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なろうラジオ大賞

パスワードに願いを

作者: 真鶴 黎

 「博士、お歳を召されましたね」


「コスモスは変わらんな」


 博士と呼ばれた男は自分の頬に触れる。皺が増え、艶が失われてきた肌の感触がする。ベッドで横になる時間も増え、老いを感じる。


「私はアンドロイドですから」


 男が作ったアンドロイド、コスモス。見た目は十代半ばほどの花のように可憐な少女だ。

 コスモスは男が横になるベッドの傍の椅子に腰かける。


「そうだった。我ながら時々お前がアンドロイドだということを忘れそうになる」


 淡々と、無機質にタスクをこなす。言われたことをしてくれれば十分ではあった。

 それなのに、男は彼女に人間らしさを与えた。アンドロイドである彼女の振る舞いに機械的な要素を排除した。喜怒哀楽のはっきりとした少女と過ごすことが当たり前になっていた。


「コスモスとの会話が楽しくて」


 男は慈しむように目を細める。

 男の知人は皆遠くにいるため、会えない。話し相手はコスモスだけだ。


「光栄です」


 寂しさを滲ませる男とは対照的にコスモスは得意げに胸を張る。そんな様子のコスモスに男は喉の奥にこみ上げてきた咳を押し殺す。

 どうやらこれは、と男は深呼吸する。


「コスモス」


 真剣な声音で呼ばれたコスモスは物々しい雰囲気の男に緩んだ表情を引き締める。


「約束してほしい」


 男は枕元の端末を手に取り、あるプログラムを起動するとコスモスに画面を見せる。


「俺が死んだら、このプログラムにパスワードを入れてほしい」


 コスモスの表情があからさまに曇るも、男は話を続ける。


「俺の知人に死を知らせるためのものだ」


「縁起でもないことを」


 男は気落ちするコスモスの頭を撫でる。冷たい男の手にコスモスの体温を感じる。

 この体温(機能)はアンドロイドには不要だが、つけてしまうほど、男の周りには誰にもいない。

 自分は思いの外寂しがり屋らしいと男は実感する。


「約束してくれるか?」


 コスモスはしばし沈黙すると、頭を撫でる男の手を取り、小さく頷く。


「ありがとう。パスワードは……」


 男はパスワードをコスモスに伝える。


「これって……」


 問いかけるコスモスに男は静かに目を閉じる。


「願いだ」


 男はコスモスの手を包み返す。その姿は祈りを捧げているかのようだった。



 五年後、男は永い眠りに就いた。コスモスは約束どおり、プログラムにパスワードを入力した。

 直後、コスモスの機能停止コードが表示された。コスモスは機能停止コードに抗おうとある行動を起こすも、彼女も長い眠りに就くこととなった。


コスモスがとったある行動の話→「5年後という未来」https://ncode.syosetu.com/n5795io/

コスモスの問いかけ→「コスモスは眠りに就いた」https://ncode.syosetu.com/n6025io/

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