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第三章 『図書室の勇者たち』一

「アーサー様? どうしたのですか?」

 ルーデリカと那由多が風呂でキャッキャうふふしている間、アーサーたちは

「開かない」

 学校に閉じ込められていた。

 時刻は七時を回り、女子らが家に向かった後、アーサーは妙な気配を感じて学校内を探索していた。

 不審者騒ぎの所為か人の姿はない。生徒も先生もいない学校はどこか物悲しい。明かりも完全に消えた廊下をアーサーとウラシマ徘徊していた。

 本来ならば見回りの警備員もいるだろうが、田舎なのでそんなことはない。それを知っててか知らずかアーサーの足取りには迷いはない。むしろ彼らがその役割をしていただろう。

 船城高校はここらで唯一ある高等学校のために広大な敷地と四階建ての校舎、西棟と東棟の二つとバレー部、バスケ部が女子男子使用しても余るほどの体育館。ほぼ市民体育館と同様の巨大な体育館。それをも超える校庭。テニスコートもプールも整備された無駄に完璧な設備が整っている。校内を一周するだけでもかなりの時間を要するだろう。

 誰もいない学校は広く感じる。それは廊下もだが、むしろ歩く者達の方が異様だった。竜騎士と侍然とした男の二人組が並んで歩けばそこは異界。和洋折衷の謎空間の出来上がりだ。

 一通りに学校を回っても変わったものはなかった。もちろん、アーサーの知的好奇心を満たすものなら幾つかあったが、今回はそういうものを探していたわけではない。

 漠然とした嫌な予感。それに従っての徘徊だった。

 付き合わせて悪い——なんてアーサーが言って窓に手を掛ける。忘れがちだが彼等は不法侵入者である。特にアーサーは慣れた手付きで錠を開ける。その姿は完全にコソ泥のそれだった。技術的な話をするなら中から鍵を開けているだけだから、大したことはしてないのだが。

「ん?」

 そして冒頭へ戻ってくるわけだ。

 学校に閉じ込められた。そう決めるのは早計だろう。アーサーは他の窓も開けようとする。しかし開かない。そもそも鍵がうんともすんとも言わないのだ。

 今朝は確かに開いたのだから何か異常が起こっていことは間違いない。

 アーサーとウラシマは廊下に並んだ窓を順に開けようとする。しかしどれも開くことはない。鍵も同様。それどころか、教室の扉までも開かない。全てが固く施錠された——というより、学校内全てがそのまま時間が止まって動かなくなったようだ。

「強行突破してみるか」

「窓を壊すのですか!」

 ウラシマの動揺もそっちのけで既にアーサーは拳を突き出していた。しかしびくともしない。それは話に聞いていたガラスとの感触とあまりにかけ離れていた頑丈さだ。まるで岩か、それ以上の何か。しかし硬度に関しての推察にはあまり意味がない。

 問題はこの空間から脱出が難しくなったということ。

「ウラシマ、魔法でドーンっていけないのか?」

「私たちまで吹っ飛びますよ」

 廊下の幅は言うても三メートルほど。この距離の爆撃はどれだけ離れようと、あまりにもリスクが高い。それにウラシマは窓に触れて察する。自分でも破壊はできないと。

「魔法で破壊できないとなると」

「ええ。十中八九、結界でしょう」

 二人の意見は一致した。

 結界は簡単に言えば魔力によって閉じられた空間である。この空間は学校でありながら実際には違う。そう見えているだけで同じ構造、同じ姿の結界。破るには結界を展開する術者本人を叩くか、あるいは術者の魔力切れを待つこと。またあるいが結界を物理的に破壊すること。

「後者はあまり得策ではないだろう。校舎だけに」

「では術者を叩きますか?」

「あ、うん。そうだな」

 今のが冗談だと言う暇もなく真剣なウラシマに押し切られてしまった。もう恥ずかしいので蒸し返すことはせずにアーサーは現状を見る。

 だがその術者、結界内にいるとも限らない。しかし考えるべきはそこではない。

「今、最も知るべきは相手の目的か」

「私たちを閉じ込めることですか?」

「そこはあくまで過程に過ぎない。俺たちを分担し、もう片方を襲うというが最もあり得る話だが」

「那由多様達が危ない!」

 その考えに至った瞬間にウラシマの手が赤く発光する。魔力の流れ、膨大な力が手に集中していくのが目視でも観測できる。それらは魔法にも至らない単純な技術だ。魔力は端的に言えばエネルギーなのだ。それを圧縮して高密度にすればもちろんその状態を保つことは難しくなる。

 簡単に言うとちょっとした衝撃でエネルギーは暴発し、一体は巻き込まれる。しかしそれはすんでの所で阻止された。

「落ち着けウラシマ」

「しかし!」

「相手の狙いがあいつらなら愚策も愚策だ。俺はルーデに勝てるような存在しらねえからな」

 言葉だけでは足りない。だがあまりにも冷静なアーサーの態度にウラシマは脱力した。力が抜けると魔力は霧散し、粒子ように空気に溶けて消えていった。

「信頼しているのですね。ルーデリカ様のことを」

「ああ、戦力図的に言えば、那由多とルーデリカの方が圧倒的に上だ」

「だとすれば敵の狙いは」

 足音が聞こえた。初めて感じる、二人以外の存在の気配。濃密な魔力と殺気を漂わせたそれは廊下の向こう側にポツンと立っていた。 

 姿は見えない。暗いという意味ではなく、身体中に黒い靄が掛かったような姿で上手く認識することができない。かろうじて足元が見えるので、人の形をしていることだけは分かる。そして赤い眼光が真っ直ぐに二人を眺めている。

「敵の狙いは俺たちか」

 ゆらりと廊下の向こうで赤い目が動いた。まだ遠い。十メートルはある間合い。しかしそれは刹那の内に埋まっていた。気がつけばそれはウラシマの背後にいた。

「速すぎる!?」

「単純に速いんじゃねえ。結界内は自分の思うがままだ。瞬間移動だってお手のものだろうさ」

 攻撃方法はシンプルな打撃。しかし重い。両腕で防御したウラシマを軽く壁まで吹き飛ばす蹴りを放つと次はアーサーへ迫る。

 手が届く距離。それでも襲撃者の姿をハッキリと見ることができない。その攻撃もまた予測は難しい。

 二度の軽い拳からの回し蹴り。凄まじい速度と巨大な鈍器で殴られるような衝撃。

「こいつは……アタリか」

 大きく後退させられながらもアーサーは笑った。ついに念願の邪竜に迫れたとそう確信したからだ。

 襲撃者は棒立ちしている。その姿は上手く見えない。影と言うべきか、それとも靄と言うべきか。それすらも判然としない形。

「お前か? レアーナから逃げた邪竜様は」

 邪竜には一定の姿を持たない。ドラゴン——つまり竜の姿をとるのは、それが最も強い種族だからだ。場合によっては他の生命体の形をとる場合もある。

 邪竜とは一種の災害という概念なのである。破壊を可能とできるなら形は不定、故に固定概念は通用しない。

 問いに襲撃者は答えることはない。二つの赤い瞳がジッとアーサーを見つめるだけ。

 逃げ道はない。どちらにせよ、逃げるつもりなどないが。

 アーサーはその手に剣を持っていた。それは自らの体の一部、鎧の一部を引き抜いて剣として扱っているだけのものだ。しかし無骨な骨、竜の鱗の一部はそれだけでも強力な刃と化す。全身が文字通り凶器、それが竜の鎧の最大の特徴だった。

「歪な」

 ようやく襲撃者が口を開いた。声はまだ若い男のものだ。

 アーサーの姿、行動を見て嫌悪感を示したように見える。再び襲撃者の赤い瞳が揺れる。

 来る——と予期する。今度は真正面。アーサーは剣を横に振るう。ガギンと金属同士がぶつかり合う音が廊下に響き渡った。その剣とぶつかり合っていたのは襲撃者の手刀だった。

 魔力を纏わせたことで鋼鉄並みに硬化した手刀。その切れ味はアーサーの剣と互角。

 ぶつかり合う剣戟。アーサーのそれは訓練されたものではない完全な我流だった。対して襲撃者のそれは研磨された武術。武芸に足を踏み入れた見事なものだ。アーサーが押し切られないのは単純に肉体のスペックで勝っているからに過ぎない。

「もらったぞ」

 そんな隙を突かれた。拮抗したかのように見えたバランスはいとも簡単に崩れた。結界内の自由な移動という、アドバンテージを取ることができる襲撃者の方が実際には何枚も上手だった。

「アーサー様!?」

 アーサーの背後に回った襲撃者はその顔へ掴まり、背後へ落ちる力を利用して体を大きく捻る。そしてそのまま首を捻り切った。鎧を着ていようと関係ない一撃必殺。剣戟での小競り合いなどは囮に過ぎない。最初から襲撃者の狙いはそれだけだ。

 長い廊下にウラシマの声だけが響いた。しかしもう遅い。アーサーの身体は廊下に倒れ、首は襲撃者の手の中にあった。

 立ち上がった襲撃者は次にウラシマを見た。赤い眼差しは確かに真っ直ぐ伸びてウラシマへ向かっている。

 水辺を歩くようにピチャピチャと足音を鳴らして襲撃者は近づいてくる。

 ウラシマは目を疑った。襲撃者ではない。その背後、首を捥ぎ取られ死亡したはずの身体がスッと起き上がるのを目撃した。

「なぜ立てる?」

 襲撃者も咄嗟に振り返った。背後から溢れ出る尋常ならざる気配。それに咄嗟に死を悟ったからだ。大きく後退する。その距離は五メートルほど。

「首から上吹き飛んで死ねるなら俺は冒険者なんかやってねえんだよ」

 変わらずアーサーはそこに佇んでいた。自身から吹き出した血の池の中心で何事もなかったかのように。

「首、返してくれる?」

 子供がおもちゃを強請るようにアーサーは口にした。それに襲撃者もウラシマも絶句するのは当たり前だ。

 時間が止まったかのように襲撃者は止まった。その手にはまだアーサーの首がある。

「あーあ」

 数秒の時間が流れてアーサーの周囲で変化があった。彼の周囲にあった血の池が瞬きの間に消えた。乾いたのではなく、蒸発したわけでもなく、消えた。

 そこにあるのは元通りの廊下、その床。そしてそこに立つアーサーの身体。再び、視線がその首から上を捉えると、そこは既に顔があった。元通り、というより最初から何事もなかったかのようだ。

 同時に襲撃者が持っていた首はいつの間にか消えていた。視界から外した瞬間には消えてしまった。全てを見ていたウラシマは一連の出来事がそっくり消えたのかと錯覚する。

「もう終わりか?」

 挑発するようにアーサーは言った。襲撃者は何も言わず、ずっとアーサーとの距離感を慎重に確かめている。

「何者だ……貴様は」

「あぁ? 邪竜だよ。見りゃ分かるだろ」


『アーサーは邪竜だよ』

 ルーデリカはそう言った。間違いなく。

「アーサーさんが邪竜?」

 同時期、全くの偶然だが那由多はルーデリカの正体を知り、同時にアーサーの正体にも辿り着こうとしていた。

「その昔の話」

 もう何百年も前の話。遠く遠く昔。神々の戦争があった。来るべき巨人との戦いのために神によって創られた生命体があった

 戦乙女、ワルキューレと呼ばれる戦うだけの命。それは無数に生み出され、そして羽虫のように死んでいった。だが全ての戦乙女が死ぬよりも前に戦いは終わった。

 役目を終えたワルキューレは皆ヴァルハラと呼ばれる場所へ消えた。旧世界の遺物——戦うだけの兵器である彼女らは人間の世界に居場所などない。しかしたった一人だけその後の世界に落とされてしまったワルキューレがいた。

 名もない。目的もない。ただ完璧な容姿と圧倒的な力を宿した少女は世界に馴染めるはずもなかった。少女に居場所はない。この世界のどこにも。

 少女は死にたかったけど、もうヴァルハラにはいけない。彼女は戦ってない。戦ってない戦乙女は死ぬこともできない。目的もなく歩くだけの屍と同じ。

 誰もが最初は少女を持て囃す。しかしすぐにその正体に気がついてしまう。恐るべき化け物。人の形をしただけの兵器。相容れぬ存在だと、最後にはみんな離れていく。

 いつしか少女は一人、森の中で静かに暮らすようになりました。それでも少女は魔女と呼ばれ、近くの村から恐れられていた。

 何百年経ったか。人なんてものをすっかり忘れて、孤独に生きる少女の元へ一人の少年が現れた。

 少年は森で迷子になってしまったのだ。少女は仕方なく、少年を村まで送り届ける。そこからなぜか少女と少年の奇妙な関係は始まる。

 少年はことあるごとに森へ入ると少女から様々なことを聞いた。森で生きる術や、魔法、剣術。これまで少女が旅した場所の話。少年は少女の話に夢中になり、多くの知識を欲した。

 少女は少年が大きくなる間もずっとその姿を変えることはなかった。きっと少年は自分に会いに来なくなる。そんな少女の杞憂は一瞬で消える。

 少年はどんなになろうと少女へ会いに来た。いつだって笑顔で得た知識を披露する側に変わる。そんな日々は少女にとってかけがえのない日々になっていた。

 そんな日々が続いたある日。厄災が降り注ぐ。災害の化身である邪竜が少年の住む村を焼き尽くさんとしていた。

 それは炎を司る厄災である。

 少女は少年を守るために邪竜に一人で立ち上がる。ワルキューレとしての力を使い邪竜へ立ち向かった少女は少年の村を守ることができた。

 しかし最期に力尽き、邪竜によって喰われてしまった。

 少年は少女の仇を討つために旅に出る。凡人の域を出ない彼はそれでも邪竜討伐の旅を諦めることはなかった。

 何ヶ月、何十年掛かろうと必ず見つけ出す。結局、少年が邪竜を見つけ出したのは五十年も後の話だった。

 老人となった男は邪竜の前に立ち塞がるも、もはや若さも何もかもを失った彼には戦う力も気力も残されてなかった。

 何よりも邪竜を倒したところで何も返ってくることはない。その虚無感が彼の戦意までもを喪失させていた。

 その最期はあまりにも呆気なかった。皮肉にも少女と同じ最期。捕食され、邪竜の一部となる。

 潰えていく命の中で男は知った。少女がまだ邪竜の中で生きていると。

 男は邪竜に取り込まれる中で逆にその力を自らのものとした。

 邪竜はその存在自体が強大な呪いだ。全身、爪の先に至るまで世界を滅ぼす存在である。触れるだけで呪われ、理性を失い、同じ邪竜と化す。そして意思が弱い者は取り込まれる。それはあらゆる邪竜に共通する特徴だ。

 男は邪竜となった。その破壊衝動は全て邪竜へ向けられた。邪竜を殺す邪竜。そう自身を定義し、蘇った。

 邪竜の腹を喰い破った男は本当の意味で邪竜へ挑む。何度も死に続けるも、その不死性から蘇り、長い時間をかけて邪竜を完全に沈黙させた。そして少女を救い出した。

 その時に男——アーサーは今の姿として完成した。竜が混じったような真紅の鎧を纏う竜騎士——否。この鎧こそがアーサーなのだ。これこそが邪竜殺しの邪竜であるアーサーの正体。

 彼の鎧は彼の肉体であり、彼の持つ武器もまた彼の肉体である。

 アーサーは不死身の化け物。首を捥ごうと、心臓を抉ろうと、存在そのものを消滅させようと蘇る。

 赤竜と呼ばれた邪竜をたった一人で滅ぼした竜殺しの英雄。


 襲撃者は目の前にある異常な存在に語りかける。「何者だ? 貴様は」と。治癒速度が恐ろしく速いとかそういう次元ではない。元の形に戻る、そういうことではない。しかしながら攻撃が最初からなかったという訳でもない。

 アーサーと呼ばれる情報がそこに改めて出力されたような感覚。一枚の絵であるアーサーは破られたり、燃やされたり、濡れたりするとその絵をそのまま捨てて白紙にもう一度アーサーを描く。捨てられたアーサーの絵はこの世界から消滅する。これが最も分かりやすい例えだろう。

 実際アーサーは自らの肉体が欠損した時、それを自身の力で肉体を再構築している。それはアーサーが抱くイメージ。竜殺しの竜騎士——肉体は自然とその姿へ戻る。彼の無識の具現、ルーデリカを救う、そして守るための形がこの姿。逆に言えばアーサーはもう、この姿でしかいられない。それ以外の姿は自身の存在意義、存在理由、存在定義を保てないためにアーサーは簡単に消滅してしまう。

「あぁ? 邪竜だよ。見れば分かるだろ」

 アーサーは今更、自身の経緯などに一ミリも興味はない。問題はそこではない。襲撃者の反応だ。

「何者だはこっちのセリフだな」

 再び、襲撃者とアーサーは睨み合う。しかし様子見をする襲撃者に対し、アーサーは武器を構えることはない。

 アーサーの中にある一つの確信。襲撃者は邪竜を知らない。いやもしかすると不死の存在すら知らない。

 フロリアには案外、不死の存在がいる。そうポンポンと生まれるものではないが、例を言えば枚挙に暇がない。アンデットやゾンビが有名どころではあるが宿す魔力によっては完全な再生くらいは簡単にできる。

 襲撃者は知らない。フロリアの存在ではない。少なくとも邪竜ではない。

「お前はこっちの世界の存在だな?」

 問いに襲撃者は相変わらず答える様子はない。しかしアーサーは続ける。

「こちとら死なないことに関しては自信はあるぜ。こっちがお前を倒せる自信もないけどな。だがこっちの勝利条件は朝まで耐え凌ぐこと。仲間と合流すれば俺らの勝ちは揺るがない。さあ、ここで提案だ襲撃者。話し合いをしよう」

「拒否したら?」

「お前は負けるだけだ」

「試してみるがいい」

「お望み通り」

 閃光が走る。廊下の左右から戦士たちが駆け、その武器をぶつけて発生した光。魔力が歪み、合わさり、赤熱した高密度になった瞬間にそれが炎のように光るのだ。それは幾度も起こる。鳴り響く甲高い金属音と鈍い打撃の音。

 たった一度起こった奇跡かのように襲撃者は二度とアーサーを殺すことはできなかった。瞬間移動が想定に入っているのならある程度は相手の攻撃を受けても構わない。

 アーサーが警戒すべきは一撃必殺、急所を狙った攻撃だけだ。アーサーの鎧を早々に突破する方法はない。それは初手でその戦略を使ってきた時点で見抜いていた。

 同時にアーサーは襲撃者を攻撃することはない。話し合いの余地があると知っていたからだ。攻撃を捨てれば防御は容易い。死なない。アーサーにおけるホームグラウンド。負ける要素は微塵もない。

 相手、つまり襲撃者も気がついているのだろう。この戦いに決着はつかないことを。それでも続けるのは矜持か誇りか。どちらにせよ、知性のある思考回路。

 諦めない、諦められない理由がある。襲撃者には明確な目的がある。それはこちらの殲滅ではない。

 なんのために? それは明白。守るものがあるからだ。自身の都合ではない。この戦いは奴にとって使命だ。だから退かないのだ。

「俺たちの目的は一致しているはずだ」

 いないと思われた。しかし存在していたのだ。フロリアで言うところの冒険者。世界を守る者。

 こいつは敵ではない。アーサーは決して攻撃を加えない。

「いつまで続ける?」

 襲撃者は答えない。いや、今度は答える。

「朝まで付き合ってもらうぞ。話はそれからだ」

「上等だ。それまで勝手にこっちの事情を話してやるよ。懇切丁寧に一からな!」


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