眼帯姫の結婚式
英雄ではなくなったランベルトだが、未だ国民からの人気は高い。まず、顔がいい。次に、人間の中では最強クラスに強い。三に、魔界との和平の一番の立役者。出自も相まって、一代で公爵まで上り詰めたサクセスストーリーとして受け入れられている。
「綺麗だよ、エリザベッタ。本当に綺麗だ。」
「ありがとう、ランベルト。貴方もとても、その、素敵だわ。」
褒め合いは貴族の基本である。社交において、褒め言葉は褒め言葉でない場合もあるが、良好な関係の男女ならば男性は女性を褒めて当たり前で、女性はそれに返すのが礼儀だ。
羞恥で燃え上がりそうな顔を手でパタパタと仰ぐエリザベッタを見て、補習したくなるのをグッと堪えるヴィオランテは、新妻の初々しさということで、今日のところは目溢しする予定である。
ぽよんぽよんどころでなくボヨンボヨンなメロンはコルセットでガッチリガードされ、今のところ動きを見ない。あまり肌を見せないデザインなので、ランベルトもご満悦だ。アレは他の男に見せたらダメなヤツ。
本日の夜は、このプリンプリンをぶるんぶるんさせるつもりだが、溜まりに溜まった激情はまだ出番ではない。
かつてチェレステの住処だった大神殿で式を執り行うので、市街地を馬車で通った。市井にあまり縁のないエリザベッタだが、ランベルトは新人の頃、市中警護の任務にもついていて、馴染みがある。パレードしつつ、手を振って愛想を振り撒くと、たまに見知った顔を見つけたりもする。過去の女の顔を見つけると、知らんふりして視線を外していたのに、エリザベッタは気付いていない。きちんと清算はしているので、時効だ時効。
クリザンテーモ公爵家は王都に二つのタウンハウスを持っている。ひとつは元離宮。もうひとつは元ムゲット公爵邸だ。お取り潰しの憂き目にあった曰くつきだが、この世界ではそういうところは気にしないようだ。
お披露目の夜会は、王宮でとの提案もあったが、元ムゲット邸で行うことになった。小さな転移装置があるので、離宮との行き来は簡単に済む。あれから魔界の技術も発達して、ランベルトひとりもしくは眷属がいれば転移は五人までなら可能なシロモノだ。
エリザベッタは目覚めてからダンスレッスンに励んでいた。身長も伸びたので、足運びがほとんどイチからやり直しになってしまった。自分の変化になかなか慣れないところもまた可愛らしいとランベルトは思う。
ダンスの練習相手はもちろんランベルトだ。密着度が他のカップルより高めになるのはご愛嬌。なのに、いまいちそういう雰囲気にならない。
婚姻前でも離宮に何度か泊まったが、ランベルトはエリザベッタに必要以上に触れてはこなかった。口付けはするし、抱擁もする。なのに、色っぽい空気がないのだ。
(もしかして、枯れちゃった?なんてこと、ないよね?)
病気がどうのと言っていた頃が懐かしい。いや、今は違う病気の問題が勃発している可能性がある。エリザベッタは生憎と外科医だったので、泌尿器科は専門ではないし、精神的なものならなおさらどうしたらいいか分からない。患者は困れば自分でやって来るが、婚約者に真正面から問いただすのは憚られた。
ファーストダンスは夢のような時間だった。この時が永遠ならばいいのにと思うほどに。
泌尿器科の件以外にも、まだランベルトと話し合えていないことがある。エリザベッタの寿命問題だ。ランベルトがエリザベッタの知っているランベルトじゃなくなってしまって、ときめいているばかりで肝心なことはタイミングを逃しまくっていた。
女王夫妻も参加する異例の夜会は宴もたけなわ。けれども、新婚夫婦は一通り挨拶を済ませるとそっといなくなる。基本的に結婚の披露目の夜会の主催が当主本人ということはないのだが、女王夫妻ともう一人の王妹夫妻も会場に残っているので、彼らがホストの役割をしてくれることだろう。
転移装置で離宮に戻り、フル装備を外して、また侍女に磨かれると、夫婦の寝室に放り込まれた。
今は寝台の上でランベルトの腕の中。あぐらをかいた上に座らされて、腕でガッチリガードされている。
「ようやく……ようやくだ……やっと君に触れられる。」
「あの、えっと、これから、よろしくね?」
「もちろんだ、エリザベッタ。こちらこそよろしく。ずっと一緒にいようね。愛してる。」
口付けは次第に深くなり、仰向けに寝かされて、男をこうして見上げるのは久しぶりだなと思うエリザベッタを擦れたヒロインなんて思わないでほしい。
「あの、本当に、いいの?」
「なにが?」
「わたくしと、結婚して?」
「いいに決まってる。ずっと願ってた。二年間、いや、その前から、ずっと。」
あ、大丈夫そうですね。問題ありません。ぐっと押し付けられた腰で、元医師のエリザベッタはひとつ目の懸念が晴れたことを知る。
「君が入って、やっと、完成する。」
「な、なにが?」
「永遠に君を繋ぎ止める愛の楔が。」
どういう意味?と聞く前に、また口付けられた。言葉はランベルトの舌に絡め取られ、思考は連れ去られてしまった。
頭がおかしくなりそうなほど全身を愛でられて、執拗なほどにランベルトの楔を打ち付けられ貪られて翌朝を迎えたエリザベッタは、自分の心配が余計なお世話だったことを反省した。
結局、何が完成したのか。ランベルトの言う、永遠にエリザベッタを繋ぎ止める愛の楔とは?
以下、次回。最終回である。




