眼帯姫は意識不明
結婚式があと数日後に迫っているというのに、今日、離宮でエリザベッタが倒れてしまった。意識が戻らない。原因はチェレステにも分からなかった。聖力が効かない病などあるはずがないのに。毒にだって、チェレステの治癒術の効果は抜群だ。
なのに、チェレステの治療の甲斐なく、それどころか悪化しているようにしか見えない。
「エリザベッタ!エリザベッタ!なんで、なんで!」
何も出来ないランベルトはもうすぐ妻になるはずだった少女の手を握って青褪めていて、眦には涙が浮かんでいる。それはお姉様も同じことで。
「ファウストは廃嫡が決まったわ。お母様は毒杯。側近たちも全て処刑することになった。」
ヴィオランテが側近を締め上げる前に絞め殺すことが決まってしまった。
「なんであのガキ殺さねえ。」
「子どもよ。お母様に唆されただけの。」
「ババァに言われなくったっていずれは同じことやったよ!あのガキならな!」
んなこたないわ!と言い返せないのは、ファウストの性根がどうしようもなく歪んでいるのをチェレステも知っているからだ。とりあえず気が済むまで鉄拳制裁してきたものの、弟として認識は出来ないがやはり子どもを処刑するというのは葛藤がある。
エリザベッタが倒れて、捜査は速やかに行われた。
ファウストの突然の来訪とエリザベッタが倒れたことの因果関係は誰が考えても明白。よくもまあ白昼堂々現れたものだ。
それにあのタイプの小僧はちょいとひね上げればすぐに自白する。ああいうのは復讐劇のダークヒーローぶった小物というのは相場が決まっている。責任能力のない子ども故に極刑を免れたが、廃嫡断種放逐平民落ちのフルコンボだドン!が決定したばかりだ。
追放王子は辺境でスローライフを監視付きで送ることになる。未来の王の種馬すらなれなかったのは既定路線だったのかもしれない。
「お待たせしました!お連れしました!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!真打とおじょー!」
「ワシもいるよ!」
クワンが連れて来たのは聖女アッズーラ。と、夫の大公だ。聖女としての資質はチェレステの方が高いが、魔界にて永く過ごすうちに魔力も聖力も常人ならざる状態になった、とは、本人もこちらに戻って来てから気付いたこと。ちなみに気配を感知されないよう力を抑えることも出来る。それなんて地球産のサル人間。
ほとんどの聖女妻は夫から注がれる魔力に抵抗して心を壊して来たが、アッズーラは常にウェルカムカモ〜ン♡だったので、不老長寿な肉体改造の他に体内で一方的に増え続ける魔力に対抗して聖力まで増えてしまった。
いずれはチェレステも辿る道である。クワンはたくさん魔力を注ぐ予定しかないので。ヴィンテージDTは張り切っている。
「あっちゃ〜!やっぱ聖力に侵されてるね。」
「えっ!?」
「やっぱり……そんな気はしたんですよ……」
どういうことかと問いただすと、クワンはアッズーラを連れて来たというのに青い顔のままチェレステとランベルトの追及に答えた。
今のエリザベッタの状態は、前魔王の妻が壊れていくときと様子が酷似しているという。聖力で魔力に対抗して体の中で二つの相反する力が戦っている最中なのだ。今はファウストが持ってきた箱の中身と、ダメ押しでチェレステの治癒術のせいで、魔力に馴染み過ぎるくらい馴染んでいた体が聖力を排除しようとしているのだ。白血球なのか?アレルギーなのか?
元のバランスが崩れているだけなので、それを戻せば元に戻るかと言ったらそう簡単な話でもなかった。
どちらの力もその指向性を決めるのは思考。思考は脳の役割。だからまず脳をイカれさせて、取り込まれた体と共存出来るようにするのだ。それどんな寄生虫。
そして、人間と魔族の身体そのものの耐久性の違いがある。魔族の体は元神連中は特にそうだが、とにかく頑丈だ。自己修復能力も高く、細胞の劣化がほぼない故に不老長寿なのだ。
嫁取り侵攻で聖力を浴びたとしても、人間なら大火傷を負うところを、魔力が膨大すぎてちょっと今の熱かったなくらいにしかならないし、聖力を上回る魔力でちょっとした火傷状態の部分を修復してしまう。
死ななきゃ死なないとは大公の大雑把な言であるが、消さなきゃ死なないが正しい。頭が潰れても小さな細胞があれば再生するので、消し炭すら残らないような状態にするしかないのだ。そんなこと出来る相手は魔族同士にしかいないのだが。
あと元神連中は今の身体がなくなっても霊的存在に戻るだけで、最悪精神体のまま存在し続ける。が、精神体だと嫁とイチャラブ出来なくなるので、魔族にとっても肉体は大事なものなのだ。
人間はどうなるんだって?狂って死ぬのが早いか、細胞が自壊し始めるのが早いか、どっちかな〜?
肉体改造されて死ねない身体になった魔王の妻たちは、過ぎる魔力で壊れてしまった。現在、こちらで魔力抜きを行っている大公たちは数多い。ただ、エリザベッタの体は人間だ。あの箱と、トドメのチェレステで、エリザベッタは瀕死の状態。
そもそもファウストが持ってきた箱はなんだったのか。
実は、それには王家の深い闇が隠されていた。




