最中、ふと目に留まる看板があった。
「占い…」
占いは都合の良いときしか信じていないが、超能力の特定ができるヒントを得られるかもしれない。スピリチュアルも思考の手助けにはなる。行ってみることにした。
「すみませーん。」
「こんにちは。ご予約は されていますか?」
げ。予約が必要なのか?
「いえ、予約はしてないんですが、今から占っていただけませんか?」
「よいですよ。これも運命です。」
うわ、怪し〜。運命を持ち出したらアウトだよ。ていうか男か。占い師って女性が多いイメージだけどな。まあいい。最近 彼女できたか聞いてやる。
「ありがとうございます。お願いします。」
「占いは初めてですか?」
占い師って世間話するんだな。流石にするか。
「はい。」
「そうなんですね。あなた直近で大きな変化が有りましたね?」
む?コイツ本物か?いや待て、コレはバーナム効果というヤツだ。それにしては やや攻めぎみだが、予約もせずに初めての占いに来たということならば大抵そういうことだろう。世間話だと油断したが、勝負は始まっていたか。
「はい。ちょうど今朝ありました。それで来たんですけど、占い師さんは神を信じますか?」
「信じますよ。宗教を信じているわけではないですが。」
「信じてもらえないと思うんですけど、今朝 神に会ったんです。」
「あなた正気ですか?」
おい!占い師なんてやってるから味方だと思ったじゃねぇか。結局 統計と心理学で客を騙す偽物なのか?
「信じてるんじゃないんですか!?」
「フフ、冗談です。実は私も神を見たことがあるんです。」
クソ、完全にペースを掴まれている。まあいい、ホンモノである方が、僕が思いつかないことを言ってくれる可能性が高い。
「それで、その神様に超能力を貰ったんですが、どんな能力なのか、どうやって使えばいいかを聞き忘れていて、どんな能力かって分かりますか?」
「占ってみましょう。」
占い師は おもむろにタロットカードを取り出し、時計回りに混ぜ始めた。しばらく混ぜた後、一つに まとめた。
「では、この山を三つに分け、お好きな順番で一つにまとめてください。」
言われた通りにした。すると、占い師は横一列に広げ、一枚カードを取り出した。
「出ました。大アルカナ魔術師の正位置です。」
「というと?」
「あなたの行動によって、良い結果をもたらします。」
とある行動が発動条件で、効果は良い結果をもたらすということか。しかし、抽象的すぎる。数学を専攻しているくらいだから抽象的なことは好きだが、そりゃそうだという内容だ。
「もっと具体的に分かりませんか?」
「そのままの意味かもしれませんよ?」
つまり、行動をしたら良い結果になるとでも言うのか?
「あなたが会ったという神様は、あなたに与えた超能力を知らなかったかもしれませんね。」
「そんなことあります?」
「そうですね。あなた、ギャンブルは好きですか?」
「まあ、宝くじを毎週 買っているくらいには。」
「それなら、あなたの神様もランダムなものが好きなのかもしれません。私がタロットカードを好むのも、同じ理由です。ランダムではあるが、自分の潜在意識が引いたカードが占い結果を表す。」
「はあ。」
店(?)を出た。代金は1000円だった。占いは5分くらいで終わったから、時給で言うと10000円か。客がいればの話だが。さて、内容を整理しよう。占い師の言うことが本当ならば、僕の行動によって良い結果が訪れるらしい。良い結果というのが抽象的だが、これは行動によるのだろう。例えば、YouTubeに動画を上げたらバズるのかもしれない。これを踏まえて、今日の出来事を振り返ってみよう。工事の あんちゃんと悠は最近 彼女ができていた。コレに対応する僕の行動とは何か。恐らく、僕の質問だ。何故なら、僕が質問した通りになったから。問題は、圭介の方だ。圭介には彼女ができていなかった。良い結果ではないのか?あるいは、やはり僕の質問に冗談のニュアンスが必要なのか。とりあえず、人に会ったら質問だ。冗談でなくても実現することが一度でも有れば、冗談という条件は排除される。よし、帰って家族で実験だ。
-10分後-
キキーッ!ドカンッ!
なんだ!?女性と おっさんが倒れている。自転車も。事故ったのか?とりあえず、ほっとけないか。べっ、別に心配なんじゃなくて、救護義務なんだからねっ!!
「大丈夫ですか?」
「はい。なんだか大丈夫みたいです。」
え?だいぶ凄い音したんだけど。
「痛いところとかは?」
「無いみたいです。それより、轢いた人は?」
どうやら逃げたみたいだ。自転車だから追いつけないだろうし、どうしようもないか。
「とりあえず、大丈夫なようでしたら僕は行きますね。一応、連絡先 渡しておきます。証言とか必要かもしれないので。警察は優秀なので、轢いた奴は捕まりますよね?」
「捕まったみたいです。」
え?被害者の目線の先を見ると、一人の警察官が おっさんを連れ、もう一人の警察官が自転車を おして こちらに向かってきている。なるほど。やはり僕の質問は実現する。冗談でなくても、だ。警官が女性に問う。
「大丈夫ですか?」
「ええ。」
「こちらの方は被害者だと思いますが、あなたは?」
僕か。
「事故を見た者です。」
「そうですか。あなたからも お話を伺いたいので、お待ちいただけますか?」
正直めんどくさい。おっさんが自白してくれれば良いのだが。加害者に不利な証拠が自白しか無い場合は証拠不十分となるが、今回は被害者の証言もある。おっさんさえ自白してくれれば、僕の証言は不要だ。
「あなた、この人を轢きましたよね?」
「はい。すみません。」
え?自白した。まあ、ここから言い逃れできないだろうし、自白した方が良い結果には なるだろうけど。
「加害者も自白してるようですし、今日は疲れてるので、帰らせてください。もし必要なら、そちらの女性に渡した連絡先に連絡ください。」
「分かりました。」
今日は色々あり過ぎた。帰って寝たい。
-20分後-
帰ってきた。リビングのソファに倒れ込む。僕の超能力の正体は、おおかた分かった。僕が質問すると、それが良い結果ならば実現する。コレって他人は幸せにできるけど…
「僕は幸せなのか?」