42 Side3
男たちは簡単に動くようになるけれど、それがうまくいくことはなかった。いや、うまくいっても、どうしてもあの女を排除できない。
「どうして、うまくいかないの?」
あれだけ言ったのに、自分を虐めていた騎士を殺して、オレリアを犯人に仕立てるなどと。どうしてバカばかりしかいないのか。
侍女をクビになったせいで、屋敷の外に出ることが難しくなっていた。やっとの思いで、あの騎士を動かしたのに、また失敗。
「このままじゃ、じじいの後妻にされちゃう」
パーティの件で、王からの信頼が損なわれたと、義父は怒鳴り散らし、カロリーナを部屋に閉じ込めている。
いつまでも自分が大臣になれないからと、カロリーナに当たり散らさないでほしい。大臣にもなにかやっているようだが、それはうまくいっているのだからと、他の貴族たちになだめられていた。
閉じ込められても、部屋に忍び込ませて王宮の話を聞いているからいいが、今後、カロリーナをどうする気なのか。屋敷の騎士を使って、義父の情報を得るしかない。
最初は、セドリックのパートナーとなったあの女をどうにか排除したいと言って、騎士たちに金を渡していた。しかし、うまくいかなかったのか、あの女の排除をすることなど無かったことにして、今度はカロリーナを邪魔者として扱うことにした。
義父はカロリーナの行き場を探し始めていた。養女の立場を終えるだけだと思っていたのに、今までかかった金を回収したいと考えたのだ。その相手が、金しかない、子持ちのじじい。
「あの女のせいで」
憎しみが込み上げてくる。いつもいつも邪魔をして、エヴァンを奪えたと思ったら、今度はセドリックだ。
やっと現れた王の甥に、どうしてあそこまで罵られることになったのか。いつも邪魔をするオレリアが、カロリーナを悪く言っていたに違いない。
「許さないわ。殺してやるから」
部屋の外で窓を叩く男がいる。役に立たない、ただそこにいるだけの、置物のエヴァンだ。
エヴァンはカロリーナのために、なにかしたことがあっただろうか。
「カロリーナ? 人が来ちゃうよ。中に入れて。警備が多いんだ」
エヴァンは開けた窓から入ってくる。いつも簡単に入り込んでいたが、カロリーナが逃げないように義父が警備を増やしたので、来るのが大変だったとぼやいた。部屋に閉じ込められてから会ったきり、しばらく来ていなかったくせに、何を偉そうに文句を垂れるのか。
「ねえ、なにか王宮で楽しいことはなかった? ここにいると、とても暇なのよ」
「特になにもないよ。この間、王宮で騎士が殺されて、みんなピリピリしているくらい」
やっと殺しまでしてオレリアのせいにしたのか。だがエヴァンは、オレリアの仕業だとは口にしない。黒髪の男は、そうなるように仕向けなかったのか?
「まあ、怖いわ。それで、犯人はわかったのかしら?」
「聞いていないよ」
役に立たないエヴァンは、首を振るだけ。オレリアが犯人と疑われていることも知らないのだろうか。それとも、噂もされていないということだろうか。焦りだけがつのって、爪を噛む。どうしてこうもうまくいかないのだろう。
誰かが、オレリアを殺してくれればいいのに。そう仕向けたつもりなのに、うまくいかなかった。
「騎士たちがオレリアのせいにしたがったけど、研究所の局長に無礼を働いて、牢に入れられたと聞いたよ」
またも役に立たない。どうして証拠の一つでも作って、あの女の仕業にしないのだ。
いや、部屋に閉じ込められていて、カロリーナの言う通りに操れる駒がいない。見知らぬ騎士たちが、勝手にやってくれただけましだろうか。だが、失敗しては、意味がない。
そして、オレリアを助けたのが、薬学研究所の局長だと言う。それがセドリックだと知ったのは、自分が侍女をクビになってからだった。義父も知らなかった、薬学研究所局長。ボサボサ頭の髭面をして、ずっと周囲を欺いていた。義父にはどうして気づかなかったのかと罵られたが、お前だって気づかなかっただろうが。
オレリアはセドリックと薬学研究所で一緒にいるのだ。それを知っていれば、エヴァンのことで噂など流させなかったのに。セドリックに近づける方法を考えたのに。
「あの女、末端貴族のくせに。そうよ、どうしてあの女が、薬学研究所になんて入れるの?」
薬学研究所の水準は高く、国の大切な施設だと、後で聞いた。王の甥が働くような場所に、平民のような女が、どうして入れるのだ。どんな理由があって、セドリックのパートナーになれるのだ。
「おかしいわ。きっと何か、裏があるに決まってる!」
「なんの話? オレリアのこと?」
「そうよ! どうしてあの女がセドリック様のお相手として、パーティに参加できたの!? エヴァンは何か知らなないの!?」
「セドリック様って、王の甥の? オレリアがパーティに参加して、パートナーだったってこと?」
「パートナーだったのよ! 何で知らないのよ!! 二人でパーティに出席していたのよ!?」
なにを呑気なことを言っているのか。エヴァンはパーティに出席していなかったが、それくらい幼馴染として聞いていないのか? オレリアにすら飽きられているのではないか。
「オレリアがそんな身分のはずないよ。ターンフェルトに病気で訪れていたけれど、身分が高かったら、僕と一緒にいるわけないし、おばさんはすごく気さくな人だったから。お屋敷は大きかったけれど、みんなを呼んで、庭でお茶をしたりするような人だよ? 親に失礼のないようにとは言われていたけれど」
「じゃあ、どうしてなのよ! 教えてよ!!」
エヴァンは困惑顔をするだけだ。幼馴染と言って甘えていたくせに、オレリアのことをなにも知らない。それもそうだ。ターンフェルトを離れて、長く連絡を絶っていたのだから。オレリアから届いた手紙は、すべて捨てさせていた。エヴァンがオレリアに出していた手紙も、届けさせていない。
それでも、オレリアに尾を振るのだから、バカの一つ覚えの犬みたいだ。
エヴァンがオレリアをなんとかしてくれればいいのに。二人でターンフェルトに帰ればいいのだ。二人がいなくなれば、今までのことを、二人にせいにできる。理由は後で考えて、こじつけでもなんでも、それっぽい理由をつくればいいだろう。毒が部屋から出てきたとか、そんなことは簡単に捏造できる。
「ねえ、オレリアと一緒に帰ったらどう?」
「どこに?」
その問いに、苛立ちが頂点に達した。帰るならばターンフェルトだろう。




