エピローグ
突然ですが、今話で終わります。
僕は家に帰る途中で大きな街路樹の下で人だかりがあるのに気づいた。
近寄って見ると皆、上を見上げている。
視線の先には三毛猫が高い枝の上で動けなくなっているのだ。
飼い主は見当たらない。
このとき僕は思った。
猫のスキルをコピーできないかと。
木に登って猫を保護することができるかもしれない。
僕は猫を見つめながら、閲覧をした。
するとその猫は「ミルク」という名の雌猫で3才だ。主人は……なんと高根可憐さんではないか。
そういえばラインの名前がネコだったから、ネコ好きなんだとは思ったが。
そしてミルクのスキルは‘ネコ語’と‘木登り’‘飛び降り・着地’だ。
僕はそのスキルをコピーして、ミルクに話しかけた。
(おーい、君はどうしてそんなところにいるんだい?)
『木になんとなく登ったら降りられなくなったんだよ』
(今、助けに行くから動くんじゃないよ)
『あんた、大丈夫? ここまで登れるの?』
(とにかくやってみる)
登り始めて、僕とミルクとでは体の構造が全く違うし、爪を立てて木を登るのがそもそもできない。
それでも、木肌に吸い付くように手足を動かし、少しずつ上に登った。筋力が足りないのを感じながらも少しずつ登って、枝の所までたどり着くと僕はミルクに呼びかけた。
(僕の背中にしがみつくんだ)
ミルクが僕の背中に乗ると僕は下に降りて行った。
一部始終を見てた見物人の老若男女は一斉に拍手喝采をしてくれた。
みんな暇人ばっかりだなと思いながら、それが顔にでないように笑顔でこたえた。
「すごいね、おにいさん。まるで猫とお話ししてるみたいだったよ」
小学生のおしゃまな女の子が僕に話しかけた。
いや、実際に話してたんだけど。
僕はミルクに背中を降りて可憐さんのところに戻れと言った。
ミルクは飛び降りて、走って行く。
『ありがとさん、可憐さんのボーイフレンドさん』
違うんだけど、そういう認定されてたんだな。
道場に行った時には会ってないと思ったけれど。
このことがあってから、僕は色々な動物と話したり、閲覧をしてスキルをコピーしたりした。
牧場や養豚場などに行き、牛や羊や豚などと話をしてみた。
後になってエミュや鶏などとも話したが、魚とは話せなかった。
スキルをコピーできる能力のレベルの問題なのだろうか?
ただ、動物園には行かなかった。
檻の中で飼われている動物にはストレスがあるのではないかと思ったから、なんとなく忌避してしまった。
けれど僕はドッグトレーナーとか獣医とか、そういう動物に関係した職業に就く積りはないので、この関係をこれ以上極める積りはなかった。
僕は自分の進路のことをじっくりと考えた。
合気道とかはある程度身に付いたとは思うが、職業にする積りはない。
体を使うものは怪我をしたらおしまいだ。
健康を維持するために、体を動かすことに関するスキルはとっておいて、損はないと思う。
なので一時保存程度にとっておいて、オーバーヒートになったり、何日もかけて極めようなどと思わずに、小出しにして真似事を楽しむ程度にしようと思う。
ベースになる肉体はそれほど‘向き’ではないと思うので。
実際の所、格闘技ではないが、ブレイキングやスケートボード、フリーランニングなどは初心者程度にとどめている。
経済的理由から道具の必要な物はあまりしない。
それよりも僕は表面上はかなり社交的になったが、実は結構無理してるし深く付き合うのは苦手だ。
だから将来的に職業を選ぶとしたら、人付き合いが少ない物の方が良いと思う。
臨床検査技師とかにも注目したが、やることそのものにあまり興味がないので続かない気がする。
そのことに関するスキルを得ることは問題ないが、技術を持っていることとやることに興味を持っていることは別のことだと思うのだ。
そう言うことも含めて‘適性’と言うのだろう。
リモートで稼ぐには 民芸品とか小物づくりなども良いと思うが、どこまで続けられるか分からない。
全く自分のことって分からないものなのだ。
僕はいったい自分はどこに向かって行くのかわからなくなることがあるのだ。
結婚相手はケシキともいつも話し合っているのだが、美少女や美人は精神衛生上避けたいと思っている。
非美少女とか非美人は不美人とは違う。
普通という言葉が良いと思う。
道ですれ違っても振り向かなくて済む、そんな普通さだ。
自分もそうだから、服と同じで好きな服と似合うう服は違うのと似てる気がする。
僕は‘閲覧’だけを貰っていたら、大変なことになっていたと思う。
なんでもかんでも手を出して、他人の情報を覗きまわって、結局何も残らない生き方をしていたと思う。
一緒に‘自問自答’を授かったから、ある程度ブレーキがかかって得るスキルも制限できた気がする。
でも僕は高校卒業までに自分は何に向いているか、見つけたい。
そしてその後進学するかその道に進むか決めたい。
「久住君」
振り返ると満面の笑みをした高根可憐さんがミルクを抱いて立っていた。
「聞いたよ、見てた人から。だいぶ前に久住君がミルクを助けてくれたんだってね。木登りもできるんだね」
「いや、うん……まあ」
僕は美少女の笑顔の眩しさに思わず伏し目がちになり顔が熱くなった。
『駄目だろうっ。美少女の色香に惑わされたら。こらっ、お前、聞いてるのか?』
ケシキの声がずっと続いていた。
僕はいったいどうしたら良いんだ?
作品に行き詰まり、これ以上書けなくなったので、ここで終わります。
読んでいただいてありがとうございました。