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美少女とのニアミス

 放課後になって、今は空き教室になった二年B組の中に入って自分の席だった所に腰かけてみた。

 なにか不思議な気持ちだ。

 あの二十九人はもう帰って来ないのだろう、きっと。

 この集団失踪事件は国内はもちろん海外にも伝わった大事件だった。

 そして様々な陰謀説まで囁かれた。

 UFOによる誘拐説も出たが、屋内のこともあり、それらしい飛行物が目撃されてないことあって、真っ先に否定された。

 一部のマスコミでは『神隠し事件』という古風な言い方をしていた。

 さすがに『異世界召喚のクラス転移』という説は使わなかった。

 誰しもがその言葉を喉まで出しかけていたのだが、『不謹慎』という理由で自粛しているのだ。

 それはライトノベルという娯楽小説の分野の話ゆえに、被害者家庭の立場を考えると口にできないのだ。

 また公式見解では僕は失踪には無関係でその場に居合わせていなかったということになってるが、実は何かを目撃していたのではないかという憶測も飛び交っているらしいのだ。

 学校側からも警察側からも僕が何も知らないという点を報道関係や失踪生徒家庭には説明していて、そのことに関して接触することは遠慮してもらいたいと釘を刺してくれているらしい。



「トントン」

「はい?」

 誰かがドアをノックしたので、思わず返事をした。 

 すると、休み時間に図書室で出会った二人の女生徒が教室に入って来た。

 ミスC組の篠原理恵さんと準ミスC組の佐野亜里沙さんだ。

 篠原さんは手にパパラギの本を持っていた。

 あの後図書室から借りたのだろう。

 佐野さんは少し下がって篠原さんと僕を見守るような感じでほほ笑んでいる。

 篠原さんは何か緊張した顔で僕に何かを問いかけようとしてるように見えた。

「世界史の須田先生は今日C組だけにこの本のことを教えたと言ってたのですが、久住さんはどうしてこの本のことを知っていたのですか?」

 えっ、何を言ってるんだろう。それはもちろん……

「たまたまごく最近読んだことがあるからだけど」

「そうだったんですか? 随分読書家なんですね」

「いやそれほどでも。たまたまだと言ったじゃないですか」

 僕は笑いながら席から立つと教室から出るようにした。

「どうして行っちゃうんですか?」

 背中に向かってそんな言葉を投げかけられて立ち止まれない奴なんていないだろう。

「いや……どうしてって言われても……」

 君たちのような美少女のツーショットと一緒にいると、男たちに睨まれるからだよ、とは言えない。

「行かない方が良い……すか? なら、もう少しいますけど」

「図書室でもさっさと行ってしまったから」

 そういうと篠原さんは両手を伸ばして僕の首の近くを触った。

「襟が折れていて、糸くずがついていたのを教えようとしたのに、さっさと行ってしまうから」

 篠原さんが僕の襟を直して指先で何かを摘まんだ。

「あれからだいぶ時間が経っているのに、A組の人は誰も教えてくれなかったんですね」

 あれは二時限の後の中休みだったから四五時間は経っていた。

 僕はボッチオーラで包まれているから、誰も見てないし気づかなかったと思う。

 いや気づいたとしてもわざわざ教える奴はいないと思う。

 シャンプーかリンスの匂いだろうか、篠原さんが近づいたせいで良い匂いが鼻孔をくすぐった。

 そして衣服を通してだけれど彼女の細い指の感触が伝わってドキッとした。

『おいお前スキンシップ作戦に嵌ってるぞ。気をつけろ。美少女はやめとけ』

 僕はケシキの言葉にはっとした。

「あ……ありがとう。まあ、僕はあまりそういうのは気にしないっていうか。じ…・・・じゃあ「久住君ちょっと」えっ?」

 急に別の声が聞こえたのでそっちの方を見ると高根可憐さんが入り口の開いたドアの所に立っていた。

「ちょうど良かった。そっちの方は用がすんだみたいね。C組の人に悪いけどこの後久住君に話があるから連れて行くよね」

 僕の後に着いて来ようとした二人を遮るように高根可憐さんは僕と二人の間に入り込んで、気がついたときは僕は高根さんに背中を押されて廊下に出ていた。

 いやいやいや二人から離れたのは良かったけれど、別の美少女と一緒に廊下を歩けば目立つと思うんだけど。

 僕が人目を気にしている素振りをしたので、高根さんは小声で

「それなら少し離れてついて来てくれる?」

 そう言うとスタスタと歩き出した。

 僕は周囲の壁を眺めるような素振りで五メートルくらい後ろをついて行った。

 たまたま同じ方向を歩いているんだという小芝居だが、それを見ている観客はいなかったと思う。

 放課後の屋上には誰もいなかった。

 部活動をしてない者はさっさと帰宅するし、部活動は屋上でするところはないからだ。

 そもそも屋上は安全上の理由で使用禁止になっている筈だ。

 だから施錠されてないのが不思議なのだ。


「どのくらい知ってるの?」

「えっ、なんのこと?」

「たとえば、こうされたら?」

 高根さんは僕と向かい合うと手首を両手で掴んだ。

 かなり強く掴んで来たけれど、別に力を込めなくても軽く解いた。

「そうよね、じゃあこれは?」

 今度は両の二の腕を掴んで来た。

 これも絡めるようにねじると簡単に解ける。

「じゃあ、これは? だんだん体幹に近づくにつれてテコの原理が使いづらくなる筈よ」

 今度は両肩を掴んで来た。

 高根さんのスキルを借用してるから、これも苦も無く解けた。

「そしてこれが笹暮君の場合だよね」

 そういうと、高根さんはあのときの笹暮と同じく胸倉を掴んで来た。

 咄嗟にあの時と同じ動きをしたが、高根さんは返し技を使って逆に僕を倒そうとする。

 その動きの流れに逆らわずに僕は体を回転させて投げられながら綺麗に着地して逆に彼女を投げる。

 スカートを履いていながらも彼女も美しく回転して着地し、また投げる。

 これは演武のようであり、組手の練習の型でもあった。

 スキルを身につけた為に自然にこういう動きができてしまうのだ。

 そして体幹に近い所を攻めて返し技の応酬をすれば最低限の体の接触がある。

 程よい所で自然に二人の演武が終わった。

 軽く汗を滲ませながら高根さんは僕に向かって顔を近づけて小声で言った。

「どうしてうちの流派の動きができるんですか? あなたはうちの流派の道場に来ている筈がない。しかも、今の動きは長年改良し続けた独特の練習法なのに少しも淀みなくできている。何故?あなたは何者?」

「だから動画で見て覚えたって」

「動画で見ても一人では組手の演武はできませんよ。まず実際にやらなければ覚えられない筈です。でも久住君は失礼だけど体を動かすのが得意な人には見えない。どう考えてもうちの道場との接点がないのに、うちの道場でも上級者の動きが自然にできている。これは何度も反復練習して体で覚えなければできない技なんです。頭で理解してできることじゃあありません」

 そう言えば僕は合気道のスキルをコピーした後、シャドーというかエアーで何度も納得行くまで一人で動いていたのを思い出した。

 けれどもスキルそのものをコピーしたとき、既に体に沁み込んだ動きの流れができる感じなのだ。

 後は体の筋肉や骨格や関節がその動きに適合して行くように練習するだけなのだ。

「じゃあ、僕はどうすれば良いんだよ」

 この言葉に高根さんは一瞬押し黙った。

 ということは彼女は僕に疑問をぶつけることばかり考えていて、僕がどうすれば良いのかなんて考えていなかったということだ。

 だが急に顔をあげて彼女は言った。

「簡単です。私と一緒に今みたいな組手をやってみんなに披露するのです」

 はああああぁぁぁ?

続きます。

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