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14 噂

「オレリアのせいだと言っているのは、誰なんだ?」

「侍女たちです。昨日、植物園に案内されて、足を傷つけたと。そのせいで、毒に触れたのだと」

「王女の侍女たちか。それで、王女の命令で来たのか?」

「いえ、調査しろとは言われましたが、」


 医療魔法士はしどろもどろと口にするが、セドリックが睨みつけると震え上がって、騎士たちが急ぎ勇んだもので、と申し訳なさそうに言った。騎士たちは悪びれていないか、オレリアを睨むだけだ。


「ここ数日の行動を、教えてもらわなければなりません」

「オレリアは、ほとんど俺たちと一緒だ。一人で行動するのは、学院から研究所への行き来。あとは書庫に本を取りに行かせただけで、他にはない。大体、オレリアが植物園に行ったのは、侍女から頼まれて案内させられたからだ。自分の仕事をおしてまで。毒の用意をしているのならば、その侍女たちだろう。そいつらを先に調べたらどうだ」

「なっ。彼女は被害者だぞ!?」

「被害者でも、大した傷ではないのだろう?」

「失礼な! 王女の侍女が、自作自演したとでも言うのか!!」


 騎士は興奮するが、隣で医療魔法士がおろおろと気後れして、真っ青になっていく。王の甥に喧嘩を売っていることに怯えているのだろう。もう耐えきれないと、セドリックと騎士の間に入り込んだ。


「い、一応、念の為、皆を調べるので、ご令嬢の行動も、しっかりと教えてください!」

「オレリアが帰る時間、俺たちはこの部屋にいるから、彼女はこの部屋を探すことはできない。帰りは戸締りをして魔法で閉じている。オレリアはその解除の方法を知らない。この部屋を無人にする時は、必ず閉じている。オレリアは学生で、時間外外出は許可がなければ行えない。許可を得ていても、必ず誰かと一緒のはずだ。そうだな」

「はい。一度時間外外出はしましたが、人と行き帰り一緒なので、この研究所には来ていません。研究所にいる時には、必ず誰かと一緒です。王宮で、寮から行き来する以外、一人で歩いたのは書庫に行った一度きり。それ以外ありません」

「あとは、警備の衛兵に聞け。」

「わ、わかりました。では、これで。みなさん、行きましょう!」


 医療魔法士は、動こうとしない騎士たちを押して、去っていった。騎士の一人は納得していないようで、いつまでもこちらを鋭い眼光で見つめていたが。

「リビー。毒が外に出ていないか、もう一度確認してくれ。令嬢、今日は寮へ送る。来る時も迎えをやるから、一人で学院から出るな」

「すみません。わかりました。お手数おかけします」

「気にしなくていい。君がそんなバカな真似をすることはないと、わかっている」


 エヴァンが関わって、オレリアを悪く言う人は昔から多かった。そこでオレリアを信じてくれる人はいない。女の子はオレリアをうらやんでいる子ばかりだったし、男の子はエヴァンよりも、いじめの邪魔をするオレリアを悪く言っていた。

 誰かが味方をしてくれることはなく、女の子に関しては、エヴァンにも気づかれないようにするので、オレリアを擁護する声は、一度も聞いたことがなかった。

 それなのに、研究所のみんなは信じていると、オレリアを擁護してくれる。


「ありがとうございます」

 セドリックの言葉に、オレリアは胸が熱くなるのを感じた。








 ちらちらと、オレリアを見る視線を感じる。

 またか。というより、昨日の事件が尾を引いていることは、容易に想像がついた。


「あの人が?」

「らしいわよ。怖いわ」

 なんの話かと聞くまでもない。メイドたちが囁く声が届いてくる。オレリアがそちらを見やれば、くもの子を散らすように、一目散に逃げていく。

 睨まれたくらいで逃げるのならば、聞こえるように言わなければいいものを。


 しかし、噂が回るのが早い。大騒ぎで植物園から戻り、毒騒ぎになったため、大袈裟になったせいだろうか。そういった話を好きな人は多く、真実関わりなく、異常に騒ぎ立てる人が多いこともわかっていた。

 ことに、ここは王宮。相手は王女の侍女だ。学院からやってきた、ただの雑務の立場と比べれば、侍女に嫉妬した学生の方が、噂しやすいに違いない。


「うっさ。なんだ、あれ」

 隣でディーンが舌打ちする。


 セドリックに言われた通り、オレリアは一人で王宮を出歩くことはしていない。セドリックが気を遣ってくれたおかげで、一人きりにならないように、必ず誰かと行動していた。

 今はディーンが一緒で、実験を行う広間に移動しているところだった。


「昨日の今日で、こんな広まるかあ? あいつら、口しか動かしてないんだろ」

 ディーンは辛辣だ。少々口悪く罵って、まだ遠くでこちらを見ているメイドたちに、目くじらを立てた。


「幼馴染と話したけどさー、のんびりしたやつだよね。このこと、知ってるわけ?」

「どうでしょう。子供の頃は気づいていなかったので、おそらく今回も気づいていないかと」

「言ってやれよ。お前の女、どうかしてるぞって」

「あはは。そうですね」


 昔のように、エヴァンの特権を喜んでいるわけではない。あの頃は我慢できたが、今は我慢する必要はなかった。

(あの頃は、言われても仕方がないって思っていたから。でも、今は違うわ)


 おかげでいわれなき中傷は慣れているが、研究所に迷惑はかけたくない。今後も邪魔をしてくるようならば、対抗したい。なんといっても、オレリアのせいで、研究所の周囲に騎士がうろついていたのだ。誰が命令したのか知らないが、研究所の周りをうろつかれると邪魔であるし、研究の一環を盗み聞きされても困る。


 普段、研究所に近寄る者は、関係者以外いない。研究所は廊下の突き当たりで、その手前に警備の衛兵がいるからだ。今回は毒騒ぎになったため、騎士たちがうろついた。

 それで、セドリックが騎士団に文句を言いにいき、騎士たちが研究所の周囲をうろつくことはなくなったのだが、セドリックは怒り心頭だとか。


(私のせいで、忙しいのに申し訳ないわ)

 こんなことで、時間を費やす暇などある人たちではないのに。オレリアのせいで、研究員の皆に迷惑をかけてしまう。


 あとで、誰かについてきてもらうことになるが、エヴァンにこのことを伝えた方がよいだろうか。伝えて騒ぎが治まるとは思わないが、エヴァンが知っているのと、知らないのでは話が違う、はずだ。

 女性と話をしないエヴァンが、オレリアの噂を知っているわけがないだろう。

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