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16 監視

「お、王女の侍女は、その女が犯人かもしれないと、怯えているんだ!」

「なら、彼女はこちらで監視する。彼女の荷物に、今後も何かが混ざる可能性があるからな。文句あるか?」

「お前らが組んでいれば、証拠など捏造でき、」 

「そ、それでお願いします! ね、騎士の皆さん。局長に監視していただいて、こちらはこちらで、調査を続けましょう。そうしましょう! お願いですから!!」


 医療魔法士が話に割って入り、騎士に懇願すると、騎士は舌打ちしながらも引き上げていった。セドリックの迫力に気後れしたに違いない。


「根性なしが。二度と来んな!」

 ついでにディーンが罵って、セドリックに頭をはたかれる。

「あいつら、完全にオレリアさんを犯人にする気ですよね。実習生だからって、オレリアさんの身分が低いと思ってんだろな」


 貴族の令嬢が、実習生になるのは珍しい。だから、なんでもして良いと考える。ディーンは、軽くぼやいた。

 身分のせいで、そんな疑いをかけられたことがあるのだろう。それで、ディーンはすぐに言い返してくれたのだ。オレリアのせいで、嫌なことを思い出させてしまったかもしれない。セドリックも気づいていると、小さい子をなだめるように、ディーンの背中を叩いてやれば、ディーンは小さく息を吐いた。


「それにしても、まるでオレリアさんに恨みがあるようなしつこさじゃないですか? オレリアさんを犯人にすることに、こだわっているような」

「私は、彼らの名前すら知らないですし、顔も多分、見たことはないと思います」


 ベンヤミンの言う通り、オレリアの身分をわかっていないとはいえ、やけに執拗だ。平民だと思い、犯人だと決めつけているかもしれないが、他に理由があるか考えてみても、騎士の顔に覚えはなかった。

 パーティで無視でもしただろうか。ダンスの誘いは何人か断ったが、そのパーティも今年の話ではないので、記憶がおぼろだ。


「あの分じゃ、また来そうだよな。寮の部屋に入り込んだのなら、何されるかわかりませんよ」

「学院の寮に、そんなに簡単に侵入できるのか?」

「学生寮なんて、使っているのは、平民か地方貴族ですよ。だから、ボロいんです。局長だって、寮は入らなかったでしょ?」

「俺は、寮は面倒になりそうだったからな」

「それも、そっか。貴族が使っても、それなりに身分のある人は嫌がるくらい、あの寮はぼろくて。だから警備がいても、そんな真面目に警備してないし、入ろうと思えば入れるんですよ。魔法学院の寮に、忍び込もうと思う奴がいないだけで」


 オレリアの学院は魔法学院だ。身分関係なく、魔法が使える。オレリアは薬学魔法士希望で医療系だが、攻撃に魔法を使うことはできる。そんな寮に入り込もうとする者はいない。返り討ちに遭ってしまう。

 だが、オレリアが不在にしているとわかっていれば、簡単に入り込める。


「女子寮はそこまで古くはないですけれど、女子の数が少ないので、部屋はたくさん余っているんです。入り込んで、隠れる場所は、多いですね」

 研究の成果や論文などは、部屋の中でも厳重に保管しているが、部屋の鍵自体に魔法はかけていない。部屋に忍び込まれることはオレリアも考えていない。研究に関しては、念の為だ。


「寮の部屋に、騎士たちが毒を置いたのでなければ、誰かが入って、毒を置いたかもしれないということになりますよ」

 ベンヤミンは、誰でも入れるのならば、いつでも誰かが来る可能性があるのでは、と憂い顔をした。騎士でなくとも、学生が入り込んだかもしれない。もしも学院の生徒で、寮の人間だとしたら、夜だって入り込む可能性もある。


 ぞっとした。嫌がらせを受けるだけならまだしも、夜中部屋に入り込まれるのはごめんだ。

 寮の部屋は、鍵が緩いわけではないが、ディーン曰く、簡単に開けられるそうだ。それが本当ならば、寒気しかしない。


「そうとなると……」

 セドリックはボサボサ頭をかきながら、オレリアに向き直った。







「オレリア、こっちだ」

「は、はい!」

「お帰りなさいませ。セドリック様」

「先に伝えていた、オレリア・ナヴァール令嬢だ」

「ようこそおいでくださいました、ナヴァール様。執事のブルーノと申します。お荷物はそれだけでよろしいでしょうか?」

「はい。ありがとうございます」

「ブルーノ。令嬢は疲れているから、部屋の案内を。オレリア、落ち着いたら夕食を一緒にしよう」

「わかりました」


 まさかのことに、オレリアは動揺していた。

(こんなことになるなんて)

 ラブラシュリ邸。セドリックの屋敷に、泊まることになってしまったのだ。

 犯人が寮に入ってくることもあるのだから、オレリアにとってありがたい話だが。


 オレリアは、実家に帰り、父親の判断を仰ぐことにする。と言ったのだが、身分を明かさずに、犯人を捕まえた方が良いのではと言われてしまった。身分を明かせば、なにもなかったかのように隠れる可能性が高いからだ。

 ディーンはこのまま誤解された身分のままで、犯人を捕まえようと息巻いている。危険かもしれないが、というセドリックの憂いもあったが、安全なセドリックの屋敷から通って、犯人を探すことになってしまった。


(それに、実家では監視にならないのよね。でも、でも、局長のお屋敷に住むというのも、どうなの??)

 そして、豪華な屋敷とその土地の広さに、オレリアは圧倒されてしまった。セドリックは王の妹の子供だが、父親は歴史ある名家の出で、広大な土地を持っており、国で一、二を争うほどのお金持ちだ。オレリアの父親の比ではない。

 オレリアは田舎住まいも長いので、大きな邸宅に訪れる機会は少なかった。そのせいで、つい屋敷内を見回してしまう。

(まるで、王宮だわ)


「どうぞ、こちらのお部屋です」

「わ……。なんて素敵」

「それはようございました。セドリック様から、ナヴァール様がゆっくり心を癒せるような部屋を用意しろと承っております。なにか気になることがあれば、すぐにおっしゃってください」

「十分です。ありがとうございます」

「では、こちらの者が、ナヴァール様のお世話をさせていただきますので」

「クレアと申します。よろしくお願いします!」

 まさかのメイドまでつけてくれるとは。女の子が一人、爛々と目を輝かせて挨拶をしてくる。

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