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31 事件

「想像つきますけど、端からあしらったんですかあ?」

 ディーンの言葉に、セドリックが睨みつける。なんのことかと首を傾げれば、セドリックはばつが悪そうな顔をした。

「令嬢が並んだんでしょう。大変でしたね」


 横からベンヤミンが付け加える。セドリックは鼻の頭に皺を寄せると、どうでもいいだろう。と小鼻を膨らます。

 どうやら、王の陰謀はまだ続いていたらしく、試合でセドリックの良いところを見せて目立たせた上、婚約できそうな令嬢たちが挨拶できるように、場を設けられたようだ。


「パーティといい、今回のことといい、王は積極的じゃないですか。そろそろ観念しろってことなんじゃないんですか? 局長辞めるとか言わないでくださいよ。困るんで」

「俺だって困る。その観念しろってのもやめてくれ。王女の婚約があるから、次いで決めてやろうという、王の戯れだ。しばらくしたら飽きるだろう」


 しかし、セドリックは第二継承権を持っている。いつまでも避け続けるのは難しい。

 もし王が本気で命令すれば、セドリックは断ることはできない。そう考えると、胸が重くなるような気がした。


「それで、騎士たちは、食中毒だったのか?」

「同じ所属の騎士たちと、数人の別の所属の騎士たちが、腹痛と吐き気の症状を訴えていることから、同じ物を食べたのだろうということになりました。食材はまだわかりませんが、命に関わるものではないため、医療魔法士の衛生班が調べます」


 しばらく様子見も兼ねて、本日はこのまま医療魔法士が構える棟に泊まるそうだ。薬学魔法士も薬などを作るため、共同で患者を診ることになる。普段、緊急の体調不良者のために部屋は開けており、その際にも医療魔法士と薬学魔法士が協力を行うため問題はない。

 ベンヤミンの答えに、セドリックは頷く。あとの仕事は医療魔法士の仕事で、薬学研究科では薬を与えるだけだ。


「事件性がなければいいんだがな。団体戦の一個団が、ほとんど倒れたのだから」

 不正でもあったかもしれない。その呟きに、オレリアはどこか寒気を感じた。








「あの、また、申し訳ありませ、わあ!」

 医療魔法士が後ろにいる騎士たちに蹴り飛ばされて、前のめりに転げる。

 また来たのかという感想をディーンが口にすると同時、髪の毛をボサボサにしたセドリックが立ち上がった。


「今度はなんだ。食中毒の件で、オレリアが関係しているとか言うなよ?」

「その通りだ。医療魔法士の証言で、薬湯に毒が入っていたことがわかった。昨日入院した騎士が、二人死亡。その毒が原因だ!」

「なんだと!?」

「嘘だろ? あいつらは軽傷だったはずだ」

「だから、毒を入れたと言うのだ!」


 騎士が言い切ると、セドリックは医療魔法士を睨みつける。申し訳なさそうに頷くが、オレリアが犯人と思っているようではなさそうだ。ただ、金髪の騎士はもうおらず、来たのも前とは別の騎士たちだった。これらの騎士たちも同じくオレリアを犯人と思っていると、部屋に入ってこようとする。前の金髪の騎士はいないのに。騎士たちの中でオレリアを犯人とする風潮はまだあるようだ。

 ベンヤミンとディーンがそれを遮り、セドリックがさらにその前に出ようとした。


「邪魔しないでいただきたい。薬湯を用意したのは、そちらの女だとわかっている!」

「たしかに、私が用意しましたが、なんのために、毒を入れる必要があるのでしょうか?」

「下手な学生が、調合を間違えただけだろう!」

「薬湯は大量に煮出して、同じ症状の人たち全員に渡してあります。それであれば、何人も毒を含むことになりますが?」


 薬湯はポットに入れ、個々にベッドの側に置いた。患者たちは意識があり、自分たちで薬湯が飲めるため、食後飲むように伝えてある。それは本人たちだけでなく、医療魔法士も知っていた。もし、食後に患者が薬湯を飲んでいたら、何人も倒れているはずだ。

 そして、あの部屋は厳重に警備がされているわけではない。そこに何かを混入させるのは、誰にでもできる。


 オレリアがそう説明すれば、セドリックがそれを確認するように、医療魔法士に顔を向けた。医療魔法士は、何度も頷いたが、すぐに騎士に睨まれて、体を縮こませる。

 医療魔法士も騎士にそう伝えたのだろう。だが、またも彼らは勝手にオレリアを犯人に決めつけ、ここまでやってきたのだ。

 カロリーナを殺そうとしただけでなく、今度は騎士を殺そうとしたなどと。しかも、今回は本当に死亡者が出ている。


「私には動機がありません。人を犯人にする前に、ちゃんと調べてください。それより、どうやって亡くなったんですか?」

「薬湯を二人が飲んだところ、いきなり吐き出し、騒ぎになったんです。今、部屋は大騒ぎで」

「では、先ほど起きたのか?」

「そうなんです。それでポットの中に毒が入っていることに気づいたのですが、それだけで、仲間の騎士が……」


 仲間の騎士ということは、亡くなった二人と同じ所属のようだ。それでオレリアを犯人と決めつけたのか。

 医療魔法士はちらりと横目で見るが、騎士は医療魔法士の視線など気にもしていない。オレリアに恨みを向けるように、睨みつけるだけ。


「あの部屋は誰でも入れますし、まだ検証が終わっていないので、お知らせということで。念の為、注視していただければと」

「毒草の調査が先だ!」

「いい加減にしてちょうだい。毒草の管理は、私が全て行っているわ! まずはなんの毒か調査し、疑うのはそれからにしたらどうなの!」

「その通りだ。薬学魔法士を一人やる。毒の確認を」

「お前たちは仲間だろう! 毒の隠蔽をしているんだ!」

「話にならない。騎士たちを殺す必要性はなんだ。言ってみろ!」

「知ったことか! その女に聞け!」

「むしろ、私が聞きたいです。私を犯人に仕立てようとするのは、なぜですか?」

「噂は聞いているんだぞ!」


 噂とは、カロリーナの話のことだろう。それをまだ信じているとは。金髪の騎士と同じ所属ではないと思うが、所属関わりなく、騎士たちの共通認識なのか。

 いくら仲間が亡くなったとはいえ、冷静にならず感情で犯人を決めるとは、どうかしている。騎士の水準が低すぎではないだろうか。


「所属はどこですか。正式に抗議させてもらいます」

「なんだと!? 俺の親友を殺しておいて!」

 騎士の一人が涙目で叫んだ。感情的になる理由があるのかと思うと、オレリアも肩の力が抜ける。しかし、本当の犯人がいるのだから、しっかり落ち着いて考えてほしい。


「私ではありません。しっかり調べましょう。本当の犯人が、証拠を消す時間を作るのは、得策ではないと思います」

「う、嘘をつくな! お前が犯人だ!」

 後ろにいたもう一人の男が、上擦った声で声を荒げる。黒髪の男で、腰が引けていたが、オレリアを指差した。


「よくわかった。おい、そこの。こいつらの騎士隊長を呼んでこい。俺が直接話す。こいつらは、話にならん!」

「しょ、承知しました! 今すぐ、連れて参ります!!」

 セドリックの言葉に、医療魔法士が駆け出す。騎士たちはなおもオレリアを捕えようとしたが、オレリアが先に防御の結界を張った。


「うわっ。こいつ!」

「て、抵抗する気か!」

「まともな調査もせずに、その場の感情だけで犯人に仕立てる者たちの言うことなど、聞くに値しません。冷静になってから出直してください」


 オレリアが防御の結界を作れるとは思っていなかったか、騎士たちは弾かれて後退する。きっぱりと言いやれば、騎士たちが顔を真っ赤にした。

 勢いよく部屋に足を踏み入れて、なおもオレリアを掴もうとした瞬間、セドリックの指先がパッと光った。途端、騎士たちが廊下に滑り込むようになだれた。

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