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35 理由

「殺された二人の騎士たちに、長く金をせびられてたんだと。騎士の中では、そいつが一番弱いって、結構馬鹿にされていたみたいだな。その恨みで殺したみたいだけど」


 セドリックを刺した、黒髪の騎士。同じ所属の騎士たちからいじめを受けていたようだ。オレリアを殺しの犯人だと言いに来た騎士たちの中にいた男で、親友を殺されたと言っていた騎士の後ろで、オレリアを犯人にしようと誘導するように口を挟んでいた。


 オレリアを犯人に仕立て、自らの仕業を誤魔化そうとしたのだ。

 捕えられたその黒髪の騎士は調べを受けている途中で、今のところわかっていることはそれだけらしい。


「またなんかわかったら、すぐ伝えにくるわ」

「ありがとうございます」

「治療はできてんだから、あんま気にしすぎないようにな」


 オレリアは頷いて、ディーンが部屋を出ていくのを見送る。

 セドリックが毒で倒れ、すぐにその治療をディーンが行ったが、毒の回りが早く、治療を終えた今も意識が戻っていない。


 毒は、騎士たちを殺した毒と同じ。成分は毒を持つ動物から得たもので、薬草から作られた毒ではなかった。

 体に回った毒は取り除いたが、飲み込んだだけで死に至る毒だ。傷口からでも体内に入れば、細胞を壊してしまう。内臓に入ったわけではないため、早めの治療により死亡は免れたが、それでも影響はある。

 治療後、セドリックは屋敷に運ばれた。それから一日経ったが、まだ目が覚めないのだ。


「オレリア様、少し休まれませんと」

「大丈夫です。側にいたいので」


 ブルーノとクレアが側に控えていたが、ブルーノは頷くと、何かあればベルを鳴らすようにと言って、クレアを連れて部屋を出ていく。

 エリザベトも部屋にいたが、王に現状を伝えると言って、先程出て行った。


 自分を庇ったせいだと何度も謝ったが、謝って済む問題ではない。エリザベトは大丈夫だと抱きしめてくれたが、もし、このまま目が覚めなければ、


「どうすればいいの?」

 ぎゅっと握った手は冷たく、体温を感じないほどだ。

 もし、オレリアのせいでセドリックに何かあれば、どうすれば良いのだろう。

 ディーンはもうすぐ目が覚めると言ってくれたが、本当に目が覚めるまで、安心などできるはずがなかった。

 もしなにかあれば、どうすればよいのか。


 手を握りしめて、祈るように自分の額に当てる。

 誰かを失うことは恐ろしい。それが、大切な人ならばなおさら。


(私、この人が本当に好きなんだわ)

 そんなことを、こんな時に、はっきりと気づくなど。

 急に涙が出そうになる。こんな風にならなければ、ここまで好きと気づかないなど、自分の鈍感さに呆れてしまう。


 最初は、一緒にいて居心地の良い人という程度だった。勉強にもなるし、自分の見識を増やすことができて、楽しい程度。話せば心優しく、温かい人だとわかった。パートナーになって、気になる気持ちが膨れて、一緒にいたいと思うようになった。

 パーティの後は、大会もあって忙しくして、二人きりで話す時間を取れなかったが、こんな風に二人きりになるなんて、考えもしない。


「セドリック様、どうか、目を覚ましてください」

 何度も呟いて、オレリアはただ、セドリックの瞼が開くことを待ち続けた。









 遠くで、オレリアを呼ぶ声が聞こえる気がした。


「―――リア、オレリア」

「んんっ。―――せ、セドリック様!?」


 呼んだのはセドリックで、青白い顔で寝転んだまま、オレリアの髪の毛をそろりと指で引っ張った。

 気づけば窓の外は明るくなっており、いつの間にか朝になっていた。ベッドに寄りかかって眠ってしまっていたようだ。


「ずっと、ここにいたのか?」

 少しだけかすれた声に、オレリアは涙が出そうになる。セドリックは重病人のような顔をしていた。髪の毛に触れる指も、冷えたまま。唇はカサついて、目元はくすんで見えた。


「目が覚めないのかと思って、心配したんですよ! どうして、私を庇うような真似を。ああ、そんなことより、医療魔法士を呼んできます。すぐに呼んで、」

 立ちあがろうとすると、セドリックが袖を引っ張った。

 めまいでもするのか、起きあがろうとするので、すぐにそれを助けてやる。ぐらりと傾きそうになるセドリックの肩を支えて、クッションを置いてもたれさせてやると、うっすらと微笑んだ。


「無事でよかった」

「私は無事でしたが、局長が!」

「さっきは、名前で呼んだのに」

「た、他意はないです。驚いて、お名前で呼んでしまっただけで」

「本当に?」


 セドリックはニッと笑って、オレリアに苦しそうながらも、いたずらっ子のような顔を向ける。伸ばされた手が頬に触れて、髪の毛を耳にかけてくれた。

 それだけで顔が熱くなる気がする。セドリックはそのままベッドに寄りかかっていたオレリアの手をとると、そっと甲に口付けた。


「君が無事でよかった。オレリア」

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