眼帯姫は結婚したい
チェレステたちのティーンズラブ的展開にエリザベッタは興味がない。身内のそういう話は本来なら気恥ずかしいが、チェレステに関しては友人という側面もあるので、そのうち本人から話があるだろうと思っていた。
女同士なんてたいていの場合、恋人や伴侶との話は筒抜けで、知らぬは男ばかりなり。特に、エリザベッタにはなんでも話しちゃう系陛下のチェレステだ。クワンの恥ずかしい話はすぐにエリザベッタの知るところとなるのは想定内。
しかし、エリザベッタは多少なりとも慎みを持っているので、その件に関して誰かに口外しない。
「かっかっかっかっこよくて!」
「うんうん。」
「色気がすんごくて!」
「うんうん。」
「直に触られて、ひえ〜ってなったんだけど!」
「うんうん。」
「だけどその指がすっごく震えてて!」
「うんうん。」
まさか翌日に呼び出されて話を聞かされるとは思わなかったエリザベッタ。チェレステは聞いて欲しいだけなので、適当に相槌を打っていた。
とはいえ、このままだと初めから終わりまで全て説明してしまいそうな勢いのチェレステだ。エリザベッタは心の片隅でひっそりとクワンに同情し、謝罪した。正直、知り合いの詳細な夜事情など知りたくはない。
前世では、それなりにあけすけな話をしたこともあるけれど。
「そっ、そういえば、エリザベッタの方はどうなの!?」
あらかた話し終わって気が済んだのか、こちらに話題を振られてしまった。
「……いつも通りよ。」
「その間、なんかあったわね!?」
チェレステにしては鋭い。
と言っても、いつも通りなのだ。本当に。
クリザンテーモ公爵となり、大領地の領主となったランベルト。伯爵位を賜ったときに改装した屋敷も無意味になり、婚姻後の生活場所についてもまた一から考え直さなければならなくなった。
仕事と割り切って、まだ婚約者でしかないエリザベッタも女主人としての采配を振るっているのだが、どんどんと自分の希望から離れていく未来に不満もあった。
チェレステはエリザベッタの物語の原作を知っていたし、結末を覆すために努力を続けてきた。
結果として、中身は違えど推しであったクワンを夫として、形ばかりではあるが女王としてこの国に君臨することになった。悪役王女としてバッドエンドを迎えるどころか、正ヒロインの座を奪い取り、下剋上を果たしたと言える。
エリザベッタは本来のヒロインではあるが、自分はヒロインの器ではないと思っている。チェレステとクワンのように、自らの人生を美しい物語に昇華できない。
幼い頃から一人で過ごしてきた離宮を離れがたいのは、世捨て人のままでいた方が傷付かなくて済むからだ。
「ねえねえ、何があったの!?」
「ホント、何もないのよ。ただ、お姉様がうらやましいなってだけ。」
本当はあった。なのに、中身は成人女性のエリザベッタ。そしらぬ顔をして、互いにいつも通りを装うことなど、赤子の手をひねるよりも簡単だ。
昨晩。チェレステを寝室へと送ったあと。真っ直ぐな紫眼に見つめられて、思わず自らランベルトに口付けた。
ランベルトは驚きはしたが、すぐにエリザベッタを抱きしめて、そのつながりを深くした。
手慣れてると思う。彼の辿ってきた人生という道に転がる女たちに嫉妬するし、彼自身にも腹が立つ。
腹が立つ程度には、彼を己の伴侶として受け入れている自分がいる。
口付けを思い出すと、少しだけ胸が高鳴る。少ししか高鳴らないのは、エリザベッタが前世でそれなりの場数を踏んできたからであろう。少女マンガのヒロインらしからぬ擦り切れ具合だ。
けれども、だからこそ知っている。ときめきはいつしか思い出になり、愛の言葉は言い訳になることを。
「あのバカに何かされたの!?それともとうとう愛想が尽きた!?だったら今すぐ婚約解消、いえ、婚約破棄を」
「違うの。大丈夫よ、お姉様。わたくし、ランベルトと結婚するわ。」
「でもぉ!」
「ううん。結婚したいの。ランベルトと。」
仮初の英雄だったランベルトは和平の立役者として公爵位を賜った。政治的なあれやこれやが影響して、王家に連なる公爵位となったのだ。王女の降嫁がなければ意味がない。
最初から、政略結婚として割り切ってしまった方がよかったのかもしれない。
だけど、ランベルトはもう、エリザベッタの心の中に住んでいる。いや、無理矢理居座って、自ら居場所を作ってしまった。
どうやら二人の恋の戦いは、ランベルトの粘り勝ちのようだ。
「そう……?あの男の何がいいのかわたくしには分からないけれど、エリザベッタがそう言うならいいわ。離婚したくなったら、すぐに言うのよ?」
「ええ、お姉様。」
頼もしい女王陛下のお言葉である。
第五王女エリザベッタと新公爵ランベルト・クリザンテーモの婚姻は、翌春に予定している。




