表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/79

眼帯姫のメタモルフォーゼ

 エリザベッタがカプセルに閉じ込められて二年。チェレステとランベルトは二十一歳になった。エリザベッタは十八歳になるが、年だけ重ねていても仕方ない。カプセルの中でどうしてるか分からないので身体は成長しているのか不明なのである。


 チェレステ王国の闇は公表することなく、マリッサには賠償も断られた。ドアマットヒロインは永いときを経て憎しみや恨みは昇華し、大公妃として嬉し恥ずかし新婚生活の方が忙しい。


 チェレステは女王業も慣れて来て、クワンにしっかりと手取り足取り支えられながら仕事をこなしている。子どもはまだ産まれてないが、妊娠の兆候が見られると先日診断を受けたばかり。クワンから注ぎ込まれる魔力と、臍の緒を通して循環する細胞で、エリザベッタのように全身が不老長寿に組み変わっていく。

 ただ、エリザベッタのように急激に変化するわけではない。何人も産んで、ゆっくりと変化させていくのだ。一人産んで済むわけないではないか。ヴィンテージDTはこれからもハッスルハッスルぅ!する予定である。


「閣下、お時間です。」


「ああ、もう支度は済んでいる。」


 今日、ようやく愛しい人に再び会える。抱きしめて、口付けて、この二年で伝えきれなかった愛を伝えよう。

 わずかに残っていた少年の幼さは完全に抜けて、公爵としての威厳も漂わせながら、エリザベッタの愛する離宮から本宮へと向かった。


 愛する人が生まれ育った離宮は、結婚の祝いとして先駆けてチェレステから下賜され、クリザンテーモ公爵家のタウンハウスとなった。


「カプセルを解除します」


 王配になっても腰が低めのクワンが寝台に置かれたカプセルに手をかざした。パリンと殻が割れて、中の魔力が粘液のように広がっていく。小さな球体に入っていたとは思えない、人ひとり分の量だ。


 次第にそれは女の形を作る。いもむしが蛹になって、ドロドロになりながら肉体を再構成していると思ってくれればいい。グロくても特注のこのカプセルそんな感じの仕組みなのである。


「あ……ああ……!」


 愛する人の白い肌が光り輝くようだ。エリザベッタ、エリザベッタだ!とランベルトは感動に打ち震える。


「ちょ、イェン!あなた!出てくるときハダカなんて聞いてないわよ!?」


「あっ、そっか!忘れてた!ご、ごめんチェレステ!」


「男ども!回れ右よ!こっち見んな!」


 どうやらクワンは色々と伝え忘れてたらしい。エリザベッタは、生まれた姿のまま出て来てしまった。服どこ行った。


 クワンとランベルトとその他がちゃんと指示に従ったのを確認して、チェレステとヴィオランテがエリザベッタに駆け寄る。


「エリザベッタ!エリザベッタ!」


『ん……あ……だれ……?』


「殿下、殿下、わたくしが分かりますか?」


「わたくしのことは!?〝分かる!?〟」


「あ……はい、〝分かります〟、おね、さま……」


「エリザベッタ……!!!」


 回れ右して背中を向けた男たちは様子が見えないけれど、どうやら会話は成立しているらしい。返答は日本語だったり大陸語だったりするので、まだ混乱しているようだ。


「言葉が混じっちゃってますね」


「意識の混濁は何日か続くだろうな。だが、それはそのうち治る。受け答えできてるんだ、頭はしっかりしてるだろうさ。良かったなぁ、ランベルトよ。無事、成功だ。」


 大公オヤジは横目でクワンとの間にいる己より頭ひとつ背の低いランベルトを見た。思わず自分の口角も上がっているのは自覚的だ。なかなかいい仕事をした。人の役に立つというのも悪くない。


「はい……はい、大公閣下……ありがとうございますっ……陛下も、ありがとう……!」


 震え声で感謝を述べるランベルトに、オヤジ大公とクワンは横目で視線を交わして苦笑した。ランベルトは泣いていた。こんな風に涙が止められないのはいつぶりだろう。母が死んで以来だろうか。


 拭われることなく流れ続ける涙は、いつしかランベルトの襟元を濡らしていた。


 さて。お目覚めになった眠り姫は特に王子様のキッスなどを必要とはしておらず、されるがまま侍女たちに着替えさせてもらい、そのまま眠ってしまった。


「いいわよ、男ども!」


 チェレステの声にいち早く動いたのは当然ランベルトだった。魔族男子二名はあえて歩みをゆるくして、その後を付いていく。

 顔を覗き込むと、ランベルトは固まってしまった。胸は上下しているので、ちゃんと生きているのはわかっている。だが。


「なんか……成長しました?」


「当初の予定では、封印された時点での身体がそのままというお話だったのでは?」


 新生エリザベッタの形は、なんというか、こう、気がついたら時が進んで二年経ってました!というような成長の仕方ではない。顔は大人びて、ついでに身体も大人びて、王国の華と呼ばれたボンッキュッボンのジュリエッタそっくりになっていて、成長した、大人になった、というより、熟れました!と言われた方が頷ける感じだ。遺伝子の将来性にベットしたランベルトは大勝利であるのだが。歳をとりました!なんて、思ったとしても女性には言ってはいけない。


 女王夫妻の疑問質問にオヤジ大公は、訳がわからないよ!と言わんばかりにお手上げポーズを取った。


「意識がカプセルに入れた当時のままなんだ。十五だったか?人間の十五なら、まだ成長期だろう?己の本能の識る形になるはずだから、理論上は封印時そのまんまで出てくるはずだったんだわ」


「ではなぜ」


「どうだっていい。そんなの、どうだって。こうして出て来てくれただけで、充分だ……」


 ランベルトはいつの間にか寝台に腰掛けて、エリザベッタの頭を撫でている。チェレステは引き剥がそうとしたが、旦那様に止められてしまった。


「二人にしてあげよう?」


「でも……分かった。」


 ランベルトは二年待った。女遊びもせず、公爵に転職して苦手なデスクワークに励み、時にはクワンと鍛錬をして、身綺麗なまま、エリザベッタの目覚めを待っていた。


「やっと……やっとだ……おかえり、エリザベッタ。」


 独身公爵は、愛する人と婚約者という立場のままなせいで、常に側にはいられなかった。


 再び目を覚ましたら。今度は絶対に。


「結婚しよ、エリザベッタ。君が楽しみにしてた、結婚式も、すぐにしような。夫婦になれば……そしたらもう、俺たちはずっと一緒にいられる。もう、どこにもやらない。片時も離さない。誰にもやるもんか。君は、俺のモノだ。」


 新生エリザベッタはまだ知らない。


 ランベルトがこの二年で闇落ちしたことを。


 禁欲しすぎたランベルトのタガが外れたことを。


 次に目が覚めたら、TLなTDL(とわに溺愛ランド)が待っていることを。


 あの、己の愛する離宮で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ