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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫は生まれ変わる

 ちょっとだけチェレステ王国の歴史について勉強しよう。


 建国の父はこの世界で初めて魔王を斃した(ことになっていただけの)英雄だが、建国の母はその妻チェレステ。言わずもがな、聖女である。


 初代チェレステは同じく聖力を宿した双子の姉とともに魔王討伐に赴いた。だが、姉は魔王との戦闘で初代国王を庇って命を落としてしまう。姉もまた初代国王に恋をしていたが、結局生き残ったのは初代チェレステで、姉は死んでしまった。国王がその時点でどっちが好きだったかは誰も分からない。


 魔王を排したあと、英雄と聖女は結ばれて、ロマンチストな初代国王は妻の名を国の名にした。民たちも子どもに寝物語で聞かせながらほっこりしちゃうお話である。


「コレ、大きいし精度悪いですけど、俺が使ったカプセルと同じです」


 箱の中身は、王家の秘宝だった。半透明の磨かれた石に見えるが、聖力の込められた宝玉らしい。そんなモノがあるなんて。魔力や聖力を計る水晶に似ているが形は似ているが神殿にだってないぞ?とアッズーラは首を傾げた。


 いまだにチェレステ王国の王宮に滞在している大公夫妻にクワンは相談を持ちかけたのだ。チェレステは執務も放り投げてほとんどをエリザベッタに付き添っている。


「聖力が溢れ出してるね。結構強いな〜。石そのものは魔力で出来てるのに。だから抵抗して強くなったのかな?あ、でも、ん?ねえ、ダーリン。なんだかこの魔力、知ってる気がしない?」


「コレ、ウチのアニキの魔力だな」


「あー!確かに!」


「えっ、じゃあ、それって……」


 大公の兄は初代魔王。木っ端の聖女を連れ帰るも、己は戦場で出会った初恋の人が忘れられず、独身魔族を貫いている。というか、魔界の呪いのせいで一回好きになってしまうと相手が死ぬまで次の恋が出来ないのだが、相手が人間なのだからその聖女が今の今まで生きているわけもなく、とっくに次に行ってもおかしくないのだが。


「いやそんなまさか!」


「でもお前、コレを元にあのカプセルとやらを作ったんでないの?」


「おじじから話に聞いてただけですよ!あの人ほとんど会話という会話をしてくれないじゃないですか!」


「アニキはシャイなんだ。許してくれ」


 ちなみに大公とその兄は一族が昔いた世界の神を降ろして自分たちが神に成り替わろうとして次元のゴミ箱に捨てられた一族である。なので、昔いた世界で生まれた兄弟がいるのだ。一族の女たちとは次元を隔てて別れてしまっている。今と違ってハレムを築いていたので、女たちが夫たちと引き離されて嘆き悲しんだかは神のみぞ知るところだ。


「うわぁ、俺、わざと負けてあげた方が良かったのかな!?」


「そりゃアニキのプライドを傷付けるだけだ。勝って良かったんだよ。」


「そうだよぉ!だからこそお義兄さんも穏便に、この玉を手に入れられるんじゃないの!」


 それでいいのかとクワンは頭を抱えた。この国の歴史を学び、そして察した。


 水晶球の中には、聖女が入っている。初代王妃チェレステの姉が。


 結論として、エリザベッタは魔力中毒ならぬ聖力中毒だろうとなった。チェレステの治療はただエリザベッタを死に近づけるだけだった。お姉様、顔面蒼白である。


「だったらどうすりゃいいんだ!どうすりゃエリザベッタは治る!?」


「より多い魔力で押し流すか、聖力を抜き取るかだけど、聖力に指向性があってちょっと私でも手に負えないな。」


「魔力!魔力で押し流すのは!?」


「これだけしつこい聖力だと……体内に留まることを目的とした聖力を魔力で押し流すには……子を孕むのが一番だと思います」


「魔族の子どもをね!」


 言い淀んだクワンとは対照的にアッズーラは明るく言うが、冗談じゃない。あともう少しでエリザベッタは自分の妻になるはずだったのに、治療のために魔族の子を胎に宿さねばならないなど、認められるわけがない。


「それが一番手っ取り早いけど、今の状態で妊娠できるかなぁ?私もなかなか子どもできなかったしなー。その前にこの子の身体が耐えきれずに死んじゃうかも。いや、うーん、でも、なんか今、この子の中で色々起きてるっぽいからなぁ。ノータッチの方がいいのかな。ダーリン、どう思う?」


「この聖力の指向性は粘着質なアニキの魔力に影響されてんだろ。生命維持だけはして、ノータッチが基本だな。オヤジに診てもらうのもアリだと思うぞ。経験者だしな。」


「やっぱり?だよねー?」


「あ、あ、あの!アッズーラ様、エリザベッタは、エリザベッタは今、どうなっているのですか!?助かるのですか!?」


 大公の父が経験者とはどういう意味なのか。その前に魔族と違い弱い人間の身体が耐えられる保証もないのに。


「落ち着いてって、チェレステちゃん!お義父さんが来てくれたら大丈夫だから!」


「お嬢ちゃんの身体は今、体内の拮抗する力に適応しようと進化を始めてる。神ならざる者が神に近い力を得て、肉体がそれに合わせて変化してるんだ。」


 理解が及ばない。そんな話、〝テンツキ〟にもなかった。〝テンツキ〟からあまりにもルートが外れ過ぎていて、チェレステの頭にはもう解決策は浮かばない。


「俺たちにとってはめでたいことだ。なんせ、女の魔族が生まれようとしてるんだからな。いやあ、さすがクワンの嫁の妹だ!生に執着する人間の本能ってのはたくましいな!」


 ヒロインは、魔族になるらしい。

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