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〜ブワル新聞〜



 18日に起きた事件は皆ももう知ったことだろう。


セレスティア王国第86代国王アレクサス・セレスティア・クライアス様ならびにすべての王家の方々がお亡くなりになられた。


国はまだ公にはしていないが我がブワル社が教団からつかんだ情報によればアレクサス国王は国王直属の親衛隊天空の騎士団の反乱により殺害されたとのことだ。


天空の騎士団といえば国王自らが信頼する者を指名し集めた集団である。団員には帝の称号を持つ光帝、炎帝、風帝をはじめ、時の神をその身に宿す神人しんとのクロノス様を含め12人が所属している。


 18日、王宮ではアレクサス国王の25歳の誕生祭が開かれていた。誕生祭には王家の血筋の方々に貴族の方々、アレクサス国王の誕生を祝うために集まった各国の使者が集まった。


無事終わるかに思えた誕生祭であったがアレクサス国王の閉会での演説の時それは起きた。演説がはじまった瞬間アレクサス国王の後ろに控えていた二人の騎士団員がアレクサス国王に魔法を放ったそれを合図に他の騎士団員も攻撃を始めたという。


だがその反乱の情報は教団にもれていた。それを知ったジョゼフ教皇はアレクサス国王に進言したが相手にされなかった。それもそのはずだ天空の騎士団は国王が唯一信頼する者たちが集まっているのだ。教皇は何かがあった時のために王宮の外に気付かれぬよう十字軍を配置した。式も閉会の演説となり十字軍の誰もが気を抜いたときに天空の騎士団の反乱が起こった。


十字軍が会場に到着したときには集まった人々のほぼすべてが息絶えていた。アレクサス国王は突然の奇襲にもかかわらず生き抜き勇敢にもジョゼフ教皇他数名とともに騎士団と死闘を繰り広げていた。


十字軍が応援に駆けつけたとはいえ相手はセレスティア王国屈指の者が集まった天空の騎士団だ簡単に鎮圧できるはずもなかった。それでも多勢に無勢不利とみた天空の騎士団は逃亡を謀った。


何とか天空の騎士団の反乱は鎮圧できた。だがその代償はあまりにも大きかった。アレクサス国王をはじめ王宮にいた使用人までもが殺害された。生き残ったのは教皇とほんの一握りの十字軍だけだった。


たがまだ絶望してはいけないギルドの調査部によれば今年の夏に生まれたアレクサス国王の第一子のリファイン王子のご遺体が見つかっていないとの事だ。誰かが王子を助け出したのかはたまた天空の騎士団が連れ去ったのかは解らない。もし王子を保護している貴方がこの新聞を読んだならこの国の希望を無事に返していただけることを切に願う。


全ての元凶である天空の騎士団の目的は未だ不明である。逃亡した天空の騎士団の団員は光帝のアイリス、風帝のエレオン、炎舞のジオブリート、七変化のルミナスの4人。見つけた者は必ず王国軍またはギルドに報告して下さい。けっして捕まえようなどとは考えないで下さい。


以上が現在我がブワル社が得ている情報である。


そして今回の事件で亡くなられた全て方々にここに深く冥福を祈ります。



エバー・ラスター

 小鳥のさえずりが聞こえてくる。カーテンの隙間から差し込む朝日がまぶしい。起きたばかりの目を覚まそうと目をこする。なにやら夢を見ていた気がする、夢には大きな建物があったのは思い出せる。それから先はまったく覚えていない。憶えていないということは、それほどたいした夢ではないのだろう。二度寝しないようベットから体をおこす。二階にあるこの部屋の中はいたってシンプルな内装だ。これといった趣味を持ってはいないので机やベット、本棚など必要最低限の物が置いてあるだけだ。部屋を出て階段を下り朝食を食べるためリビングに移動した。


「やあ、おはようリーフ今日はいつもより早いね。」


「おはよう父さん、変な夢を見たみたいでねはやく目が覚めたんだよ」


 椅子に腰掛け新聞を読んでいる男性はエミリオ・クライン。俺の父親だ。とはいっても本当親子ではない。エミリオが17年前にギルド任務のときたまたま寄った村が魔物に襲われていたらしい。村は魔物の襲撃により皆殺しにされていて唯一生き残っていた俺をつれ帰り育ってることにしたらしい。その時に付けられた名前がリーフだった。


「さてリーフも起きて来たことだしそろそろ仕事に行ってくるよ」


「もう行くの、起こしてくれたら朝ご飯作ったのに」


 エミリオは料理が苦手らしく自分で作ることが出来ないので何時もリーフが作っている。この家で家事はほぼリーフが担当している。もともとエミリオはあまり家に居ないことが多かったため自然に身についた。


「それとしばらく帰ってこないかもしれないから戸締まりはしっかりね。しっかり食事もとるんだよ」


 エミリオはギルドで長期間の任務をよく好んで選ぶ。長期間の任務はあまり人気がなく選ぶ人も少ない。なのでエミリオが率先してこなすことで任務を受ける人が増えてくれるだろう、というのがエミリオの考えらしい。昔からのことだがリーフが大きくなり一人でも心配しなくてもよくなってからはさらに増えた気がする。月に一度も帰ってこないこともしばしばある。


「大丈夫だよ。いつまでも子供扱いしないでほしいな。いってらっしゃい父さん」


「行ってきます」


 こちらを振り向き微笑んで行ってきますと言うと家を出て行った。俺も朝食を食べ、たまには早く学園に行こう。



∫ ∫ ∫


 セレスティア魔法学園は王都の中心つまり王宮の隣に位置している。隣といっても学園と王宮の両方共この王都で1、2番の面積の広さを誇る施設なので隣といっていいのか解らない。魔法とは誰もが使えるものではない。そのため学園には魔法をはじめとしいろいろな学科が存在する。学園の設立当初は戦争の要である魔法使いの養成のため作られた、だが時代を追うごとに争いも減り平和になり国家は武力だけでは成り立たないという考えからその膨大な敷地を利用し学問や商業を発展させるため多数の学科を作った。


 多数の学科のうちリーフが在籍するのは魔法科だ。魔法は魔力があれば努力次第で誰でも使うことができる。ところが魔力をもつ人は少ない、数千に一人の割合である。親が魔法使いの場合魔力は遺伝することが多い。稀に親が魔法使いでも魔力をもたない子供もいる。また逆に魔法使いではないが魔力を持つ子供もいる。その場合その子供は可愛がられ幸せな子供時代をすごす。


 それもそのはずである魔法使いは国からたくさんの優遇措置がなされるのだ。その一つは王都の魔法学園に無償で入学できる。卒業後は大多数が軍に入るかギルドに無条件で入る事ができる。もちろんどちらもふつうの人も入れるが厳しい試験に受からないといけい。平和になったとはいえ国同士の小競り合いは起こる、そのため魔法使いが軍に多くいればいるほど他国への抑止力になる。そのかわり攻めこられた場合前線に送られてしまうがセレスティア王国の場合大陸最大の王国のため攻め入る国は少ない。それでいて給与がよいため生涯生活が安泰である。


 近年、軍を縮小すべきという意見もある。軍人の給与は国民から税からでているため何もしていない軍などあっても税金の無駄遣いである。との事で三年前の一度小規模の暴動が起きた。暴動はすぐに鎮圧された。その甲斐あってか今までギルドが一任していた魔物の討伐を軍とギルドが連携して討伐を進めることにし、それからは魔物による被害が減ったとのこである。


 そのことは魔物の襲撃により家族どころか村そのものが滅んだ過去のあるリーフにとってはとても喜ばしい出来事であった。


 リーフは軍ではなくギルドに所属しようと思っている。ギルドは民間からの依頼も請け負っている。けっして軍を批判する訳ではないがギルドの方が人々のためになるからだ。昔から正義感の強いエミリオに育てられたためかリーフも困った人を見捨てることができない。なので民間からの依頼が多数あるギルドを選ぼうと思っている。そのためには学園でしっかり学ぶことからしなければと意気込んでセレスティア魔法学園に入学した。


 セレスティア魔法学園までは家から歩いて30分ぐらいの場所にある。ただそれは普通に歩いた場合である。魔法使いであるリーフは普通ではなかった。リーフの得意な魔法は風属性で、自分に風を纏わせ素早く自由自在に移動することができる『風装』という上級魔法に位置する補助魔法を使い学園へ通っている。『風装』かなり高度な魔法である、高い技術と集中力、精密な魔力コントロールが必要である。そのどれか一つでも欠けてしまえば最悪手足が吹き飛んだり、内蔵が破裂したりする。下位の魔法使いは纏うのではなく突風で体を押し出しだけの直線にしか移動できない『風装』モドキを使う。


 なぜこんな高度な魔法が使えるのかというとこれもエミリオのおかげである。エミリオはギルドで指折りの風使いである。魔法学園に通うよりももっと前からエミリオから魔法を教わっていたからで、そのかいあってリーフの風属性魔法の腕はかなりの物だが他の魔法は人並みである。


 『風装』を使っての登校は学園までの時間を実際5分まで短縮できるがリーフは途中に出会う人すべてに挨拶をして回っているため15分かかる。最初のうちは突然現れた様に見えたリーフにみな驚いていたが、一ヶ月たつと慣れてきたのか今では普通に挨拶を交わしている。


「よう、リーフ今日もまたソレできたのか?というか街中で魔法使うなよ」


 学園についてすぐに見知った人物に出会った。彼は炎威翼えんいつばさという名の国外からきた燃えるような赤い髪が特徴的な留学生だ。国同士の伝統的な交流の一環で国外の学園と数人の生徒を交換する制度がある。翼はセレスティア王国がある大陸とは違う大陸の出身だ。


「いいだろ別に街中での攻撃魔法は禁止されているけど補助魔法の使用は制限されてないから」


「毎回思うけど便利な魔法だよな、ソレ」


 街の中での攻撃系の魔法は禁止されている。だが補助系の魔法は使用してもいいことになっている。風や水の魔法で道の掃除をしたり、街の街灯に火属性の魔法などが使われている。このように便利な魔法だが使い方一つで簡単に人を殺すことができる。また、防御魔法も禁止である。たとえば雷属性で防御した場合まわりのひとが感電してしまったりするからしい。そもそもはじまりがどこかの馬鹿が攻撃魔法がだめなら防御魔法を使えばいいと魔法を応用してひとを襲ったのがこの法律が作られた理由らしい。


「翼も使えばいいじゃん、何だっけ火属性の唯一の移動魔法のアレ」


「『爆進』のことか?」


「そ、それ」


「馬鹿かお前はそんなことしたら警備兵につかまる」


 『爆進』とは火属性で唯一の移動の補助魔法に指定されている魔法だ。自分の足下に小規模な爆発を起ことで、その爆風にに乗って進む。それには『爆進』専用の靴が存在し、それを着用しなければ足の裏が火傷で大変なことになってしまう。ただ小規模とはいえ爆発を起こしているので地面に穴があいてしまう。達人級になると穴をあけずに進むことも可能らしい。


「だな、それだと街中穴だらけになっちまうな」


 炎威とはあちらの大陸では少し名の知れた貴族らしい。ところが翼はそんなことは全く感じさせない、むしろ街でいたずらしまわっているガキのようで貴族のきの字すら感じないほどだ。


 翼と出会ったのは学園の入学式の日だ。そのころはまだ、ただの異国からきた留学生のクラスメイトとしか認識していなかった。入学式から数日がたってやっと学園になじんできたときに騎士科の生徒が三人の貴族であろう豪華な身なりをしたおぼっちゃんにいじめられていた。もちろん正義感の強いリーフは迷わず助けにはいった。三人の中で一番偉そうにしていたリーダーっぽい金髪をオールバックにした少年にねらいをさだめドロップキックをかましてやった。その現場を目撃した翼はすかさずもう一人にドロップキックをした。二人は倒れたとき運悪く頭を打ったらしく気絶してしまい。残った一人ににらみをきかしたら何ともマヌケ面で気絶した二人を置いて逃げ出してしまった。騎士科の生徒は助けたリーフ達にお礼をいうと立ち去っていた。後で聞いた話、翼はリーフがドロップキックをしたのを見ておもしろそうだからとの理由で助けに入ったらしい。理由はそれぞれ違ったがそれ以来何かと翼と気が合い今では親友と呼び合う仲だ。


 他国なら理由はどうであれ貴族にドロップキックをしたとあっては重罪である。だがここセレスティア王国では相手が貴族であっても非がある方が法律で裁かれる。初代セレスティア国王が国を建国した際『すべての国民は平等である』と宣言したからである。


 法律でもこのことは記されているが現実ではそんな簡単なことではない。実際貴族の方が身分が上であり逆らう平民は少ない。法律上貴族が有罪になっても後からの報復があるかもしれないからだ。最近ではまともな貴族も増えてきている中で、横暴な貴族が未だはびこっている。


 セレスティア魔法学園の魔法科の今年の入学者数は120人いた。1クラス30人の4クラスに分けられる。リーフと翼はAクラスに在籍している。クラス分けは教師達がくじ引きで決めているらしい。なんともいい加減な決め方だと思う。


 魔法科は三年制で一年生では基礎を学び、二年生ではそれぞれ専攻したい分野に分かれる。三年生は前期は学園で授業をし、後期には基本自由になる。学園に行き勉強するもよし、卒業まで怠惰な生活をするもよし、たいていの人はギルドに行って自分を磨くらしい。


 一年生はおもに魔法学、魔法史、基礎学力(国語や数学など)を学ぶ。そして今は初めての魔法学の実習の時間なわけだが肝心の先生が来ないのだ。それも最初の授業からである。最初のうちはみんな静かに座って待っていたが慣れていくにうちにおしゃべりなどをして待つようになった。その先生が授業に来ないときもあった。「いやー、わりぃ寝てたわ」と弁解していた。果たしてそれが弁解と言えるか疑問である。


「今日もまた遅刻みたいだね先生」


「ん?レナか」


 彼女の名前はレナ・イーファンス。腰まであるつややかな黒髪をし、いつも笑顔で誰にでも親切で優しい女の子だ。彼女の両親は魔法使いではない。レナは子供の時からたいそう可愛がられていた。それはレナが魔法使いだからではなくレナの両親の間には子供がなかなか生まれず諦め欠けていたときに生まれたのがレナであった。いつも柔和な笑顔をしていたのが印象的だった。リーフも今ほどではないがエミリオが生活のためにギルドの任務にでかけてたときによくお世話になっていた。ところが五年前に隣町に買い物にいくと言い残し出掛けた帰りに盗賊に襲われ亡くなってしまった。それからしばらくレナの笑顔は消え家に閉じ籠もっていた事もあったが今では笑顔も取り戻し元気なレナに戻った。


「いいじゃん授業しなくていいし」


「でも他のクラスと差ができないかな」


「大丈夫あんないい加減な先生だけど教え方わかりやすいし、それにレナは優秀な魔法使いだからな大丈夫だよ。家でも自主勉強してるんだろ?もっと自分に自信をもてよ」


「うん、あいがとうリーフ」


 レナは万能型な魔法使いだ。基本属性はすべて使えるうえに、希少な光属性を持っている。そして彼女のもっとも得意にしているのが治癒魔法だ。治癒魔法は水と光属性にしか使えない。その両方を使えるレナは国から期待されている。だがかえってそれがレナにプレッシャーとなっている。そのため周りからの期待に応えようと夜遅くまで勉強に励んでいるのをリーフは知っている。


「おいおい、教室で女の子口説くなよ」


 さっきまで隣で机にもたれ爆睡していたはずの翼がニヤニヤと気持ち悪い顔をしながらこちらを眺めていた。


「馬鹿言うな口説いてなんかいない、その顔止めろよ気持ち悪い」


「そ、そうだよ」


「そんな、レナまで俺を気持ち悪いって言うのか」


「え?あ、違うの口説いてないに対してのそうだよであって、顔が気持ち悪いのそうだよじゃ」


「そいつに関わってはだめだレナ」


 翼もわかっていたらしく悪のりしただけでまた顔を伏せて寝始めた。翼も俺たちのしんみりした雰囲気を変えるためにわざとあんな事を言って和ませようとしたのだろう。多分。



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