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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫の父王様、下剋上される

 Q.父王様ってどんな人?


 A.出生を知る前のファウストとそっくり


 とはいえ、ファウストはエリザベッタともチェレステとも関わりが少ない。ヴィオランテですら報告書以上のことは、しょーもない噂と密告でしか知り得ないような子どもだ。

 ファウストがあんな感じになってしまったのは王妃と王妃の実家のせいであり、王妃の実家は跡形もなく粛清されてしまったけれど、それまでは宰相とヴィオランテですら手を焼いていた。


 人というのは、こぼれ落ちた砂糖に群がる蟻と同じ。


 甘い話には、いともカンタンに乗ってしまう。


 問題なのは、過剰摂取で腹をくだしそうな麦芽糖の甘さに、王族までも食いついてしまったこと。


 そういうところもまた父王とファウストはよく似ている。


 ならば、改めて。


 Q.稀代の聖女の父であり、伝統と格式のチェレステ王国国王コンスタンツォ二世がどうしてこんな仕上がりに?


 A.どう教育してもどうしようもなかったので、本人の生まれ持った気質のせいとしか言いようがない


 厳密に言うと、環境要因ももちろんある。コンスタンツォはCで始まる名前であるので、彼には二人の姉がいるということである。彼女たちは二人とも他国の王妃をやっているが、学習面においてコンスタンツォより優秀だった。いっそ姉のどちらかが婿を取ってしまった方が良いのではないかという話も出たくらいだ。

 しかし、やっと産まれた末っ子長男を甘やかしていたコンスタンツォの母、つまり当時の王妃がそれを拒否した。そんな製造責任者はすでにこの世から退職済み。なかなか男児に恵まれない中でも夫に公妾を持たせることを頑なに拒んだ人なので、自分が死んだあとにまさか息子が公妾を置き、その女に入れ上げるなんてことは思ってもみなかったであろう。

 彼女のような立場の女性にとって公妾を置くか否かは、夫への愛情の問題ではなく、プライドの問題なのである。また、コンスタンツォの母は他国から嫁入りしているがために、時代の王を産むのは必須事項だったのだ。チェレステ王国の王座に、確実に自分の家の血をまぜられなければ、それは政略結婚の失敗を意味することになる。


 コンスタンツォの仕上がりに関しては、実際に早々に王位を継いだことも一因だろう。姉たちが継がなかったのは政治的なあれやこれやの結果としてそうなったのだが、彼は努力嫌いが災いして、とにかく自分に甘いせいで、王として必要なことを学ばず、姉たちより劣るとはいえ能力的にもやれるはずのことすら出来ないままに王になった。


 というわけで。


「ご理解いただけないようですね。」


「今まで全部自分のワガママが通ってきたから、仕方ないのよ。」


「では、宰相殿の計画通りに。」


 クワンが右手をあげてパチン!と指を鳴らすと、閉じていたはずの応接間の扉が勝手に開いた。どうやっているのかは分からないが、属性も関係ない、この世界に来て初めて本当の魔法を見たようにチェレステは喜んだ。


(か、かっこいい!)


 チェレステはおそらくクワンが何をしても「かっこいい!」としか感じないだろうが、立ち姿と眼差しがラスボスっぽさを演出していて、この瞬間はクワンが本物のクワンに見えた。


 クワンの部屋に手紙片手に突撃した夜。


 〝女王になる気はありますか?〟


 クワンの真剣さに、思わず頷いてしまった。それは、父王を引きずり下ろし、チェレステが王となるということ。

 宰相と合流してからも、話し合いの末、その方向で行くことが決定している。


「コンスタンツォ陛下はご乱心である!精神に病を得て、もはや廃人同然!今後の国の運営に支障をきたす!療養が必要なので速やかに離宮へとお移ししろ!」


 そう叫んだのは宰相だった。ついでに、実の息子のフェルルッチョの捕縛を命じた。精神に異常をきたした国王を言いくるめて、国政を己がものにしようとした罪で投獄する。そう宣言した。


「なっ!きっ、貴様ァッ!」


「父上!なぜここに!?」


 二人は抵抗するも、今の今まで自分たちの護衛をしていた近衛騎士にあっという間に羽交締めにされた。なんならフェルルッチョは更に暴れたので床に押し付けられる羽目になった。


 宰相の行いは完全に内乱罪であるが、愚王を廃すことに誰が異議を唱えるというのだろうか。


 二人の味方はもういない。エリザベッタの件で王妃の実家を処分出来たことは幸運だった。真に国を思う宰相にとって、障害はなくなった。


 あとはこの二人を処分するだけだ。


「お前の奸計など全てお見通しだ。人を使うという意味を履き違えた者に従いたい人間などおらん。そもそもお前の味方など、この王宮にはおらんのだよ。」


 息子にそう言い捨てると、喚く二人を意にも介さず、ただ、


「今までご苦労様でございました。どうぞ、余生は静かなところでゆっくりとお過ごしください。あとは私どもにおまかせを。」


 そう国王だった男に頭を下げて見送った。


 息子へは、ひとつの言葉もかけなかった。



 ***



 アホな国王とアホな宰相の息子が連れて行かれてから、政権奪取チームの面々は国王の執務室に向かった。国王の補佐官たちも当然、宰相の息のかかった者たちである。


 チェレステに対して恭しく頭を下げたので、これまでの労を(ねぎら)った。主にアホ王のお守りをしてきたことに対してだが。


 主人を失った椅子は物悲しくそこに置かれて……はいなかった。調子に乗った三バカトリオが代わる代わる椅子に座り出したからだ。けれども、誰もそれを咎めようとはしない。椅子など所詮は無機物なので、それそのものに何の意味もないのだ。


「呆気ないものね。」


「専制君主制ですからね。頭のすげ替えなんてカンタンなものですよ。」


 三バカのバカを眺めながらハハハと笑うのはクワンだ。この青年も案外過激なことを言うんだなと魔王に対しての感想としては間違っていることを考える宰相であった。


「これから国内外に触れを出し、陛下は病を理由に退位、チェレステ殿下が即位される旨を報せます。」


「え?わたくし?ファウストじゃなくて?」


 全員の視線がチェレステに集中した。国王の補佐官すら目を丸くしている。宰相による情報の共有は速やかになされているのだ。


「まさか……今朝の話、聞いてらっしゃらなかったのですか?」


「昨夜も意思確認して、頷いてくださいましたけど……え?」


「あー、昨日の夜、クワンの部屋から帰ってきてから心ここに在らずだったよな、殿下。」


「そうだな。クワンの部屋まで追いかけて行った俺としては、クワンに抱かれた後から殿下の様子はおかしかった。」


「え?クワン、ヤッたの?」


「ちょっ!違いますランベルトさん!そりゃちょっとワンチャンあるかなって思ったけどそもそも扉も開いてたし!」


「ワンチャン?」


 血を這うようなチェレステの低い声が響いた。見れば瞳からハイライトが消えている。


「あっ、いやっ、そうじゃなくて!あーっ!もう人聞きの悪いこと言わないですくださいよウンベルトさん!おっ、俺はただちょっとだけ奥さんを抱きしめただけなんですから!」


「惚気よる。クワンのくせに。うらやま死刑。」


「さすがにひどくないですか!?ピエトロさん!?」


「チクショー!俺だってエリザベッタを抱きしめてぇよ!クワンのくせにずりぃぞ!」


「いや、俺は奥さんのことしか抱きしめてませんからね!?チェレステ殿下!俺は殿下一筋ですからね!?」


「あーあー、あんなに奥手だったクワンがなぁ〜!」


「自分の女になった途端に上から目線か。」


「お前、俺のお膳立てにちったぁ感謝しろよ!?」


「なんでそうなるんです!?いや感謝はしてますけど!!」


 若者が騒々しいのは女に限ったことではない。男だって、三人集まりゃかしましい。四人もいれば下世話なネタで騒々しいこともあろう。


 宰相はちらりとチェレステを見た。顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。


「殿下。ご気分は悪いでしょうが、ああいうのは飽きるまで放っておくに限ります。隣で私と今後についてお話を致しましょう。」


「ええ、宰相。っぶわぁーか!三バカトリオのばかっ!クワンさんのばかっ!ばかばかばぁーか!ふんっ!」


 チェレステは、ドスドスと王女としても聖女としても女王としても相応しくない足取りで執務室をあとにした。


 これもまた青春か。宰相は若者たちに呆れながら、新たな王の背を追いかけた。


 クワンはウン百年も生きていることを知っているはずだが、若者にカウントしてしまった間違いには気付かずに。

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