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13 疑い

「それで、怪我をしたっつって、大騒ぎだったんだな」

「すごく騒いでいたよ。大怪我をしたと言って」


 オレリアも後を追って、医務室に行こうとしたが、どこにあるのか知らなかった。置いてけぼりを食ったので、仕方なく薬学研究所に戻って場所を聞き、行けばもう誰もいない。再び薬学研究所に戻ってきて事情を説明すると、ディーンが呆れて言った。隣でベンヤミンが憂げな顔をしているところを見ると、相当騒いだのだろう。


「うるさかったよ。女の人がさー、医療魔法士を呼んでー! 植物園で案内されたら、怪我をしたー! って、騒ぎ立てててさー」

 ディーンがわざとらしく演技して、付け足してくる。嫌な予感しかしない。

「勘弁してください。行くなという方向に進んで、わざわざ細い道を通って、怪我をしたんです」

「そんな感じで言ってなかったって。案内がー、わざと狭い道にー」


 ディーンの真似に、頭が痛くなってきた。彼女たちに隙を突かれるような真似はしないつもりだったのに、わざわざ自分から怪我をして、騒ぎ立てるとは。

 これでオレリアの悪者評価が上がるのだろう。次は何をされるのか、考えるだけで面倒臭い。

 子供の頃は、悪口や悪意のある噂をされたり、物を隠されたり、わざとぶつかられたりした。水たまりの前で転ばされたこともある。さすがにこの年で、そんな真似はしてこないと信じたい。


「大丈夫? 相手は王女の侍女だから、なにかある前に、局長に伝えておきましょう。こういったことには、敏感な方だから」

 リビーは、そういったことをされた女性を、多く知っているのだろう。おそらく、セドリックに関わったせいで。


 オレリアは問題ないと笑って返す。昔のように、学院の教室で、女の子たちから白い目で見られるわけでもない。オレリアが訪れるのは、この研究所か植物園だけだ。そこでいわれもないことを言ってくる人はいない。いても、オレリアは気にしない。


 好きに言えばいい。彼女たちに付き合うつもりもない。

 しかし、それは見事に打ち砕かれた。







「あのー、こちらに、学院から来た、研究員の助手がいると聞いたのですが」

「オレリアさんのことかしら? 医療魔法士がなんの用ですか?」

「お伺いしたいことがあるので、同行願いたいのです」

「同行?」


 やって来たのは騎士と、声をかけて来た医療魔法士。オレリアの姿を見て、騎士が部屋に入ってこようとする。リビーがすぐに入らないように注意したが、騎士は言うことを聞かず、オレリアの前に立ちはだかった。


「勝手に入ってこないでちょうだい。ここは薬学研究所よ!? 無関係な者が入ることは許されないくらい、知っているでしょう」

「お前が毒を使ったんだろう!」

「毒? きゃっ!」

「オレリアさんに、何をするの!」


 騎士がオレリアを無理に連れて行こうとする。引っ張られて机の角に横っ腹をぶつけると、机の上に積み上げられていた本が、音を立てて床に落ちた。足元にも落ちてきて、オレリアの足にからまる。本を踏みそうになって、オレリアは握られた腕を振り払おうとした。しかし、強く握られていて、びくともしない。引きずられるように引っ張られて、本を踏みつけてしまった。


「ちょっと、いいかげんにし、」

「オレリア令嬢!? これは一体、何の騒ぎだ!!」

 騎士の脛を蹴り上げようとした時、騎士の腕をセドリックが捻り上げた。痛みに悶えた騎士が、オレリアの手を離すと、セドリックがその騎士を部屋の外に押し出した。


「局長! この騎士が、勝手に部屋に入り、オレリアさんを連れて行こうとしたんです!」

「き、局長! 申し訳ありません。彼女に伺いたいことがあって」

「伺う? 無理に連れて行こうとしながら、伺うだと!?」

 セドリックの大声に、医療魔法士が背筋を伸ばしてびくついた。この男は、セドリックが何者か、知っているようだ。


「そ、その、昨日、医務室に運ばれてきた侍女の足に、毒が使われた可能性がありまして」

「毒だと?」

「植物園で足を引っかけたとのことですが、それに毒が塗ってあったようです」

「それで、オレリアを連れて行こうとしたのは、なぜだ」

「その、彼女のせいではないかと」

 医療魔法士が、横目でオレリアを見やった。それにセドリックが眉を吊り上げる。


「なんの根拠で、そんな話になったと言う?」

「そ、それが、毒が、こちらにある毒である可能性があったため」

 医療魔法士は、その毒の成分は調べたと、毒の名前を言ってくる。


 それは植物の毒で、手に入れるには、ここから遠く離れた地に採りに行く必要があった。しかも、季節が限定されており、真冬の凍った山の崖で咲く、珍しい草だ。

 それを、どうしてオレリアが持っていて、カロリーナに使うと思うのだ。


「たしかに、その毒ならここに置いてあるが、彼女が触ることはないぞ」

「そうですよ。その毒なら、私の管理だわ」


 手を上げたのはリビーだ。危険植物の管理はリビーが行っており、オレリアが触れることはない。

 リビーは首からかけていた鍵を取り出して、隣の部屋にある棚を開けた。管理はしっかり行なっており、数も合っていると、照合してみせる。


「重さは合っているから、減っていないわ。調薬後くずになったものは、危険物として処理しています。オレリアさんが触ることはないわよ?」

「鍵を勝手に開けたとかは?」

「ありません。私が常に持ち歩いているし、誰かが触れたらわかるように、魔法をかけているもの。誰も触れたりしていないわ」


 リビーがきっぱりと否定した。医療魔法士はセドリックに確認するように見上げるが、セドリックも頷くのを見て、騎士たちにそれを告げる。騎士たちは納得いかないような顔をしていた。一人は鋭くオレリアを睨みつけてくる。犯人だと言わんばかりの顔だ。

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