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26 騒ぎ

「一体、どちらが本命なのかしら? まさか、彼を裏切られるの? 私、彼が嬉しそうに話しているのを聞いたんです。今度誕生日だから、何がもらえるのか楽しみにしているって。彼が何を好きなのか、もちろんご存知なんでしょう? どんなものを贈られるおつもりなのかしら?」


 エヴァンの誕生日はすぐだったか。それすら忘れていた。

 誕生日の贈り物など、する予定はない。しかし、カロリーナはそのように仕向けたいのだ。答え方には気を付ける必要があるが、何を言っても揚げ足を取って来そうな気もする。

 オレリアは少しだけ考えて、軽く微笑んだ。


「さあ、私は何も。もう長く会っていなかった人の誕生日など、知る由もないわ」

「幼馴染で、あれだけ仲が良かったのに、知らないだなんて、嘘を言わないでください。どうしてそんな意地悪を言うんですか? 彼がかわいそうだわ。楽しみにしてらっしゃるのに!」

 カロリーナは突然大声を出すと、目に涙を溜め始めた。

(泣くの、早すぎないか? 目に水瓶でも入ってるの??)


 しかも、侍女たちがすぐに反応して、カロリーナを庇う姿勢を見せてくる。

「ひどいわ! カロリーナ様が、親切に教えて差し上げているのに、そんな言い方をするなんて!」

「カロリーナ様が可哀想だわ。あなたのような方が、セドリック様のパートナーだなんて!」


 エヴァンからセドリックに飛び火した。二股宣言からの、すべてお前が悪いという、いかにもな会話に持っていっている。しかし、これは大声なので、集まってきている者たちからすれば、面白そうな茶番に見えるだろう。女性陣はセドリックのパートナーである女が悪く言われることを、喜んで噂する。

 だがそれは、セドリックが一番嫌うことだ。


「幼馴染だからと言って、贈り物をするとは限らないでしょう? あなたの方が親しいのに、なぜ私にそんな話を? あなたの贈り物が欲しくて、話しているのではないの?」

「そんな。どうして私が、あなたの恋人に贈り物をしなければならないの!?」

 カロリーナの発言に、オレリアは目をぱちくりと開いてしまった。こいつは何を言っているのか? その言葉が口から漏れそうになる。ここにきて、カロリーナはエヴァンの恋人ではないと言い張るのだ。


「ひどいわ。彼が可哀想。オレリアさんに騙されているなんて、思いもしないでしょう。嘆く姿が目に浮かびます。オレリアさんがそんな人だとは思いませんでした!」

 オレリアを悪者に仕立てるための大声に、皆が注目した。

 涙を拭うハンカチの下で、カロリーナがニヤリと口角を上げる。


 こんなバカな話でも、周囲は事実など関わりなく噂する。それを理解しての発言だ。カロリーナは王女の侍女。名前の知られていないオレリアに比べれば、周囲もカロリーナを支持するだろう。

 ここで父親の身分を使いたくはないが、さすがに放置できない。これ以上騒がれても面倒だった。


「それなのに、ただ私と彼が話しただけで嫉妬して、私を傷つけようとしたのね!」

 その言葉に、堪忍袋の緒が切れた。


「カロリーナ・オールダム。いい加減にされたら? あなたは真実ではないことを、大声で話し、人前で泣き真似をするなど、自ら品がないと皆に言いふらしているように思えるけれど、それで殿下の侍女など務まっているのかしら?」

「なっ!?」


「ああ、地方からいらして、養女になられたのだったわね。だから、何もご存じないのかしら? ねえ、あなた方もよ。研究員がパーティに参加できるのか? その言葉は、しっかりと私の耳に届いたわ。研究員が何者かも理解できていない者が、殿下の侍女? その程度では、殿下の質を貶めるようなもの。自ら辞された方が良いでしょう」

「なんですって!?」

「大声を出さないでいただきたいわ。あなた方は私を侮辱する前に、研究員の皆様と、殿下を貶めているのよ。それに気づかない程度で侍女などなさっているのならば、恥と思って当然のことでしょう?」

「ひ、ひどいわ! オレリアさんは、なんの目的があって、そのように言われるの!? 私はただ、あなたの幼馴染が、可哀想だと言っているだけではありませんか! オレリアさんの恋人の、彼が可哀想だって!」


 カロリーナはさらに大声を上げる。その声でオレリアの言葉を消すつもりだろうが、オレリアの言葉を聞いた者たちは、すでにざわめき始めていた。カロリーナもそれに気づいたか、もう一度大声を出す。

「セドリック様と、あなたの幼馴染の二人を、天秤にかけるだなんて、なんて汚らわしいの! その上、彼と話しただけで、私に嫉妬して、怪我をさせるなんて!」


 そうやって大声を出している時点で、自分の品の無さを露呈させていることに気づかない。その上、二股するような女を、セドリックがパートナーにしたと言い退けた。この時点で、オレリアの勝ちだ。


「常識のない方々に、侍女が務まりますか? もう少し勉強をされた方がよろしいわ。カロリーナ。あなたは今、私のパートナーである、セドリック様までも侮辱したのよ」

「そんなこと、なんて、ひどい人なのかしら!!」


「さっきから、失礼ではないか? 私のパートナーに、何の権限があって、そのような言いがかりをつけているのか」

 突然届いた声に、周囲がざわついた。カロリーナは泣き真似をするのを忘れて、さっと顔色を悪くさせる。


「言いがかりをつけて、オレリアを陥れるのは、やめたらどうだ。オレリアの幼馴染と恋人なのは、君の方だろう。オレリアをしつこく牽制しておいて、オレリアの方が恋人だと? よくも恥ずかしげなく、そんな嘘がつけるな。オレリアは幼馴染としてでしか、彼と会っていない。それに、君の怪我については、オレリアへの疑いは晴れたはずだ。そのようにしつこく犯人だと言うのならば、君がわざとオレリアを陥れたようにしか思えないのだが!?」


「な、そんな、どうしてそんなことを」

「このような場所で、大声で話す話だろうか。あることないこと、事実とは違うことを、わざと皆に聞かせたいだけだろう」

「そ、そういうわけではありません」

「彼女を犯人に仕立てたいというわけではないのならば、それ以上の執拗な中傷は、無意味なはずだ!」


 セドリックがキッパリと言い放つと、カロリーナは震えたまま青ざめて黙りこくった。侍女たちは震えて、カロリーナの後ろで互いに顔を見合わせる。セドリックは周囲を見回すように睨みつけて、同じことを言って責めた侍女たちを、視線だけで黙らせた。


「私のパートナーに、失礼な真似をするのはやめるんだな。これ以上、謂れなき悪質な噂をばらまくならば、私への侮辱と受け取ることを、覚えておくがいい!」

 その言葉に、周囲はざわついた。セドリックはオレリアの肩を抱くと、歩くように促してくる。

「相手にすることはない。行こう」

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