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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫のお姉様は父王様似

 チェレステ王国からの早馬が来たのは、使節団がチェレステ王国を発った一か月後だった。


「クワンさん!」


「うわぁぁぁあ!」


 風呂上がりに半裸で果実水を飲みながらくつろいでいたクワンはネグリジェ姿のチェレステの侵入に慌てふためいた。


「お願い!今すぐわたくしを国に連れてって!」


「ななななな、なんでですか!?何かありましたか!?っていうか、ちょっと離れて!」


 半裸の自分とネグリジェのチェレステ。こんなの、青少年の妄想を掻き立てるには充分な条件だ。


 だがしかし、チェレステの表情は切迫していた。緊急事態であることはすぐに察せられた。


「これ読んで!ヴィオランテがもうすぐ処刑されるって!」


 チェレステ王国の代表は国王の命令で宰相が自ら赴いている。まだ旅路の途中だろう。相変わらずまとまらない会議ではあるが、和平条約を結び国交を結ぶことだけは早々に決定したので、二週間後には調印式となる。一週間前には到着し、レセプションなどの催しと各国がそれぞれ魔界の者と話を詰めて、いざ調印!という手筈なのだが。


 国王は、いや、フェルルッチョは、父の不在の間に母親を亡き者にしようと考えた。お互いに仕事人間ではあるが、宰相は愛妻家である。国に戻った後、そのまま王の決定に意を唱えれば、父もまた母と同じ断頭台の露にすればいいだけだ。なかなか猟奇的である。


「エリザベッタ殿下は!?」


「ランベルトとの婚約を解消されたそうよ。あの子も魔界に嫁がせるつもりみたい。」


「そんな……ランベルトさんにはこのことは?」


「伝えたわよ!怒り狂って出陣の準備を整えてるわ!」


「まさか、王様を殺すつもりで!?」


「あのままだとやりかねない!だから一緒に行ってランベルトのバカを止めて欲しいの!それにエリザベッタも、ヴィオランテのことも放っておけないわ!」


 裏を言えば、宰相は既に国元へと馬の鼻を向き直している。手紙を送ったのは宰相の別の補佐官だ。転移した森で宰相と落ち合うように書いてあった。


 調印式の代表は、義理の息子に任せた。この大仕事をつつがなく終わらせれば、彼の功績になる。布石は打った。王は乳母を処刑しようとしている。ご乱心だ。愛妾を亡くし、王妃まで蟄居となって孤独に耐え切れず狂ってしまった。

 そんな筋書きで、最後は王妃と共にエリザベッタが住んでいたところとは違う離宮に押し込めるつもりだ。面倒なものはひとまとめにして蓋をするに限る。さすがに処刑までは望めないだろう。血が流れる王位簒奪も、国際社会でチェレステ王国の立場を下げることになる。それだけは宰相として回避せねばならぬ。


「騎士団はもう、用意あるそうよ。」


「みたいですね。うわぁ、コレ大丈夫かなぁ?」


「なにが?」


「後釜、どうするんです?弟さん、まだ小さいでしょう?」


「さあ。公爵やってる叔父様あたりが王になるんじゃないかしら。」


「いや、コレは多分……まあ、それもアリかな?」


「なあに?」


 チェレステが大きな目をぱちくりとさせた。俺の奥さんは可愛いなぁ、なんて明後日なことを思うクワンだった。


 チェレステは、合コンに参加しているが仲介役のやりてババアポジションだ。魔族からチェレステに声をかけられることはない。

 何故なら、魔族たちはチェレステが今代の魔王の妻だと思っているからだ。調印式が終われば結婚式じゃあ!と、浮かれポンチになったおじじが言いふらしている。というのに、当のチェレステは一か月経ってもうじうじもだもだとしている。今のように彼女の方から距離を詰めてきたのは、本当に久しぶりだった。


 手紙によると、待ち合わせの時間は明日の早朝。文官は仕事があり、騎士もまるっと引き連れては戻れないので、三バカトリオのみを連れて行く予定だ。


「分かりました。調印式までの俺の仕事はおじじとチェンに一任しておきます。」


「ごめんなさい。魔王であるクワンさんには関係のないことなのに、巻き込んでしまって。」


 だが、国からの手紙はクワンの転移が前提となった計画だ。彼の協力がなければどうにもならないのは確かだった。


「いや、大丈夫ですよ。気にしないでください。」


「物語の強制力、働いてないわよね?」


 手紙には、父王がエリザベッタとクワンの婚姻を推し進めるつもりだと書いてあった。チェレステの心配事は……口にするのも野暮だろう。


「働いてませんよ。安心してください。俺が好きなのは貴女で、俺の妻になるのも貴女だけだ。」


「ぴゃっ!」


 〝安心してください。俺が好きなのは貴女で、俺の妻になるのも貴女だけだ。〟


 この台詞、実は作中のランベルトの台詞だったりするのだが。


 すっかりと悪役令嬢からサブヒロインに、いや、堂々たるメインヒロインにジョブチェンジしたチェレステは、混乱したまま「はい……」と答えてしまった。


 クワンが考えた予想は二通り。建国神話以上の伝説を作るか、建国神話をなぞるか。


 王という御輿をすげかえるならば、前者の方が派手派手しくていいだろう。


(覚悟はしといた方がいいな……)


 クワンはチェレステのアッズーラに対する挨拶を勘違いしていなかった。


 けれども、言質は取った。あとは、宰相の考え次第だ。


 風林火山。彼が前世で好んだ武将の使っていた「孫子四如の旗」とも言われる軍旗に書かれていた言葉。またかの武将の代名詞でもある。


 相手は噂に聞く愚王だ。孫子の兵法など出番もない。原作でも裏ではぐちゃどろの舞台裏があったのだろう。だって、最終的にランベルトが王に立つのだから。


 強制力なんて今更だ。それ以上の最高のハッピーエンドを愛する人に捧げよう。


 素肌に彼の可愛い人を抱きしめた。チェレステは再び「ぴゃっ!」と跳ねた。こんなとこだけ彼女が今世の父親似であることをクワンはまだ知らない。


「チェレステ殿下。」


「はひっ!」


「女王になる気はありますか?」


「はえっ!?」


 魔王クワンの決意は、愛に燃えていた。うっとうしいほど熱く燃え盛っていた。


 丁度時刻は夜の祈りの時間。神官たちは神に平和なんぞ祈っていないで、魔王の情熱がどこぞに延焼しないことを祈るべきだ。


 でなければ、この世界が征服されてしまうのだから。

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