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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫のときめき

 あらかた話を聞き終わり、女王夫妻とヴィオランテはランベルトを置いて退散していった。そのことに驚きを隠せないエリザベッタの困惑を、チェレステは苦笑して眺めた。


(あの若者らしい純情可憐なお姉様のツンデレはどこに!?)


 姉だが妹のように思っていたチェレステが、寝てる間に大人の階段をホップステップジャンプしてしまった。しかも、子ができにくいはずの魔族の子を妊娠してるかも?とか言って照れながら報告するではないか!

 なんだか寂しいと思うエリザベッタは、先を越されたと前世の自分が叫んでいるのを張り手打ちして黙らせた。そんなメンタルだからダメ男に引っかかるんだバカタレ。


 正直、自分のことを中小企業の事務員とかかななんて思っていたエリザベッタだったが、全てを思い出してみれば全く違っていた。パソコンに向かい合っていた記憶は、表計算ではなくカルテだった。


 医者は医者同士、もしくは看護師と、と思われがちだが、医者というのは案外不倫だの愛人だのの話は多い。偏見かもしれないが、エリザベッタの勤めていた職場ではまず院長に愛人がいて、なんなら副院長と偉い肩書きがつくのは院長の腹違いの弟だったりした。一族経営の病院怖い。

 地位と金と名誉がある男は浮気をする。それは前世で学んだことだ。だが、名誉はともかく地位も金もない男でも浮気はする。これは身をもって経験したことだ。頭も良くて金を持ってて顔がいい男は御し易い女を選ぶし、女医なんか気が強そうと思われて敬遠された。実際に、前世のエリザベッタは気が強かったし、今もそうだ。


「もういらないの?」


「あ……ええ、もういいわ。」


「ウーコン大公は目が覚めたらすごくお腹が空くって言ってたけど、やっぱりまだ落ち着いてないのかもしれないな。」


 お腹は空いているし、煮崩れた野菜のスープも美味しいけれど、赤子のように口に匙を運ばれるのが恥ずかしくなって、食べる気が失せたのだ。


 ランベルトは甲斐甲斐しく、目が合えば微笑んで、その顔は相変わらずよろしいけれど、アクが抜け落ちてスッキリとしている。


「わたくし……不老長寿に、なったのよね……?」


「食べないと普通に餓死するってよ?」


「あ、そういうのじゃなくて、その……気持ち、悪くない?」


 こういうのはさっさと解決するに限る。さっきから心拍数が上昇しているし、顔が熱い。身体的異常が出ている。前世をしっかりと思い出すと、医者の自分が顔を出してロマンもへったくれもないヒロインになってしまった。


「なにが?」


「その、魔の、色が?」


「鏡、見たの?」


「さっき、立ちあがろうとしたとき、チラッと……」


 チラッとどころでなく姿見でガッツリ見たわけだが、両眼が金になっているよりもたわわの方に気がいってしまった。見慣れない己の姿に慄いたが、金眼のことは認識していた。


「魔の色とか、いまさら?クワンだっているし、他の魔族だって出入りしてるのに。あー、そうか。そうなる前に、カプセルに入ったもんな。みんなもう、慣れたモンだよ。クワンの眷属も王宮で普通に働いてるし、俺のとこでもクワンの眷属雇ってて、文官やってるよ。」


 二年も経てば人も様変わりするが、社会も変わる。現体制では王配クワンの侍従のほとんどは眷属だ。自身の眷属ではないのにくっついてきたおじじ(アラサー風イケメン)に、最側近のチェンがいるが、エリザベッタはまだ顔を合わせていない。


 サラサラと心地よい音がするほど美しいエリザベッタの髪を指で遊んでいるランベルトは、まだエリザベッタに王家の夏空色の瞳が片方だけはまっていた頃を思い出した。


「でも、青い目のエリザベッタも可愛かったから、そこはちょっともったいないかな。……でも、黒髪に、その金色はよく映える。綺麗だよ。」


 ランベルトは長かったのが更に長くなった新生エリザベッタの黒髪を一房取って口付けた。エリザベッタはドギマギしている。異世界美形の本気の破壊力、恐るべし。


 顔を覗き込まれて、懐かしんでいるランベルトの気持ちをエリザベッタは理解できない。彼女にとってはついさっきまで、力を使わなければずっと片目は青色で、今の両眼金色ですら一時的なものだと思っている。

 訓練すればクワンのように魔の色を抑えることは可能だろうが、今後のエリザベッタにその必要が出てくるかは誰も知らない。


「あの……」


「なあに?」


 あ、まーーーーい!


 エリザベッタの心の中でハンブルグステーキ先生が叫んだ。甘い。甘過ぎる。まず、声が甘い。以前のような口説くぞという下心が見えない。ひたすら愛情だけを煮詰めて言葉にしたようなゲロ甘さだ。


 なのに、胃もたれどころか、もっと欲しくなる。


 弄んでいた髪を耳にかけられ、くすぐったくて身をよじる。かすかに触れた耳が熱い。


 笑い声が漏れて、見上げてみれば、まっすぐに見つめる紫眼と目が合った。ゆっくりと近づく唇を拒むことはできなかった。

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