眼帯姫は眠り姫
主役二人の結婚式は、エリザベッタが昏睡状態に陥ったことで中止された。ついでにファウストの所業が明らかになり、チェレステ王国に残っていた魔族排除派の者たちも一掃されたのも記しておこう。国内に置いてよからぬことを企むといけないからとアッズーラが引き取って行った。ファウストの忌み嫌う魔の者に囲まれて、嬉し楽しの辺境スローライフに突入だ。
母上ぇ〜!が自分のせいで毒杯をいただいたと知り、茫然自失だったため、抵抗もしなかったのは幸いだった。王妃改め王太后の死は、そのうちひっそりと伝えられることだろう。
王様?さあ?完全に蚊帳の外だし、あっちもあっちでなんかするんじゃないかって思われてるから、そのうち折を見て王太后のあとを追うんじゃない?
「貴方が、あのとき、わたくしを守ってくださった方なのね……?」
「ああ、そうだ、愛しい人。ようやく、ようやく逢えた……!」
建国の母チェレステの妹と大公の兄が再会した。オヤジ呼んでこなきゃ!となった大公はさっさと魔界に戻ると、ついでにアニキも連れて来た。
チェレステ王国の建国神話は嘘っぱちだったと言えば、なんとなく察してもらえるかもしれない。
英雄はランベルトなど及びもしない愚物であったし、聖女は醜悪な女だった。姉とその恋人に虐げられていた妹は、あるあるだけれど姉など及ばないほどの聖力の持ち主だった。次元のヒビから漏れ出た魔力の影響で世界が魔力を取り込み、対抗する力はかなり昔に生まれていたらしい。
神殿が聖女や聖者の管理を行い始めてすぐの頃。最初の魔王アニキはやってきた。魔王ニキの目的はもちろん嫁取りだ。何人かあの不完全なカプセルに聖女を取り込んで、ある程度数が揃ったらさっさと退散して持ち帰るつもりでいた。
だが、戦いの場で出会ってしまった。運命の人に。
その運命の人は、当時チェレステ王国辺りを治めていた国の王の庶子だった。不思議な癒しの力を生まれたときから多くその身に宿しており、近い時期に生まれた正妻の子の双子の妹として育てることにした。
それを正妻がよく思うはずもなく。
初代チェレステの妹は、ドアマットヒロインだった。英雄はヒーローではなく、本物の王女とお付き合いしながらも妹にまで粉をかけてくるクズだった。
妹があまりにも自分に靡かないのと、姉が妹を粗雑に扱うのを見て、次第に彼も妹に対して当たりがキツくなった。
最終的に魔王戦で肉壁にしようとしたのだから、最低最悪な男だったといえよう。さすがにランベルトだってチェレステを肉壁にはしない。
結局、魔王は運命の人を守るために魔法をかけたが、その玉の回収叶わず、時間切れで撤退することになってしまった。それからずっと、ニキは運命の人を想っている。
魔王を斃したとうそぶいて凱旋した英雄に、当時の王は王女チェレステと結婚させて、全てを二人の功績にした。チェレステは大した力のない聖女だったので、魔族の嫁候補にもならなかったのに。箔付けに行軍してただけで、真実は魔王の威圧に耐えられず早々に離脱している。
しかしながら、似た者夫婦の欲深さには呆れすら起こらない。先王や愚弟はその血を色濃く受け継いでいたのかもしれない。
そんな玉っころに閉じ込められていた悲劇のヒロイン聖女マリッサ。アニキが来てすぐに玉から解放されて現れたのは、深い海のように碧い瞳の美女だった。
「君が、あの男の盾にされたときは肝が冷えた。保護魔法が効いてくれて良かった。焦って、力を調整せずにかけてしまったから。」
「ありがとう。貴方の魔法の中にいる間は、ふふ、結構大変だったけど。でも、不思議と怖くも恐ろしくもなかったの。貴方の魔力は、ここを出たら危ないよ、迎えに来るまで待っていてって、語りかけてきたわ。だから私、気の遠くなるような時間が過ぎても、ずっと待っていられたの。いつも貴方の魔力がなぐさめるように私に寄り添ってくれていたから。」
経験者は語る。今、エリザベッタの中でマリッサに起きたのと同じことが起きている。聖力がエリザベッタに寄り添っているかは誰も知らない。
飲まず食わずでいられる玉の中で過ごしたマリッサとは違う。エリザベッタの治療は緊急性を要していた。呼ばれたオヤジもまた神ならざる身を神に近づけた張本人なので、経験者の一人だ。
まあ、結局カプセルに入れることになって、アニキのオマケみたいになったオヤジが時々力に干渉してやって、エリザベッタの魔改造を進めているのだが。
ここに、新たな大公夫妻が誕生した。一目会ったその日から、一千年近くの時間をかけてひっそりと愛を育んできた二人は、幸せに暮らしていくのだろう。
「あと、二年……か。」
ランベルトは空を見上げてエリザベッタを想う。
オヤジの診断では、エリザベッタをカプセルに入れないと肉体の方が変化に耐えきれないということだった。全てが終わるのに二年かかり、その上、脳が正常を保っているか分からないという。
最悪、体は不老不死のまま夢の住人になった場合は、魔界の方で世話をするという申し出があった。魔族の誰かの妻になって、訳もわからないまま愛でられる人生になるかもしれない。
そんなの、許せるわけがない。
ランベルトが姫の降嫁なく公爵のまま据え置きになってるのは、自らした宣言を違えないため。
時々、不届きな輩が、お慰めにと娘を差し出して来たり娘が突撃してきたりしているが、その全てを退けている。
ランベルトに出来ることは、身綺麗なまま、エリザベッタの無事を願うことだけだった。あ、違った。もうひとつあるけど、それはまた次回。




