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41 Side2

「王の甥はどこにいらっしゃるのでしょうか? 気になりますわ」

 侍女の一人が問うことに、王女アデラが鼻で笑うようにする。この王女は生意気だ。カロリーナより年下だが、王女然としていて、いかにも鼻のつく女だ。なにかあればすぐに叱責してくる。王女の質に関わるような侍女は、側に置けないと言ってくる。生意気で、いつか誰かが首を絞めればいいのにと思っていた。


 このまま王の甥が現れなければ、義父も諦めるだろう。エヴァンは騎士になり、王宮で働いている。侍女を辞めることになって、養女ではなくなったとしても、エヴァンのお嫁さんになればいいだけのこと。もっと身分の良い男がいればそれでいいけれど、今のところ、エヴァンのように純粋な男は周囲にいなかった。

 それもすぐに実るだろう。そう思っていたのに。


「オレリアがいたんだ! ずっと会っていなかったけど、王宮で働いているなんて」

 エヴァンが、カロリーナに見せたことのない、満面の笑顔で伝えてきた。

 どうしてここに? 問えばエヴァンは、オレリアは学生で、研究所で働いているらしいと言うだけで、久しぶりに会えた幼馴染との思い出を回顧するばかり。いつも通り、何も考えていない。

 あの女について、誰かに聞かなければならなかった。学生が入るような研究所とはどこなのか。


 使えそうな男を限定して、それとなく親しげに、そして困っていることを伝える。どうすればいいのか、悩み、苦しみ、悲しんでいることを伝えて、すり寄ればいい。

 人によってはそれだけで済んだ。けれど面倒な男は、それだけでは動こうとしなかった。ならばそうなるように促せばいい。

 調べさせれば、オレリアはどこかの学院の生徒で、王宮の隅にある研究所というところに手伝いをしに来ていただけ。ならば、どうなろうと問題ない。まだ学生をやっているのだから、どうとでもできるだろう。


 毒を奪わせるのは簡単だった。カロリーナは故郷でオレリアに嫌がらせをされていた。毒を使い、傷つけられた。またやられたら怖い。そう言うだけで、勝手に毒を盗んだ。ただ、馬鹿だったのは、この男が処理物の開け方を知らなかったこと。途方に暮れて、カロリーナに盗みを吐露してきたことだ。


 盗んだ話をしてきてどうする。すぐに返さなければならないと伝え、私のために嬉しいと褒めながら、毒で傷ついたことを思い出すと涙すれば、どうにか開ける気になって、勝手にいなくなった。

 けれど、それ以上頭は回らない。馬鹿な配送員は動けずにいて、結局、義父の専属医療魔法士を遣わせて、蓋を開けてやった。医療魔法士はたまに言うことを聞いてくれる。差し出すものが必要なのが面倒だけれど。


 配送員はオレリアをなんとかするのかと思えば、植物園に仕掛けただけなどとバカな顔をして知らせてくる。医療魔法士は、あの毒は大した毒ではないと教えてくれた。だから、オレリアのせいにするために、その罠にわざと引っかかったのだ。

 それでも、あの配送員の男が、勝手にやったことだ。カロリーナはなにもしていない。

 間違って、罠に掛かっってしまった。それだけだ。

 配送員はカロリーナがかかったことを、口にしたりしない。気の弱い、怯えてばかりの男だ。捕えられても、見知らぬ誰かに開けてもらったと言うしかない。実際、誰だか知らないのだから。


 金髪の騎士は、進んで調査に入った。オレリアのことを伝えていたのだから、勝手にオレリアを犯人にする。おかしくて仕方がない。ただの学生で下手な薬草を作ると噂を回したのは他の侍女たちだが、それを勝手に信じ込んだ。王宮ではそんな噂一つが簡単に広まる。こんな簡単なことはない。

 だが、執拗にオレリアを犯人に仕立てようとして失敗し、謹慎処分を受けた。その後もカロリーナに慰めてもらいに来ながら、自分が謹慎になったことを逆恨みしていた。それで殺してくれればいいものを、騎士を辞めさせられて、牢屋の兵士に格下げられて、恨み言を言うだけ。まったく役に立たない。


 それでも、あの女はのうのうと生きていて、エヴァンに至っては、カロリーナの足の心配をしながら、オレリアは悪いことをする人じゃないと、いつまでも言っている。それがなに? だからなんなの?? エヴァンの脳内花畑にも嫌気がさしはじめた。どうしてそこまであの女を思い出すの? あの女の何を望んでいるの?

 我慢がならない。


「エヴァンは、私のことが嫌いなの?」

「嫌いなんて。どうしてそう思うの?」

「私の側にいるのに、私のことを見ていないみたい」

「そんなことないよ。どうしてそんなことを思うの?」


 わかっていないのか? そこまでくると、花畑すぎるだろう。けれど、王宮にはまともな男はいないし、権力のある男たちは、なぜかカロリーナを相手にしない。年が離れ過ぎているからだろうか。騎士や配送員など、使えない者たちばかり。少しでも近寄ることができれば、簡単に物にできるはずなのに。

 王の甥が出てこないのならば、エヴァンと結婚することを優先したほうがいい。


「ねえ、エヴァン。私を見て。私はあなたにとって、魅力的な女の子かしら?」

「もちろん。カロリーナは魅力的だよ?」


 子供みたいな言い方。実際、エヴァンは子供なのだ。田舎で生きてきて、見習い騎士になってそれなりに厳しさに接してきたのに、精神がてんで成長していない。しかしこの純粋さが、憎まれることはなかった。鈍感すぎて、嫌がらせをされても気づかれないこともある。暴力を振るわれても、耐えている。それでも、素直だからと愛される性格をしていた。

 恋愛関係を除いて。


 女たちに媚びられても無視しているのは好ましいけれど、その気持ちがなさすぎなのだ。子供の頃から女たちの好意を、嫌がらせだと勘違いしている。それはそれで面倒だと、この年になって思う。だから、こちらから誘導しなければならない。他の男たちのように勘違いをしてくれない。はっきりと、しっかりと、こちらから率先して攻めなければならないのだ。

「エヴァン。私がたくさん教えてあげる。きっとエヴァンも気にいるわ」


 それなのに、







「なんてこと、あの方がセドリック様なのでしょうか」

 パーティでの出来事。王女はセドリックが現れたことに驚きながらも、微笑ましそうに二人を見ていた。

 あれが、セドリック様? なんて美しく、素敵な方なのかしら。やっと現れてくれたのだ。


「あれが王の甥よ。無駄に顔だけはいいのだから。まあでも、やっとあの顔で女性を連れるようになったのね。安心したわ」

 なにが安心だ。王女は微笑ましそうに言いながら、鼻で笑ってくる。このことを知っていたのか? しかも、セドリックの隣にいる女に、発狂しそうになった。また、お前が邪魔をするのか!?

 あの女は邪魔だった。ずっと前から。けれど、今回は、排除しなければならない。


「あの方、ひどいのです。どうして、私を傷つけるのかしら。私はセドリック様のことなど何も思っていないのに、セドリック様を自慢してくるんですよ。そして、私の何がいけないのか、何度も言ってくるんです。毒でも飲んで、死んでしまいたくなる」

 そんなことを言えば、黒髪の騎士は憤った。毒を飲むのは、あの女だと。


「そんなことはしてはいけません。恐ろしい考えですわ。けれど、許せない時があるのです。いっそ、彼女のせいだと言って、毒を飲み干そうかしら。そう、今度の大会の時、大勢いる前で私が倒れたのならば、きっと反省してくれると思いませんか?」


 黒髪の騎士はふと口角を上げた。一つの想像が頭に浮かんだのだろう。

 何をすればいいのか、それくらいは自分で考えればいい。けれど、カロリーナの言う通りのことをしなければならない。

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