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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫とお姉様の初夜

 全ての式典を終えて我に返ったらしいチェレステが初夜にワーキャー騒いでエリザベッタを呼んでいると言われて祝賀の夜会を抜け出した。


 一応、聖女で王女なチェレステの戴冠式と結婚式なので、コンスタンツォ始めとする幽閉組も参加したが、魔王によって決められたことしか話せない、表情すらもコントロールする洗脳のような術をかけられたため問題は発生しなかった。

 問題があるとすれば、前日に術をかけに幽閉先の離宮へ赴いた際、第四王女がクワンに一目惚れして大騒ぎしたことくらいだ。近いうちに(都合の)良い相手を見繕って結婚させるつもりではいるが、色々と裏を知ってしまった以上、国外に出すわけにはいかないので、国内で相手を探すつもりだ。ピエトロかウンベルトのどちらかになる可能性が高いのだが。


 ちなみにファウストは今でも次代の王としての教育を受けている。だから、彼はずっと王位継承権第一位だ。慣例からすると第一位だった彼をブチ抜いてチェレステが即位したわけだが、ファウストは未成年なのだから仕方ない。

 クワンと交わればチェレステは魔族と同様の寿命になってしまう。だが、彼らが永遠にこの国に君臨し続けることをクワンがよしとしなかった。真実を知った宰相も同様だ。それに、二人の子どもだって人間とは言えない。人間の国は人間が治めるべき。そう自ら意見し、ファウストないしはファウストの子孫に引き継がせると言った魔王を宰相は改めて高く評価した。

 ファウストに見込みがなければファウストの子を養子にしてもいい。ぶっちゃけ、その方が良さそうだと宰相は思っている。残念なことに、次世代の教育の成果を自分で見届けることは叶わないだろうけれど。

 クワンとチェレステは頃合いになったら退位して、魔界で生活してみるのもいいし、連合国の一部となった魔王城の辺りに屋敷を建てて住むのもいい。


 永遠の命を生きる。チェレステはそのことに不安がなかったわけではない。自分が魔族と同じになってしまえば、エリザベッタとも永遠の別離が訪れる。彼女はいずれ転生するだろうが、次の生ではチェレステのことを忘れてしまうだろう。それはとても恐ろしいことに思えた。ならば、自分も人として終わった方が。そう考えると、今度はクワンがまた孤独になってしまう。

 ただでさえ同族の中で浮いていたクワンだ。前世の記憶なんてものを持っているが故に感じる孤独。また彼をその孤独の中に突き落とすのか。ツンデレだけど根は優しくてチョロいチェレステ。それはさすがに出来そうになかった。


 そんな思いを持てるようになったのも最近の話だ。決断は勢いに押し流された感があったが、覚悟を決めたのにはこの半年の間、クワンがとても誠実に、けれども熱烈に、彼女を求めたからだ。未だ里帰り中のアッズーラとその夫の後押しも多分にあった。


「クワンさんは、永遠に私を愛せるって本当に言い切れるの?」 


 激務の合間、お茶の時間。ずっと心に引っかかっていたこと。意を決して告げた不安を、デバガメしていたアッズーラとその夫がぶった斬った。


「絶対に保証する!だって、それがこの人たちの本能であり生態だもの!」

「そうだ!アッズーラの言う通り!魔族はコレ!と女を見初め、ヨメにすると決めたら絶対にブレない曲げない揺るがない!いくら変わり者のチュンイェンといえど、魔族の本能には逆らえるはずもなかろうて!」

「ちょっとダーリン!奥さんのことをコレとか言うの、ひどくなーい?私、モノじゃないんですけどー?」

「ごめんよ、ハニー!だけど、俺は君のモノだぜ?」

「やーん!知ってるゥ!」


 元神と聞いたアッズーラの夫だが、神の威厳なんてどこにもない。魔族のほとんどは、力を持ちすぎてワンマンになりそうな、もしくはなっている神を他の神々に力技で排除されただけ。ついでに色々と取り上げられたせいで、人間に近い欲深さも備えている。

 一部では自分たちをやり込めた神に復讐したいと願っている者もいるようだ。神とはなんと人らしい、と思うかもしれないが、人は神が最も自分に似せて進化を促した存在だ。人が神の悪いところに似ているだけなのだろう。


「お二人とも、なんでここにいるんですか!どっから出てきたんですか!」


「え〜?だって気になるじゃなーい!」


「もうチューはしたのか?子作りはいつから始めるんだ?お前んとこの女たちはみんな壊れてしもうたからなぁ。せっかくいいヨメをもらったんだから、子どもを増やしてもらわんと!お前の親父も新しい番いを選んだんだ!親父に負けてられんだろう?」


 一人を永久に愛するけれど、その相手が失われた場合に限り、次の永遠の愛を捧げる相手を作れるのが魔族。謎の縛りもまた、次元の墓場に放り込まれた影響らしい。

 特にクワンの一族の長は、元の世界にいたときは一夫多妻で、正妻である女神が浮気にブチ切れた末に追放されたのだ。その際につけられた制約が次元の墓場全体に及び、一人の女性に縛られるようになった。魔族に男しか産まれないのも同じ理由だ。異常なほど嫁取りにこだわるのも同様。

 次元のひびは想定外の事態で、番いを求めて閉ざされた空間で苦しむがいいという当初の目的は果たされなくなった。

 神の考えることは理解し難いが、とばっちりとも言える制約という名の呪いでも、本人たちは別に気にしていないので、神の順応性は高いと言える。


 人払いをしたはずの庭に突然現れた二人だったが、来たときと同様、突然消えてしまった。もしかしたら、姿を隠してまだ近くでデバガメしているかもしれない。


「すみません、チェレステ陛下。」


「陛下はやめて。チェレステって呼んで。」


(魔族の本能……一人の人をずっと愛することが本能……あるあるよね!)


 チェレステはなんだか納得した。本能ならば仕方ない。本能ならばそうそう逆らうこともないだろう。だって、そんな話を前世でもたくさん読んだ。憧れもした。感情などの水のように形なく、時に姿を変えるものよりはよほど確証が持てる。


 そうしてチェレステは、本当の意味でクワンの妻になることを決めた。決め手は意外なところで見つかったりするものである。単にチェレステが少女マンガ脳であるとも言えた。


 ならば、婚姻の夜。どうしてエリザベッタを呼び出すほど混乱しているのかと言うと。


「はっはっはっ、初めてなのよォ!」


「うん、分かってる。お姉様、落ち着いて。大丈夫、みんな通る道よ。」


「でもでもでもぉ!」


「クワンも前世から通して経験ないっつってたし、お前だけじゃねーぞ?」


「そういう問題じゃないでしょ。」


 外で控えていた女官からタイミングよく、王配殿下のお支度がお済みです、と告げられるとますます大暴れ。


 なんとかなだめすかして寝室に放り込んだ際、中で控えていたクワンと目が合って苦笑された。事に及ぼうという彼らの片割れの背中を押すなど、なんとも気まずいエリザベッタであった。


 姉を見送り、扉を閉めると、ふう、と思わずため息が出てしまう。なんとも手のかかる姉だが、そこが可愛らしくもある。彼女は血縁上、姉ではあるが、妹のような存在で。

 彼女が前世で出来なかったはずの大人の階段をひとつずつ上がっていくチェレステを眩しく思う。自分はそんなに純粋じゃない。


 漏らしたため息は、決してチェレステに対するものではなかった。


「めんどくせー女だな、ホント。」


「そこがお姉様の可愛いところなのよ。クワンさんだってそう思ってるわ。」


「……エリザベッタも、初夜は恥ずかしいと思う?」


「それは、まあ。」


 扉に手をついたまま、物思いに耽っていたのに、後ろから片腕を回されて抱きすくめられた。ランベルトの声が耳元で低く響く。


「娼館は行ってない。他に女もいない。今は俺だって、エリザベッタだけだ。」


「なに?突然。」


 奥手な二人のこと、すぐにおっぱじまるとも思ってないが、いつまでも国王夫妻の寝室の前にいるのもいかがなものか。自分をここに縫い止める腕を外そうと手をかけたら、更に力が込められた。


「魔族じゃなくても。俺には、永遠に、エリザベッタだけだからな。」


 ああ。やっぱりチェレステは純粋で眩しい。


 婚約者にそんな言葉を送られて、ドロリと湧き上がる微かな欲に、己の不純さを思い知るエリザベッタだった。

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