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眼帯姫に謝りたい

一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

 茶会の場に残された二人と護衛の騎士たちはとても気まずかった。当たり前だ。服も与えられず、食べ物も粗末な食事。しかも十年間、三食同じもの。自分で調理をしたって、限りある食材をバンバン使えるわけがない。子どもの自給自足率など、たかが知れている。離宮から連れ出された頃よりは肉がついて来たが、十四歳で第二次性徴が見られないエリザベッタはどう考えても栄養不足だ。ランベルトの発言は到底許されるものではない。エリザベッタの尊厳を深く傷付けるのに充分なものだった。


「貴方が余計なこと言うから帰っちゃったじゃない!」


「お前だって知らなかったくせに偉そうに言うな!」


 チェレステとランベルトは仲が悪い。これは騎士たちの共通認識だった。特にチェレステがランベルトを毛嫌いしている。戦いの場でもお互いに罵詈雑言を浴びせながら敵を斬り倒し、仲間を癒す。仕事はきちんとするタイプではあったので、ヒートアップすると下品な言葉が飛び交う以外は受け入れざるを得なかった。

 しかし、神殿育ちのはずの庇護欲そそる可愛らしい容姿をしているチェレステがどうしてあんな俗語(スラング)を知っているのか。誰も本人に尋ねたことはない。


(どうしよう!どうしよう!どうしよう!このままじゃ私がコイツと婚約させられちゃう!そしたら待つのは死よ!?)


 第三王女チェレステもまた前世の記憶を持っている。聖女の先き見と称して予言めいたことも言う。何故ならこの世界はファンタジー恋愛マンガの物語の世界だからだ。チェレステはその話を知っている。自分が前世でどのような人物であったかは分からないが、知識だけはしっかりと持って生まれて来た。


(コイツと婚約したって、どうせコイツはエリザベッタに惹かれて最終的にあっちを取る!虐める予定はないけど、物語の強制力で悪役令嬢に仕立て上げられたら元も子もないのよ!)


 そう、この物語のヒロインはクールビューティーな見た目のエリザベッタの方。チェレステこそが悪役令嬢ポジションだった。


(魔王は一年で復活する!今回だって結局致命傷は負わせられなかった!時空の狭間に逃げたから金の月が昇らなくなっただけ!そのことは陛下にも報告してあるけど、ストーリー通り魔王の討伐を完了したってもう世界に発表しちゃったし!バカなの!?あのクソオヤジ、バカなの!?どうせ一年でバレるのに!!)


 そしてその際、チェレステは自分に気持ちの向かない婚約者と妹への嫉妬を魔王に利用されて仲間を裏切ることになる。聖女とて一人の人間。魔の付け入る隙はあるということだ。


(私の推しは魔王なの!魔王を何とか籠絡したい!だけどエリザベッタの魔の色に魔王も魅入られる!最終的にランベルトとくっつくのはストーリー通りに進むだろうけど、そうしたら私は魔王に駒として扱われて無惨に死ぬだけじゃない!私は「おもしれー女」枠にならなきゃいけないのに!!)


 姉チェレステが亡くなるまでランベルトとエリザベッタは結ばれない。チェレステが死に、魔王を斃してから、ランベルトがエリザベッタに求婚してハッピーエンドを迎えるのだ。


(ランベルトとエリザベッタを最初からくっつけようとしたのが間違いだったの!?やだぁ、初手を間違えた!?でもでも!)


 エリザベッタを傷付けたことではなく自分の欲のことばかり考えているようにも思えるが、〝不遇の王女〟エリザベッタのことはヒロインとして心底好きだったキャラクターでもあるので一応心配はしている。だがストーリーをなぞるようにここまで来ているので、二人が結ばれるのは決定事項だと考えており、将来の心配などは一切必要ないと思っているのだ。


「とにかく、謝りに行きましょう。」


「お、そ、そうだな。行ってこい。」


「貴方が一番謝らなくちゃいけないのよ!?お茶を一口も口にせず、座らせもせずに帰しちゃったし、ヴィオランテ、アレはすっごく怒ってたわ!王宮でヴィオランテに睨まれたら生きて行けないわよ!?」


「うっせえ!別にいいよ!俺は騎士だからな!」


「良くないわよ!貴方、これから伯爵に召し上げられて拝領するんだから、王宮との縁は切っては切れないわよ!?」


「何でんなこと!……先き見か?」


「そうよ。頑張ってね、クリザンテーモ、は、く、しゃ、く!」


「畜生ッ!決定かよ!!」


「嫌なら今のうちに国から出奔でもすることね!ホラ、行くわよ!!」


 室内であるはずなのに風を切りながら、ではなく、風を起こしながら歩く二人に人々は道を譲る。今、この国で彼らの行手を阻める者は国王のみ。宰相ですら道を開けねばならない。


「エリザベッタに会いたいの。通してくださる?」


 エリザベッタの部屋の見張りに声をかけると中に入るヴィオランテに伺いを立てた。答えはNOである。


「謝罪に来たの!お願い、通して!」


 王女のマナーなどかなぐり捨ててチェレステが叫ぶので仕方なくという顔をしたヴィオランテが二人を招き入れた。


「オネーサマ。エーユーサマ。カエル。お願い。」


「ごめんなさい、エリザベッタ。貴女のこと、何も知らなかったの。ただ、王妃に冷遇されているとしか聞いてなくて……悪かったわ。謝る。お願いだから許して頂戴!!」


 先程エリザベッタに土下座をして感謝しろと言ったのはチェレステだったが、実際に土下座をしたのはチェレステだった。


「そこまでするか!?」


「貴方もよ!早く!」


 土下座はこの国では屈辱的な敗者の姿勢である。これをすれば相手には絶対服従の意志を示したことになる。それでもチェレステはまずエリザベッタに許しを乞わねばならぬ事情がある。非常に個人的な事情だが。


「第五王女殿下。先程は申し訳なかった。発言は撤回して謝罪する。貴女の境遇は決して幸せなものではなかった。私の無知をお許しいただきたい。」


「許してくださいお願いしますでしょ!」


 チェレステがランベルトの頭をバシンと叩くので、彼は額と高い鼻先が床とキスをすることになった。扉は閉められ、ここにいるのはエリザベッタ、ヴィオランテとこの土下座組二人であるが、褒められた行為ではない。


「頭を上げろ。」


 エリザベッタは父王から聞いた言葉を真似して低頭をやめさせた。命令口調なのは国王の真似なので許して欲しい。


「ユルス。ダカラ、アワナイ、モウ。カエル。どうぞ。」


 エリザベッタは眉根を寄せて手を扉に向け、二人に退室を促した。もう会わないなど許したことにはならない。二人は慌てたがヴィオランテによって追い出された。

 だが、数日後、また顔を合わせることになる。チェレステとは家庭教師として、ランベルトとは護衛騎士として、毎日顔を突き合わせる羽目になった。騒動の顛末を知った国王が「二人に償いの機会を」と王命を出したからだ。

 これは二人に対する王命だが、実のところエリザベッタに対する王命であった。これを機に二人をくっつけろとチェレステは父王に言われている。「でなければお前が嫁げ」と突き放されてしまえば受け入れざるを得ない。いや、エリザベッタとの仲を改善したいとは考えていた。これは逃してはならない好機だ。


「ウチに帰りたい……。」


 一気に周りが騒がしくなり、孤独を懐かしむエリザベッタであった。

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