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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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55/79

眼帯姫のWデート③

お久しぶりの投稿です。

今後もなかなか時間が取れません。

不定期更新になると思います。

よろしくお願いします。

「お姉さま、顔は赤いです。」


「なんか上手く行ったっぽいな?」


「お姉さま、コンド、顔は青いです。あ、赤いマタ。」


「何言ったんだ、クワンの野郎……」


 エリザベッタとランベルトが先行組に少し遅れて山頂に着いた頃、チェレステはクワンの脅迫じみた告白を受けているところだった。


「あの二人、エリザベッタはどう思う?実際のところ。」


「お姉さまはクワンとケッコンスベキ。」


「だよなぁ。」


 二人は山頂の展望台の落下防止の柵の前で公開ヤンデレプロポーズをかましているクワンとかまされているチェレステを少し遠巻きに眺められるベンチへと腰掛けた。


「でも、寂しい。お姉さま、ズットイッショ。わたくしは思っていた。」


「そっか。二人、ホントに仲、いいもんな。」


 姉と妹というだけではない。ただの姉であれば、喜んで送り出しただろう。眼下に広がる街並みを見て、今更になってここが異世界なのだと、エリザベッタは実感した。


「わたくしたちはズット。ココロ〝日本人〟。でも、わたくしたちは〝日本〟にカエレナイ。モシ、わたくしとお姉さまは〝日本人〟デハアリマセンノトキ、お姉さまはケッコンする。わたくしはオイワイ。セーリャクケッコン、オーゾクノギム。わたくしは理解する。ダケドわたくしとお姉さまは〝日本人〟。わたくしはお姉さまとたまに話す、〝日本〟ヲスル、求める。わたくしは話すことができません。寂しい。」


 日常会話はマシになったがまだまだ真意を伝えるには拙すぎるエリザベッタの語学力だが、ランベルトは真剣に聞き、うなずいてくれる。それだけで、エリザベッタが押し込めていた不安が堰を切ってあふれ出した。


「わたくしは寂しい。わたくしもイキタイ。マカイ。お姉さま、ズットイッショ。」


「それで、俺との婚約をなかったことにして、クワン以外の魔族に嫁ぐの?」


 ランベルトの口調は決して責めるものではなかった。エリザベッタの本心の一端に触れたことで、真摯に対応すべきであると察した。


 普段のような醜い嫉妬は容易に押し込めることができた。ランベルトも成長しているのである。


 他の魔族に嫁ぐのか。その質問に対して、エリザベッタは首を横に振って否定してみせた。


「わたくしはイケナイ。マカイ。」


「どうして?君が魔界に行きたいと言えば、クワンも歓迎するだろうし、チェレステも喜ぶ。」


「わたくしはケッコンスル。ランベルトと。」


「それは王族の義務だから?ずっと疎まれて、蔑まれて、いないものとして扱われて来たのに、義務だけは果たすつもりなの?それでエリザベッタは幸せになれる?」


 エリザベッタの表情が歪む。めずらしく分かりやすく感情が表に出ている。


 ランベルトは風に煽られてハラリと落ちたエリザベッタの髪を耳にかけてやった。指先が触れると視線を逸らされる。けれど、これが拒絶ではないことを知っている。


(エリザベッタも、女なんだな)


 女だからなんだ、何を考えているのかと思えば、割とろくでもないことかもしれない。ランベルトはエリザベッタを組み敷く様を妄想したこともあるし、なんてことない穏やかな二人の日常を想像したこともある。


 騎士が姫に忠誠を捧げることに憧れる者は男女問わず多い。ランベルトは決してその中の一人ではなかったけれど、その機会を与えられている。


 騎士が忠誠を捧ぐ姫とは絶対不可侵の存在。今までは庇護欲が先に立って、何がなんでも守らねばと思っていたが、ランベルトは今日一日だけで少し考え方を改めた。


 おとなしいと思っていたエリザベッタは案外過激だ。時折その片鱗を見せていたが、本当のエリザベッタは立派な大人の女性であって、女を武器にして自分を誘惑することも出来るくらいには世間慣れしている。むしろチェレステの方が余程清廉無垢だろう。


「エリザベッタさ。もしかして、俺のこと、好き?」


「……スキではありません。」


「じゃあ、嫌い?」


「キライではありません。」


「俺のこと、好きになれそう?」


「タブン……」


 自分の気持ちに自信がない。というわけでもない。相手の顔も名前も思い出せないが、経験が教えてくる。〝この男を好きになりかけている〟と。同時に警告を鳴らしている。〝この男を好きになればまた泣きを見るぞ〟と。


「何がストッパーになってる?今更、過去の恋愛遍歴とか娼館通いとかじゃないんだろ?」


 ストッパーは彼の恋愛遍歴ではなく、自身の恋愛遍歴だ。姿形も名も声も思い出せないはずなのに、恋人を奪った女への嫉妬と裏切り男への激情だけはしっかり残っている。


(なんでかな。)


 またあんな風に醜い自分になりたくない。エリザベッタが恐いのは、己の醜さだった。


「ムカシムカシ……」


「昔話?」


 茶化されたようでムッとしたが、いちいち反応していては話が先に進まないのでそのまま続けることにした。


「へーボンオンナはイケメンとコーツァイシタ。オンナ、約束するケッコン。彼らは一緒にスンダイタ。」


 きっとこれはエリザベッタの前世の話なんだろう。ランベルトは察した。


「へーボンオンナハ幸せ。デモ、オトコはオンナイタ。ホカタクサン。」


 一応、前世のエリザベッタが本命であったようだ。他は遊びだ。そう主張する男の声が頭に響く。


 けれど、遊ばれた女の方はそうではなかった。いや、そうではなかった者がいた。


(ああ、そっか。私、浮気相手に殺されたのか……)


 つまらないことを思い出してしまった。エリザベッタは自嘲した。


「イケメンオトコ、オンナハコマラナイ。イツモオンナイル、近くに。ヘーボンオンナハイヤ。フツーを求める。」


 フツメンだからといって浮気しないわけではないし、風俗に行かないわけではない。そんなことは分かっているが、面倒事に巻き込まれる機会は圧倒的にイケメンよりは少ない。


「イケメンハスキシナイ。悲しいから。ヘーボンオンナハ決めた。」


 前世のエリザベッタは平凡だった。どこにでもいる女だった。大人になって、それなりにおしゃれを覚えて、それなりの見てくれだったような気もするが、どこまで行っても()()()()でしかなかった。


 今世はいささか幼いが容姿には恵まれた。それでも、エリザベッタは今でも平凡女のままなのだ。

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