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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫は演技派

 舞台はチェレステ王国の王宮に戻る。


 王にとって、ヴィオランテと宰相はずっと目の上のたんこぶだった。いつかは排除したい。そう思っていた。その息子は志を同じくする幼馴染兼親友。二人とも老齢だし、そろそろ世代交代も噂されてるし、そうなったら俺たちの天下だなとよく酒を酌み交わしていた。だが、そこに魔王潜入と和平交渉の報せが入る。

 しかも魔王はチェレステとの婚姻を望んでいる?チェレステはまた使い道のある娘だ。勝手にそんなことを決めたのも腹が立つが、何より自身らが蚊帳の外にされたことに腹を立て、二人は今回の計画を立てた。王宮内の新陳代謝を促してやるのだ!と、そう意気込んでいた。


 けれど悲しいかな、彼らの味方はお互い以外に存在しない。


 ところで、宰相の補佐官には息子のフェルルッチョの他に宰相の義理の息子がいる。フェルルッチョの姉の夫だ。これがまた優秀で人当たりもよく評判が良い。


 そう。噂の実態は、息子ではなく義理の息子(娘婿)に代替わりする、という話だった。それが人を介す間に実の息子に代替わりするとすり替わっていて、その話が本人にまで届いたのだ。彼はその噂を父親に確認することもなく調子に乗った。

 所詮伯爵家の出でしかない義兄はいつも自分をバカにした顔をするが、結局父が選んだのは血のつながった息子の自分だ。自分が宰相になった暁にはヤツを罷免してやる。いや、能力は確かに高い。それは認めるところ。仕方ない。仕事を押し付け……ではなく、活躍の場を与えてやろうではないか。対立する相手であっても人材を上手く扱えることは宰相に必須の能力なのだから。


 そんなわけで、拗らせアラフォーの拗らせっぷりは王の比ではない。今回の件の黒幕(フィクサー)とも言えるフェルルッチョだが、近衛は致し方なく命令に従っただけで、決して彼らの味方ではない。彼の計画は事前に宰相へと知らされていた。


 要はとんだ茶番劇だったのだ。さすがに息子によって牢屋に入れられるのは予想外だった。せいぜい自宅で蟄居と考えていたからだ。離宮にやって来た息子のあのドヤ顔で、一抹の不安が過ぎったのは間違いではなかった。一応、ヴィオランテは普通の牢屋に入れられているが、騎士団側の配慮で中は貴賓牢とまでいかなくとも適度に整えられており、底冷えする石造りの地下牢でも寒くないようにウールのひざ掛けまで差し入れられて呑気に茶を啜っている。

 エリザベッタに付く教育係もまた、宰相の息のかかった者だ。しばらくの間、正しくエリザベッタを導くであろう。心配はない。もちろん、エリザベッタ自身も教えられていたので迫真の演技が出来た!でも、左目まで金の瞳になるくらい魔力を高めたのはやりすぎだったな、と少しだけ反省している。知っているはずの騎士ですらあのビビりよう。エリザベッタとて、歩く人外魔境になるつもりはないのだ。


 宰相始めとする文官たちと騎士団は、王の廃位へと動いている。次代はファウストを傀儡にしても良いが、成長した暁には父王と似た愚物になりかねない。己の出自を知り、未だに引きこもって空気になっている王子など王と仰ぐに足らぬ。現在は王弟である公爵に打診しているが、まだ説得の途中だ。

 宰相には二つほど服案があるようだが、夫はついぞそれをヴィオランテに打ち明けてはくれなかった。


「どちらを取っても、自分ですら荒唐無稽と思うのだがね。だが、私の中ではしっくり来るんだ。」


 そう笑いながら語った夫の目尻には随分と皺が増えた。己も積み重なる年月には逆らえない。いつまでも今のようにエリザベッタを支えていけるわけではない。


 次世代の教育は、自分たちの仕事だ。矜持もある。だからこそ、後じまいはきちんと自らの手で。


 空になったカップを置き、立ち上がった。手の届かない小窓から見える空は、チェレステ王国の名に相応しい青空が、相も変わらず広がっていた。


 ヴィオランテ拘束から一か月。離宮に戻ることは許されなかったので、本宮の一室でカンヅメしているエリザベッタ。彼女は今、自分の努力不足を痛感していた。


 ヴィオランテの察する能力と、チェレステの翻訳にかなり頼っていたことを自覚したのだ。コミュニケーションがうまくいかない。いくら前世の記憶があって、多少の精神面への影響があったとて、エリザベッタは自分が子どもであることに甘えていたのだと思った。


 ここに来て、彼女の言語能力は飛躍的に伸びる。伸ばさざるを得なかった。そして、ヴィオランテの察する能力の高さに、さすが女官長と地下に向けて拍手を送った。


「たまには外に出たいのだけど。」


「陛下に許可を取って参ります。」


 日々、コレだ。いちいち許可を取りに走ってもらうのも申し訳ないが、ずっと篭りっぱなしは性に合わない。魔弓は取り上げられることがなかったので、単に貸し出していることを王が忘れているだけなのだが、騎士団の訓練場に行きたいと言うと許可が下りた。ついでに魔法の勉強もしてこい、ということらしい。


 エリザベッタ的には魔法なんぞどうでもいい。既に魔弓を使いこなしている。ただ、その能力が対魔王戦のために秘匿されているだけである。それすら無用となってしまった。着いたらまず乗馬の訓練だ。疲れはするが、食料以外の動物との交流もなかなかおつなものである。

 爽やかに汗を流した後は、申し訳程度の魔法訓練。王族に求められるのはそう高度なものではない。王族には肉壁となる騎士がびったりとくっついているので、自衛程度だ。エリザベッタは中長距離の攻撃手段はあっても、近距離戦闘の心得がない。その辺りを重点的に指導された。父王は正直鈍臭いので、ギリギリ及第点だったところ、エリザベッタはこの日のうちにその及第点を越してしまった。


「いやはや、殿下には武芸の才能がおありになる。」


「随分となまってしまってるわ。これじゃあ、野山を駆けられない。」


「野山を駆け回る必要はございませんからなぁ。」


「それもそうね。」


 伯爵夫人になるのだから、野山を駆け回る必要はない。寂しさを感じて、つい離宮の方角に目をやってしまった。


「ランベルトと姉君がご心配ですか?」


 図らずも、聖国の方角と同じだったらしい。世界地理にはまだ手をつけられていないエリザベッタであった。


「いいえ。お姉様なら、必ず和平を勝ち取ってくださいます。」


 会議は踊る、されど進まず。実は、和平交渉自体は上手く行っている。まだ公表されていないだけだ。終戦協定は近いうちに各国の代表を聖国に集めて調印式が執り行われるだろう。エリザベッタは知らないが、アッズーラが相当暴れたのだ。神殿批判は各国の思うつぼ。アッズーラの生国だけが肩身の狭い思いをしているのだが、それは置いといて。

 聖女がいなくなっても聖者がいればこちらの世界は事足りると宣う各国の首脳部と神殿の対立が長引いている裏で、魔族たちが顔を出して見合いの場が設けられている。


 異種族合コンは盛り上がりを見せたが、今度は聖者からの不満の声が上がった。ただでさえ貴重な聖者聖女だ。聖なる者同士の婚姻しか許されない現状で、美形の多い魔族と、美形もいるがそうでない者もいる聖者では、聖者の方が圧倒的に不利。


 あっちこっちで私利私欲による大激論が繰り広げられ、一方でイケメンにちやほやされてすっかりのぼせ上がっている聖女たち。


 会議は踊る、されど進まず。


「いつになったら帰れるんだコンチクショーッ!!!」


 ランベルトの魂の叫びは、チェレステ王国にいるエリザベッタには届かなかった。

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