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20 気持ち

「あんた、あの女との付き合い、考えた方がいいぜ。相当たち悪いからな。オレリアさん、行こう」

「エヴァン、カロリーナさんが大切なら、私の話はしないでね。彼女の暴走は、あなたがちゃんと止めて」

「なんで、なんの話」


 エヴァンは言いながら、ぽつりと植物園の前で足を止めたまま、追っては来なかった。

 ディーンが軽くそれを確認して、早歩きしていた足の速さを落とす。ディーンがエヴァンを引き離すつもりだったことに、オレリアは安堵した。オレリアも、エヴァンの無神経さに思うところが増えてきたからだ。


「オレリアさん、同情する。あいつ、自分の顔の良さ、わかってないわけ? どんだけ敵が増えるか、知らないわけ? 俺がいたからいいものの、オレリアさんだけだったら、静かで人がいない場所で、二人っきり。ができあがるっつうのに。だったら、研究所に来た方がましだろ。考えろよ」

「エヴァンは、自分に変な人たちが寄ってきて嫌だ。くらいしか思ってないと思います。私が嫌がらせされていたことに、まったく気づいていなかったから」


「はー。局長でも気にしてたっていうのに、終わってるなあ」

「局長も、やっぱり?」

「やっぱりも、やっぱりよ。学院いた時は、すごかったからなー。平民の女の子が局長に優しくしてもらっただけで、きー、あの子許さないわー、きー! みたいな。局長としては、ただ単に、軽く手伝ったくらいだったのに」

「想像つきます……」

 平民の女の子というところが、なおさらだったのだろう。


「俺は年代が違うから、局長のことはあんまり詳しく知らなかったけど、人外の美人がいるって話は聞いててさ。見た時は、うわあ。あれかあ。ってなったよ。いっつも周囲に女の子がいて、大変そうだった。後ろからさあ、ゾロソロついてくんだよ。局長は完璧無視してたけど、距離あけてても声はでかいし、何人もいるから、隠れてないのよ。あれはつらいなあ、って。だから、少しでも何かすると、周りの反応が激しいんだよね」


 親切で助ければ、その子がさらに大変な目に遭う。それに気づいて、どんな些細なことでも、無視を決め込むことにしたそうだ。セドリックは本来心優しいため、それを無視するのは難しかっただろう。しかし、その後のことを考えれば、目の前で不幸な目に遭った人がいても、助けてはならない。となってしまった。

 それに関わる者たちも、人によってはセドリックを避けるようになった。


 セドリックのせいではないが、関わったことで不利益が生じれば、セドリックを避けるしかない。避けたくなる気持ちも理解できる。セドリック自体も、納得するしかなかったのだ。

 それもなんだか、セドリックが不憫である。


 顔を隠し、研究所に入って、やっと安堵できたそうだ。それまでは想像できないほどの苦労があったのだろう。

 エヴァンも似たような環境だったが、エヴァンに関わって面倒を受けたのは、オレリアだけ。それにも気づくことはなかった。ただ、エヴァンは早いうちに、女の子たちに関わらないようにしていた。セドリックと違い、身分が高いわけではないので、女の子たちの気の引き方は、時に激しいことがあったからだ。


(でも、エヴァンは気にしなさすぎなのよね。せめて、行きすぎた行為については、彼女を叱ってほしいのだけれど)


「それにしてもさ、リビーの封印魔法を解いたやつ、結構な腕、持ってることになるんだよ。処理場とリビーだけに通じる魔法だからさ。あの運び屋が、そんな解除なんてできるはずないだろうし。それで誰か通るかもわからない小道に、毒を設置するってのもな。頭いいんだか、悪いんだか」

「もし、研究所の誰かに恨みを持っているならば、わざわざあんな場所に置くのは不思議ですものね。もっと研究所に近い場所。なんなら、扉にでも毒を塗っておけば良いんですし。そもそも手がかぶれる程度じゃないですか。研究所の皆さんなら、癒しくらいできるわけで」

「やつがそれを知らないとしても、あんな通るかもわからないとこに置く程度なら、ただのいたずらとしか思えないんだよね。でも、そんなことのために、処理物の封印解くかって話。研究所の処理物の盗難は、重罪なのよ、これが。国家秘密でもあるからね」


 国の機関の処理物を盗めば、相当の罪になる。それくらい知っている立場の男が、いたずら目的で毒物を盗むのはおかしい。

 そうだとしたら、やはりオレリアを犯人に仕立てたかったと言われた方が、納得する。ディーンはそう考えているようで、他に犯人になりそうな人はいないかと問うてきた。


「オレリアさんとあいつが幼馴染って知ってるのは、誰なの?」

「カロリーナさんだけですね。彼女が誰に話したかは知りませんが」

「じゃあさ、オレリアさんが研究所にいることは知ってるとして、学生寮の部屋の場所まで知ってる人って、誰かいるわけ?」

「学院で、私が研究所で働いていることを知っている人は、教授くらいですが、教授が学生寮の私の部屋まで知っているとは」

「誰かが、学院寮の部屋を確認しなきゃ、わかんないってことだよね」

 寮の部屋に毒を入れられる者で、エヴァンを知っている者など、オレリアは知らない。


「局長もそっちの線を調べてくれてるけど、よくわからないんだよね。配送員の男と学院寮に入り込める、もしくは学院にいるやつの接点がさ。あの侍女に、学院に知り合いがいるって線も、一応探してるけど」

「でも、カロリーナさんは、足に傷が残ったとか」

「だから、しばらくは局長のところにいた方がいいよ。局長があれってことは、気づかれてないから、局長のとこいても、問題ないだろうし」


 セドリックが局長と知っている者は少なく、オレリアが屋敷から研究所に通っても、早々気づかれないだろうとディーンは言うが、さすがにこれ以上厄介になるわけにはいかない。

 ただ、まだわからないことが多いため、セドリックの屋敷にいた方が安全と言われるが。


「毒の犯人は見つかりましたし、もう監視というわけではないので、実家から通おうと思っていて」

「少し滞在が延びたって、平気だって。オレリアさんだって、局長と話せるのは、いいでしょ?」

「え!? ど、どういう、」

「あの人、研究バカだしさー、薬学大好きだしさー。すごい勉強になるでしょ?」

「あ、ああ、はい。そ、そうですね。そうです!」


 一瞬、妙な勘違いをしてしまった。

 オレリアは焦ったように何度も頷く。


「なんなら、俺も行きたいもん」

「そうですよね! わかります」


 ディーンが羨ましげにしている横で、オレリアはただ、変な勘違いをしたことを、頭から追い出そうとしていた。

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