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23 パーティ

 自分で誤魔化してしまったので、偽装なのか、本気なのか、聞くことができなかった。

(だって、初めての経験なんだもの。よくわからない答え方になったって、仕方ないでしょう!?)


 心の中でそう言い訳しつつ、むしろなんと答えれば良かったのか、問答する。今さら、セドリックに、本気だったのかとは聞けない。セドリックが、その誤魔化しを良しとしたならば、オレリアがもう一度問うのは、彼を困らせることになるだろう。

 そんなことをぐるぐる考えている間に、パーティの日は近づいていた。








「まあああ。似合う、似合うわー! いいわねー。一度こんなことしてみたかったのよ。娘がねえ、いたらねえ。息子はこんなだし、着飾ったら嫌がるし」

「ははは」


 着慣れないドレスに身を通し、久しぶりに高いヒールを履いた。オレリアのドレスは、セドリックとエリザベトが一緒になって、三人で選び、化粧もメイドたちが気合を入れて施してくれた。まるで別人のようになったので、なんだかくすぐったい気持ちになる。


「さて、あちらはどうなったかしら。髭は剃っているでしょうね」

 もしボサボサだったら許さない。と呟きを横にしながら、オレリアも部屋の外に出る。セドリックの待つ部屋に行けば、美形を通り越した、美貌を持つ男性が佇んでいた。


「だ、誰、ですか」

「……俺だ」

「それは、詐欺では!?」


 エリザベトが吹き出すようにお腹を押さえた。執事のブルーノやメイドたちも、笑わないように我慢する。

 セドリックは、別人になっていた。詐欺と言っても過言ではない。


 あのボサボサ頭が、少しだけクセのある艶のある黒髪になり、長かった髪を後ろで結んで、顔の輪郭がわかるようにされている。前髪は長いままだが、額から耳にかけて流して、色っぽく見せていた。髭はなく、あの三十代くらいに見えていた顔が、ちゃんと二十代前半に見える。


「本当に、若かったんですね」

「ぶふーっ!」

 エリザベトがたまらず吹いて、口元を押さえていた。セドリックがその姿をじっとり見つめて、咳払いをする。

「ブルーノ、ダメよ、笑っちゃ」

「奥様こそ、笑ってはダメですよ」

「笑いすぎだし、聞こえている!」


 しかし、本当に別人なのだ。これは女性たちが取り巻くわけだった。

 遠目からでは中性的だと思ったが、間近で見ると、男性にしか見えない。ただ、やけに色っぽさを感じる。少しだけ伸びた髪は背中に流れているが、ボサボサ頭の頃よりやぼったくない。前は、とても長く感じたのに。髪は切ったわけではなく、整えただけらしい。それでこんなに変わるのだから、普段は寝癖をわざとつけていたのだろうか。むしろ、よくもあそこまで、この髪の毛をぐちゃぐちゃにしてきたものだ。油でもつけて、乱れたまま固めていたのだろうか。謎である。


「そんな、まじまじ見ないでいい」

「すみません、つい。化けましたねえ」

「化けていないから」

 むしろ普段の姿が化けているのだ。驚きである。


「君は、何も変わらないんだな」

「なっ、なんという、失礼なことを、堂々と。自分が美人だからって!」

「ち、違う! そうじゃない。君の態度の話だ。それと、美人ってなんだ、美人って!」

「美人は美人ですよ! 美形って言うのは、ちょっと抵抗あるって言うか、負けた気分で」

「なんの抵抗だ……」


 局長はボサボサ頭であってほしい。美形などはエヴァンだけで十分である。

 しかし、慣れない顔だが、言動はセドリックのままだった。それはもちろん当然だが、別人がセドリックの声で話しているようだった。

(まあ、そうのうち慣れるでしょうけど、これは大変だったわけだわ)


 身分も込みで、エヴァンの比ではなかっただろう。今までの苦労を察する。

 王宮に到着すると、セドリックは腕を出してきた。エスコートされるのも不思議な感覚だ。


「君の態度が変わらなくて、安心した」

 ボソリと言う言葉に、セドリックの苦労が垣間見えた。








「まさか、パートナーを連れてくるとは思わなかったぞ」

「招待をいただいた手前、パートナーがおらず、参加するか考えあぐねておりましたが、令嬢の承諾をいただいたため、馳せ参じました」

「ふむ。昨今、周辺騒がしかったようだが、そうであれば、あの噂も消えるであろう。また王妃がパーティを催したくなるようなことにならないのであれば、それでよいのだがな。今日は楽しむが良い」

「光栄に存じます」


 王とセドリックの会話を横で聞いて、オレリアは静々と頭を下げる。

 今回の事件は、王の耳にも入っているようだ。

 セドリックとオレリアの参加が、その噂を消すためだけならば、またパーティを主催するぞという声に、オレリアは息を呑みそうになった。


 王が偽装だと考えているのだ。

 違うとも言えない。オレリアのせいで、はっきりしない状態になっているからだ。

 いや、そう思っているのは、オレリアだけかもしれない。王の前でどんな顔をすれば良いのか分からなくて、オレリアはちらりとセドリックを見やる。

 セドリックは気にした様子はなく、オレリアを促して、王の前から離れた。


「あちらに行こう」

 女性たちが、完全にセドリックを感知した。浮立つ気持ちがこちらに伝わるくらい、悲鳴に似た歓喜を押し殺している。口を開いたら、間違いなく悲鳴をあげているだろう。

 セドリックは、すぐにそれらに背を向けた。パーティに参加することが、よほど嫌なのだ。それも理解できる。セドリックを追う視線が、あまりにも多い。それはオレリアにも向けられるが、セドリックはいつもこんなに注目を浴びているのだ。


 久しぶりに現れた、第二継承権を持つ、王の甥。セドリックは会場の中で、あっという間に人々の視線を集めた。

 セドリックは完璧に無視を決め込んでいるが、どこにいようとも誰かに見られている。エヴァンと一緒にいても、ここまでひどいものではない。


「心中、お察しします」

「久しぶりだから、見知らぬ者たちもいる。檻の中の珍獣になった気分だ」

 それはさもありなん。たしかに、珍しい獣でも見るかのように、女性たちが集まってきていた。興味津々で男性も集まるのだから、パーティの主役のようだ。


「君に、影響は出るだろう。だが、君に迷惑をかけないように、なんとしてでも努める」

「大丈夫ですよ。王宮で私を知っている人は、アデラ殿下たちや研究所の人くらいですし。学院の生徒は、私に身分があるとは知らないので。それに、今日はものすごく化粧して化けたので、おそらく気づかれませんよ」

「そこまで変わらないだろう。気づかないわけがない。なにかある前に、すぐに言ってほしい」


 学院でオレリアは研究一筋で、オレリアの年代は女性が少ないこともあり、学院で何かは起きないだろう。セドリックが学院にいた頃は、セドリック目当てで女生徒が多かったに過ぎない。ディーンから聞いた話だが、その頃は驚くほど女性が多かったそうだ。ただ、学院の水準が高いため、一年で辞める生徒は多かったそうだが。それでも次の年にたくさん入ってくるので、セドリック目当てであることは明白だった。


 オレリアの世代では、女性は数名。特に女性を出した衣装を着てくるような人も少ないので、学ぶ姿勢も違う。人に嫌がらせをしている暇などない。自分の研究を行わないと、卒院できないのだから。

(試験が厳しくなったのも、その辺りからって言っていたし、局長の影響だったのねえ)


「オレリア、」

 セドリックが目配せしてくる。視線の先に、カロリーナがいた。

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