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29 侍女

「オレリアさん、こっちは調合し終えた?」

「はい。準備した分、すべて箱に入れました」

「助かるわ。まだ実習生のあなたに、ここまで手伝わせることになるなんて。本来なら、薬草の開発などの雑務、って程度のはずなのに」

「色々なことを教えてもらいながら、新しいことも手伝わせてもらえるので、すごく勉強になります」

「魔力は多いし、新しい発想も出て、局長も研究意欲増しちゃうくらいだし。オレリアさんは優秀だから、すごく助かってるわ。今回の大会の準備も、私たちだけじゃ、間に合わなかったかも」

「そんな。私こそ、今回、医療班に参加できて嬉しいです」

「大会を見学する暇はあると思うから、休憩して見に行きましょうね」

「楽しみにしています!」


 今日は、王宮で行われる、御前試合だ。

 騎士たちの馬術や剣技、魔法の技術を争う大会で、一日かけて試合が行われる。

 各部門の優勝者には賞金が与えられ、騎士の称号に箔がついた。この大会に賭けている者もいるので、毎回そこそこの怪我人が出る。薬学魔法士や医療魔法士が忙しくなる日だ。研究所では、薬草の準備が必要になった。リビーと一緒に、調合された薬草を箱に入れ終えて、医療魔法士の待機する部屋へ運ぶ。


 人だけでなく、馬の怪我もあるため、多種類の薬草が用意された。すべての騎士が参加するわけではないが、団体競技では見習い騎士たちも集まる。子供たちが大怪我をしたり、馬上から落ちて気を失ったりするなども多々あるため、ベッドのある部屋も用意された。

 医療魔法士は多くいるが、薬学魔法士の皆も医療魔法士の資格も持っているので、もしもの時は駆り出されるらしい。オレリアは医療魔法士の資格を持っていないので、雑務だけだ。薬学魔法士でもないので、薬学魔法士の許可を得て、足りなくなった薬草の調合などを行なう予定である。


 会場は準備だけでも多くの人々が集まり、行きかった。観客も入れば、競技場内は熱量が高くなる。警備も多く、あちこちで兵士たちが周囲を見回している。

 警備が多くいるのは、王族も参加するからだ。

 その王女、アデラが侍女や騎士を伴って廊下を歩いていた。

 後ろには、あの三人がいない。


「薬学魔法士たちも、随分と忙しそうね」

「殿下にご挨拶申し上げます」

「畏まらないでいいわよ。お兄様、今日はその髪型なの?」


 セドリックはアデラの言葉に、不機嫌そうにして頷く。

 今日のセドリックは、局長ではなく、セドリックの装いだった。髪の毛はパーティの時のようにまとめられて、前髪を耳にかけている。局長の姿ではないので、周囲から注目を浴びていた。それでも声をかけてくる者はいない。セドリックが医療班に混ざっていることに、皆が驚くだけだった。声をかける勇気はないのだろう。

 それでも不機嫌なのは、好きでこの髪型をしているわけではないということだ。

 アデラは、事情は知っていると、局長と呼ばず、お兄様と呼んだ。しっかり切り替えて呼んでいる。


「聞いたのだろう。王からの命令で、魔法部門に出ることになった」

「少しは目立てと言うのでしょう。良い傾向じゃない。いっつも、陰気な顔をしているのだから、それなりに装ってほしいわ。むさくるしいのだもの」

「余計なお世話だ。それより、やっと侍女を変えられたのか」

「お兄様のおかげよ。今回のことを機に、やっと三人ともクビにできたの。前々から目に余るものがあったし、あなたの良くない噂を流していたからね」


 アデラはオレリアの噂はよく聞いていたと、呆れ声を出した。

「あれで私が信じると思っているのが、浅はかなのよ」


 オレリアの噂話をアデラに信じ込ませるために、三人で結託し、大きく話を盛って噂していたようだ。アデラはセドリックから話を聞いていたため、噂話を信じているふりをしていた。それに味を占めた三人は、有る事無い事口にするので、言質を取り、クビに持っていったそうだ。


「そもそも、カロリーナを侍女にしたのは、副大臣からよろしく言われたからなのよ。わざわざ地方から遠い親戚を呼び寄せて、養女にしてまで、私の侍女に入れたの。二人の侍女もおもねっていたでしょう? 副大臣が彼女のために、他の家の娘たちも推薦したのよ。それで、あの結果だったってこと。侍女たちにも、もう少しまともな知恵をつけさせるべきだったわね。お兄様に気づく様子もなかったし」

「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味よ。わかるでしょう? だから、パーティに参加して、見つけたお兄様のパートナーに、わざわざ喧嘩を売りに行ったんじゃない」


 それは、オレリアのことだが、オレリアも意味がわからず、首を傾げそうになった。アデルはわざとらしく肩をすくめて、セドリックを呆れ顔で見やる。


「お兄様の相手として、養女にしたに決まっているじゃない」

「そんな気はしていたが、一応、あの女は、エヴァンと恋人同士なのだろう?」

 あれだけ牽制してきて、エヴァンと恋仲ではないと言うカロリーナは、オレリアの前では恋人気取りであったし、エヴァンはそのつもりである。


 しかし、パーティでは周囲に誤解されるよう、エヴァンとオレリアが恋人同士かのように話した。あれを考えれば、カロリーナがどう思っているかは、あやしいものだ。

 むしろ、セドリックに気があるような雰囲気を出していた。


「私の前で、カロリーナは騎士を恋人とは言わなかったわよ。親しい、故郷の友人と言っていたわ。とても親しいのだけれど、彼には幼馴染がいて、いつも比べられてしまう。とか、私たちのことを誤解して、嫌がらせをしてくるんです。そんな感じね」

「それじゃあ、やっぱり、エヴァンは」

 騙されていたのか?


 エヴァンも、カロリーナよりオレリアを気にするような素振りがあった。けれど、恋人なのかと問えば頷いたのだし、エヴァンは恋人のつもりだ。それに、屋敷に行ったとも言っていた。親しいのは間違いない。なんと言っても、カロリーナはオレリアに嫉妬し、オレリアの噂を流していたはずだ。

 あれだけエヴァンを取られまいとしていたのに、急に態度が変わったのだ。なにか心変わりでもあったのだろうか。


「たちが悪すぎないか? あれだけ散々嫉妬したように見せていて、恋人じゃなかっただと?」

「お兄様が現れなければ、恋人のつもりだったのではないの? 私の侍女になって、話にお兄様のことをそれとなく混ぜて聞いてくるのよ。私がどこにいるかも知らないと伝えれば、そのうち聞かなくなったわ。あの騎士と会っているという話は耳にしていたけれど、表立って会ってはいなかったでしょうね。それなりに計算はしていたのでしょう」


「エヴァンは、騙されていたんですね……」

「騎士たちを前にして、話しかけてはいなかったから、そこは気を付けていたように思うわ。ただ、侍女たちには恋人だと宣言していたわよ。私の前では言わなかったけれど。女の前では牽制して、男の前ではただの故郷の知り合いってところね。そういう女なのでしょう。打算であの騎士を側に置いて、もしお兄様が現れたら、すぐに動こうとでも思っていたのではないの。パーティでの騒ぎが、その証拠だわ。あなたを陥れて、お兄様に二股をしている女だと訴えて、ついでに仲良くなろうという魂胆は、お粗末だったけれど」


「呆れた話だな。エヴァンには同情する。まあ、エヴァンもエヴァンだからな。オレリアを一番において、カロリーナと過ごしているのだから、似た者同士か」

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