39 保身
「金髪の騎士は、カロリーナは恋人だと自慢していたようだな。カロリーナは否定していたようで、他の騎士たちは信じていなかったそうだ。わざわざ、優しくしてもらってお礼を言えば喜んでいたので、勘違いさせてしまったのかもしれない。と言い訳までして」
「そんなことで、信じる方も信じる方ですけれど」
「一定の男には人気があったのはたしかだ。人を選んで随分と媚びていたみたいだな。合いそうにないとわかれば、すぐに離れる。その選択がしっかりできていたんだろう。すぐに人の話を信じて、気は弱いが煽てれば気が強くなるような、そんな男ばかりだ。エヴァンに関しては、そういう扱いはしていなかったようだが」
しかし、カロリーナは王妃主催のパーティで、セドリックを見てしまう。
たったそれだけ。それだけで、カロリーナは鞍替えをしたのだ。しかし、セドリックを初めて見た日に、侍女を辞めさせられた。カロリーナの怒りは凄まじかったのだろう。
オレリアがいなければすべてうまくいった。そう考えたのか、オレリアを殺そうとまでした。
「まだ他にも、気になる点は多々あるが……」
調べが終わっていないのか、セドリックは少し口籠る。それもすべてつまびらかになると言いながら。
「植物園の警備の人たちは、どうやって?」
「物音を出して、誘導し、後ろから殴りつけたようだな。あそこの警備は二人で、一人を倒して、もう一人も同じ手で倒したのだろう。それで、警備から剣を奪った」
一人の警備は重症で、意識がないままだ。もう一人は気絶しただけで、目が覚めてからそう答えた。
「よくわからないです。カロリーナが、どうしてそこまでしたのか」
「俺にもわからない。だが、子供の頃からそうやって周囲を侮り、操ってきたのだろう。自分が頼めば何でも行ってくれる。そんな相手を見つけては、自ら動くことなく、思い通りに動かしてきたんだ」
エヴァンはどこでそれに気付いたのだろう。事実に気づき、オレリアに一緒に帰ろうと言ったのだ。
エヴァンは本当に騎士を辞め、ターンフェルトへの帰路を歩んでいた。だが、今回のことで、王宮に戻され、カロリーナについて問われるだろう。エヴァンがどこから知っていたのか、知る必要があるからだ。もしも、多くを知っていて黙って逃げたのならば、エヴァンも罪になる。
「何も関わっていないだろうがな」
「でも、事実を知って、逃げ出したのかもしれないです」
「それでも罪は軽いだろう。騎士に戻ることはできないだろうが」
その騎士の立場すら、カロリーナが作った道だ。けれど、エヴァンが努力して、騎士として王宮で働けていたのだ。腕がなければ、不当な推薦でも、使えないと言われていた。
エヴァンは騎士の中でも噂は悪くなかった。女の子に注目されることでやっかみを受けていたが、エヴァンに同情し、恋人を作るように勧めていた人もいた。エヴァンが努力をし、大会では良い成績を収めたこともあった。騎士として努力していることを見ている人も、大勢いたのだ。
それなのに、どうして逃げるのか。
他に、何か方法はなかったのか。
「オレリア、大丈夫か?」
「……大丈夫です。ただ、最後まで無責任だったなって思って」
オレリアの身分が低ければ、危険だと知らせてから、一緒に逃げるつもりだったのかもしれない。オレリアの父親は身分が高いと言った覚えはあったのに。
(その時は大臣ではなかった。その時に大臣であれば、大臣と言えていれば、違っていた?)
オレリアの身分は高い。今度は騎士になったことに引け目を感じ、知られる前に逃げ出した。
何も知らないと言って、逃げるように去っていった、あのエヴァンの後ろ姿は、自らの保身のための逃走だったのだ。




