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03

 魔法学の初めての実技授業での模擬試合一回戦炎威翼対レオン・バーナイドの試合は翼の勝利で終わった。両者とも大怪我をすることなく軽い火傷を負ったものだった。


 試合修了後リングから気絶したレオンをアレンが訓練棟端にある休憩用のベンチに運び、右足に火傷を負った翼にリーフが肩を貸し同じくベンチまで運んだ。


「お前バカだろ、普通の靴で『爆進』使うなんて本当お前バカだろ」


「うるせ、俺は実戦経験少ないからあれくらいしか思いつかなかったんだよ。それにこの靴には一応靴底に鉄板入れてあったんだぞ」


「鉄板入りでそれの怪我って不便すぎだろその魔法」


 靴底に鉄板を入れてなお『爆進』の爆発の威力は鉄板を突き破り足の裏全体に火傷を負っていた。


 怪我をした生徒は普段なら務室に運ばれるがレナが自分が二人を治療をするとアレンに提案し、それに反対する理由もないのでレナに二人の治療が任された。


 まず最初にレナはベンチに翼を座らせると怪我した右足の具合を調べる。


「足の裏全体を火傷した割に多少出血があるだけで他は大丈夫そう。これなら私でも充分治療が可能だと思う」


 傷口を調べ終り傷の具合を患者である翼に伝えるとレナは火傷した足に手を翳すと一度目を瞑り翳した手に魔力を集め治癒魔法を展開する。展開と同時にレナの手が温かみのある光に包まれる。翳した手の光がやさしく足を包みこみ少しずつ足の火傷し爛れた皮膚を治していく。足が光に包まれ十数秒で火傷を負った足は綺麗な火傷するまえの足へと治った。


「どうかな。歩いてみて違和感があったりしない?」


「いや大丈夫、なんともないみたいだ。レナありがとう礼を言う」


 次いでレオンの寝かされているベンチへと移動する。最後の翼の魔法によっての腹部部分に穴が開いた服をレナは捲りあげ腹部の火傷したところに光に包まれた手を翳す。腹部の火傷を治し終えたレナはそのまま治癒魔法を今度はレオンの頭へと手を翳す。十数秒ほど経つとレオンは意識を取り戻した。


 目を覚ましたレオンはベンチから身体を起こし何度か瞬きした。次第に意識がはっきりしてきたのか周囲を見渡す。


「そうか僕は負けたんだね」


 とレオンは呟いた。


 それは返答を求めているというよりは負けたことを自分に言い聞かせているようにも聞こえた。そして思い出したかのように怪我をしていた腹部に目をむける。


「怪我はイーファンさんが治してくれたんだね」


「え…、はい」


 お礼を言われたのが意外だったのかレナは返事が遅れた。


「先生。少し気分が優れないので早退させていただきます」


「ああ、今日はゆっくり休めよ」


「ありがとうございます」


 訓練棟を出ていくさいレオンは一度翼を一見し去っていった。






 一時中断となった試合を仕切りなおし二回戦を始めることになった。先程の試合で地面が所々穴が空いたり隆起してしまったので少し離れた場所に新たにリングを作った。


「二試合目はリーフ・クライン対ルリ・リィーナスだ。さっさとリングに入れ」


 ダルそうに次の試合の準備をしていたアレンが準備を終えリーフとルリを呼ぶ。


「頑張れよリーフ」


「怪我をしたら私が可能な限り治すけど、出来ることなら怪我しないでね。」


「おう、ありがとな」

 レナたちから離れリーフは試合リングに入った。そこには一人の小柄な少女が立っていた。


 彼女ルリ・リィーナスはリーフたちのクラスで浮いた存在だった。ルリはとにかく無表情で入学式から一ヶ月たった今でも一度も表情を変えたところを誰も見たことがない。さらには声すら発したこともない。授業で教師にあてられてもクラスメートが話し掛けても無視してぼーっと前を向いている。教師もクラスメートもルリに話し掛けることを諦めてた。いつしかルリには感情がない等の噂がたつようになり彼女に近く人はいなくなった。そんの彼女の戦う姿を見てみたいのか先程の試合とは違った雰囲気が離れたクラスメートから感じた。


 リーフの前にはルリが立っていた。触れてしまっただけで壊れてしまいそうなほど小柄で華奢な体の少女の瞳には噂通り感情を一切感じさせない。それどころかまるでこの世のもの全てに興味すらないようにも見える。やる気がないのかぼーっと佇んでいた。


「そんじゃ第二試合リーフ・クライン対ルリ・リィーナスの試合をおこなう。はじめろ」



 アレンの試合開始の合図があり本来なら直後に戦闘が始まるはずだが依然としてルリはぼーっと佇んで動かなかった。当然リーフも合図と同時に動くはずだったがピクりとも動こうとしないルリに一歩踏み出しただけで止まってしまう。


 自信があり構えなくともリーフぐらい対処出来ると思っているのかそれとも油断させようとしているのか、ただ単に試合事態に興味がないのかなどを考えたリーフだがルリの考えが全く読めずとりあえず近づかず魔法による攻撃をしかける。


 様子見でルリへ突風を放つ。ルリがもしも避けなかった時のことを考え威力を抑た魔法だ。迫る魔法に何の反応も見せぬまま突風が襲いかかる。直後ルリの立っていた場所が黒に塗り潰された。試合を見ていた生徒は黒く漂うモノを眺めていると金属音が響きわたり、音した場には身丈以上もある大鎌を振り下ろすルリにその大鎌を刀で防ぐリーフの姿があった。


 ルリはその小柄な体では信じられない力で大鎌を叩きつけ刀と拮抗した、しかし力の競り合いでは勝てないと分かると大鎌を引く。鎌を引いたのも束の間今度は手数を増やし斬り掛かる。

 先ほどの攻撃を防いだときにあの大鎌がかなりの質量だとわかる。一般の男性がやっと持つのが精一杯の重さのはずだ。それを彼女は軽々と振り回している。まったくあの体のどこにそんな力があるのか疑問に思い大鎌を受け流しているとそのちょっとした隙を突かれる。


 今までの小さな攻撃から一転大なモーションで大鎌を振り抜く。ズズッと大鎌の尾をひくように黒いものが発生する。大鎌は避けたものの発生した黒いものに触れしまった。ソレは体傷つけることなくをすり抜けていく。


「くっ」


 と同時に脱力感をリーフは覚える。多分黒いものが体をすり抜けとき魔力が吸収され黒いものと一緒に体から出ていったのだろう。


「吸収ってことはやっぱりソレは闇属性てことか」


「……」


 返信はなくもちろんリーフも返信を期待してはいなかった。自分の手の内を敵に晒すのを嫌がたのかただ単に無口なのか。多分後者なのだろうが。持っていかれた魔力は少量だが、魔力が無くなれば戦闘に支障をきたすため何度もくらうわけにはいかない。


 魔力を吸収されるのを避けるためリーフは距離をとり魔法による攻撃をする。


 刀を振りカマイタチを放つ。最初のように手加減をした魔法ではなく手加減なしの魔法だ。迫りくるカマイタチを鬱陶しそうにルリは見つめる。カマイタチがルリにあたる瞬間黒い靄が現れカマイタチが吸収された。


「やっかいだな」


 魔法も吸収されてしまうため魔法による攻撃も無駄だろう。あるいは吸収が追い付かないほどの魔力を込めた魔法を使えばいいがルリの闇魔法の吸収量が解らない以上それは止めた方がいいだろう。となると今有効な攻撃手段は武器による直接攻撃となる。体から直接魔力を吸収されるリスクもあるが今度は避ければいい。


「ドレインミスト」


 まるで次のリーフの行動が分かっているかのようにルリが先手をうつ。二人の周りを薄い黒い霧が覆う。目暗ましの霧ならよかったのだが少しずつ魔力を吸収されていくのがわかる。本当にやっかいだとリーフは思う。近づいたら大鎌による攻撃、魔法による攻撃もダメ、何もしなくても魔力が吸収されていく。


「なら、攻める!」


 このままの状態では負けは確定してるも同然、それなら攻めて攻めて突破口を見つける。次の行動が決まったリーフは先ほどよりも魔力を込めたカマイタチをルリに放つ。リーフのとった行動に完全に興味を失ったようにルリは迫りくるカマイタチに手を前にだし黒い靄で防ぐ。


「……っ!」


 靄が消えルリが見たものは刀を振り下ろすリーフの姿だった。大鎌で刀の軌道を逸らすとともに体をひねりかわす。この攻撃がかわされることを予想していたリーフはすかさず次の攻撃にうつる。先ほどと違い今度はリーフが攻めルリが防ぐ。リーフの猛攻に隙ができたルリを風で吹き飛ばし壁に叩きつけた。壁にもたれかかるルリの顔のすぐ横に刀を突き刺す。


「俺の勝ちだな」


「……」


 ルリはリーフの言葉になんの反応を示さない。俯いたままのルリに身長差があるリーフには顔を伺うことは出来なかった。試合終了を合図を促すためアレンに目を向けたリーフの脇腹に衝撃が襲う。


「がぁっ!」




 蹴り飛ばされたリーフは脇腹を押さえながらルリを探す。前後左右見回したがルリの姿は見当たらない。


「上かッ」


 大量の黒い靄を大鎌に纏わせたルリが大鎌を振り下ろしリーフを襲う。後ろに跳び躱したが大鎌が刺さった場所を中心に地面が陥没し石つぶてと砂煙がさらにリーフを襲う。砂煙から抜け出したリーフに休む暇さえあたえないかのようにルリが攻撃を続ける。


 心臓や首、腱といった人体の急所を寸分も狂わず正確に狙い攻撃を繰り出すルリは普段の無表情から一変していた。その顔に張りつく表情は笑顔。無邪気で楽しそうな幼い子供のような笑顔。それでいて残虐で残酷な笑顔。だが微かに浮かべる哀しそうな笑顔。


 その哀しみの表情にきをとられたリーフの首を大鎌が切り裂く。間一髪の所で避けたが薄皮が裂かれた。今の攻撃は間違いなく首を切り落とす、殺すつもりのなんの躊躇ないものだった。


 さらに休むことなく攻撃は続く。この時点で普通試合を止めに入るだろうと思うがその気配はない。黒い霧に舞う砂ぼこりに遮られる視界だが生徒ならともなく教師であるアレンが何が起こっているのか解らないはずがない。それでいて止めにはいらないのは面倒くさいからなのかそれとリーフがこんなものでやられるはずがないとでも思っているのかは解らないが早く止めてくれと思い苦笑を浮かべる。


 そんなリーフの願いも届かず試合は続く。防戦一方のリーフの体には大鎌による切り傷が増え、ルリの攻撃は時間がたつにつれスピードが増していく。さらに大鎌が振るわれるたびに尾を引くように発生する黒い靄により魔力が削られていく。いったん間合いをとりたいリーフは

終・了☆



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