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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫のWデート④

 エリザベッタは覚えている限りの前世を思い出す。


 この世界よりも豊かな世界に生まれ、あの世界の中でも平和な国で育ち、得難い普通の人生を歩んでいた。


 ひとつだけ特筆するならば、男運が悪かったことだろう。


 いや、男を見る目がなかっただけなのかもしれない。


 前世のエリザベッタは男の世話を焼くのが好きだった。尽くすのが好きだった。そう思い込んでいた。冷静に考えてみれば、そうしなければ捨てられるという強迫観念があったのだろう。尽くし、貢ぎ、捨てられる。その繰り返し。


 男がだらしなければだらしないほど、エリザベッタは燃え上がった。


 〝この人には私がいないとダメなんだ〟


 そう考えるようになると、恋人が新しくなるたびに周囲の友人知人からの彼女の恋人への評価は下がっていった。


「あんたがそんなことする価値ないよ、あんな男!」


 かつての親友の言葉が今も心を抉る。顔は思い出せないのに、大事な親友だったことだけは覚えている。


 顔のいい男に騙されること数回。顔のいい男でなくても、騙されているようなものだ。無償の愛だと信じた己の心に裏切られるのにも疲れた。浮気だけは許せなかった。


 今のエリザベッタがランベルトに対して厳しく辛く当たれたのは、やはり前世の彼女ではなくエリザベッタだからだろうか。イケメンなんて懲り懲りだと言いながらまた同じ間違いをしていた自分をようやく断ち切れた。やっと冷静になれた。そう考えると、転生も悪いものではないのかもしれない。


 幸いというべきか、ランベルトはちゃんと稼ぐ能力がある。今後の領地経営に不安はあるが、騎士としては充分な才能を発揮しているのだ。前世の恋人には、さすがに無職はいないが、仕事はしていてもエリザベッタの稼ぎをアテにしていた男もいた。最後の恋人など、自分の稼ぎは全て遊興費へ回し、生活の面倒はエリザベッタが金銭的にも負担していた。決して二人で支え合う関係ではなかった。顔の良さで許せる限界まで達して、臨界点を突破したあたりでブスッと男の浮気相手に刺されたのだ。自分を殺した女に恨みはあるが同情もする。きっと次のカモは彼女だったのだろうから。しかも男の愛という名の欲望は他の女にも注がれるのだ。


(そう考えると、結婚相手としてはアイツらよりはマシ……なのかな?)


 随分と打算的になった。こんな考え方しか出来ない自分がイヤになる。エリザベッタの自嘲のため息をランベルトは真剣な眼差しで見つめていた。


 かつての日本でもお見合い結婚はごく当たり前のことだった。エリザベッタの前世の父方の祖父母も、地方らしく集落の誰かがお膳立てしたお見合い結婚だった。仲睦まじいわけではないが、それなりに夫婦として成り立っていた。父の実家のあたりは、そんな家庭が多かったように思う。


「わたくしはマカイへ行かない。ランベルトと結婚する。セーリャクハカナシクナイ。」


「俺はエリザベッタが好きなんだけど?」


「レンアイキモチない。いい?」


「いいよ。生理的に受け付けないとかそういうわけじゃないよな?」


 さすがにそこまでではない。エリザベッタは首を横に振って否定した。


「でも、嫌だと思ったことはちゃんと教えて。女の人はそういうの、ためこむから。見ないフリもするし。」


 図星すぎて何も言えなかった。気まずげに少しだけ顔を背けて小さく頷くエリザベッタを見て、ランベルトは「やっぱりな」と笑う。


「それより問題はあっちだな。」


 さて。エリザベッタは結婚の意志を固めたが、お姉さまは?



 ***



 Wデートのあと。チェレステはずっと放心状態だった。ポケーッとしているかと思えば、途端に顔が赤くなり、奇声を発して一定時間転げ回ると、ハッと我に返ってツンツンし、またすぐにボーッとする。

 チェレステさえ頷けば、世界を敵に回しても君を守ると誓う的なプロポーズをクワンから告げられ、キャパシティオーバーした悪役王女サマは全くもって使い物にならない。


 そうこうしているうちに、聖国へ行く日になった。あれからクワンと顔を合わせていない。逃げ回っていたからだ。上官のアルフォンソに引きずられるように部屋から連れ出され、同行する面々と落ちあう。クワンの姿を見とめると、早鐘を打っていた心臓がもはや騒音でしかない。


 エリザベッタは留守番だ。見送りに来てくれている。


「お姉さまはがんばるって!」


「ええ、がんばるわ!」


 何を?何のために?


 魔界に囚われている人々を救うため。と言えば、聖女として面目も立つ。だけど、本当は……?


「では参りましょう。」


 上司の出発を促す言葉で腕を差し出してきたのはクワンだった。チェレステの視線がクワンの腕と顔を往復しているとクワンは苦笑した。


「エスコートですよ。我々がすでに友好関係であるという印象を与えるためです。」


 クワンではなくアルフォンソが「分からないでもないでしょうに。」と呆れたように説明する。


「わ、分かってるわよ!」


 ならば聖国についてからでいいのでは?とその様子を見ていたエリザベッタは思ったが、これもアルフォンソの親心なのであろう。


 かつてない前代未聞の魔族と人類の和平会談に、ピンク色の空気が持ち込まれようとしていた。

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