眼帯姫のWデート②
「おいしい!」
デザートについていたプリンは懐かしい味がした。聞けばこのカフェは離宮の料理長の支店らしい。エリザベッタ考案のスイーツも食べられる。
「ごめん、エリザベッタ。リサーチ不足だった。」
「オミセ人気。わたくしはうれしゅうございます。」
気を遣わせたとランベルトは思ったが、これについては本心だった。敬愛する料理長が成功しているのは嬉しい。自分の知識が役に立って、人々の舌を楽しませているのを見るのもうれしかった。
「わあ、〝日本〟の味ですね。有名なレストランのプリンの味に似てる。」
某レストランの生クリームたっぷりのプリンだ。他にも昔ながらの固めのカスタードプリンも売っている。
「懐かしいなぁ。こんなの、こっちの世界で食べられるなんて、思っても見ませんでした。」
「向こうの食生活はどうなの?」
食事中は身体的接触がなかったからか少し落ち着いたチェレステがクワンに問うた。
(けけけけけ、結婚するにしても!魔界で暮らせるか分かんないし!環境が合わないってこともあるんだから!)
まだ予防線を張りたがるチェレステであった。
「割と大味なんですよね。調味料が塩だけ!っていうか。ハーブ類も何代か前の魔王があっちに持ち込んで育ててますけど、みんな似たような感じで。」
貸切のテラス席ではあるが、秘密の話は少しだけ声をひそめている。自然と顔が近くなり、それに気付くとバッと勢いよく離れる二人をエリザベッタは微笑ましいとニコニコしながら眺めていた。
横目でランベルトを見上げると、目が合ってしまった。
彼はずっとエリザベッタを見ていた……わけでもない。単にチェレステとクワンのやりとりに馬鹿らしくなっただけなのだが。そのときはエリザベッタを見ていたのだ。
(目が合ったら笑う。コレ、鉄則。)
あざとい技術は別に彼女の前世の経験で培われたものではない。身近にいたそういう人物をモデルにしている。
(なんかイヤな思い出が付随してるっぽいけど……思い出せないし、いっか!)
エリザベッタは前世の記憶は知識を得るために活用しているだけで、人の顔が思い出せないため特に未練はない。チェレステもクワンも同様だ。神の配慮なのかもしれない。
少しだけ照れたランベルトが、机の下で膝に置いているエリザベッタの手に自分の手を載せてきた。恐々と、様子を見ながら。
すかさず手のひらを返して、ランベルトの手を握ると、驚いたのちに痛くならない程度に力を込めて握り返された。チェレステとクワンが魔界の話で盛り上がっている間、力を入れては握り返され、握り返されれば見上げて微笑み、見つめ合うを繰り返すエリザベッタとランベルト。
目の前の二人は全く気付いていない。
ランチを終え、店を出ると、今度は王都を見渡せる丘に登ることにした。一応、ランベルトが考えたデートプランである。
チェレステとクワンに先を歩かせたのは、視界に二人が映るとチェレステはエリザベッタに、クワンはランベルトに助けを求める視線を寄越してくるからだ。振り向くなと厳命して、十歩ほどの間隔を空けて坂を登る。
((少しは進展したかな……?))
エリザベッタとランベルトは同時に思った。ピエトロが聞いたらどっちのカップルのこと?と聞くかもしれない。
「エリザベッタ。」
「はい、ランベルト。」
「楽しい?」
何と答えるか迷う。楽しいは楽しい。けれど、今日のミッションはデートの手本だ。でなければ、エリザベッタからこんな甘い空気を出すことはない。ランベルトからはいつも漏れている。
「意外と。」
「そっか。よかった。」
(キスしたいな。)
もうチェレステとクワンの二人は見ていないのに、手はつながれたままだ。
(よくわかんね。翻弄されてんな、俺。)
損得勘定のない恋愛などしたことがない。ランベルトは今一度思春期に立ち戻っている。
一方、チェレステ・クワン組の状況は。
(手汗っ!手汗が!また!もうやだぁ!!)
(かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい×∞)
強制的に手をつながされた二人。恐らくこんなこともなければ恋人つなぎにたどり着くまで時間がかかったことは容易に想像できる。
魔族の子を孕めば伴侶も魔族と同じ寿命になるが、子作りに至る前にチェレステの寿命が来たであろう。
「いつまでつないでないといけないのかしら……」
つい漏らした言葉に、クワンは傷付いた。
「やっぱり、やですよね……好きでもない男と、手、つなぐなんて……」
後ろ向きだが言葉にしただけ偉い。ウンベルトがいればそう励ましただろう。
「そっ、そんなことないわ!クワンさんはわたくしの推しだもの!」
「それ、俺じゃないですよね……」
「あううぅぅぅ!」
チェレステはパニックになりそうな頭をどうにか働かせて、結局どうにも出来ずに手に力を入れて離さないぞという意思を見せるので精一杯だ。助けを求めて振り向けば、エリザベッタたちとはかなり距離が出来ていた。エリザベッタは街を見下ろしながら登っているので、チェレステに気付かない。
「てってっ、手汗がね!イヤじゃないかしらと思って!」
「そんなことないですご褒美です!」
パニックになってそう叫ぶと、とんでもない答えが返ってきた。クワンもパニックになっているので当然といえば当然である。
しばしの沈黙のあと、クワンが口を開いた。
「あの……推しだった〝テンツキ〟のクワンって、どんなキャラだったんですか?」
「え?えっとぉ……」
顔がいい。とにかく顔がいい。作中でも一番の美男子。魔族らしくクール。残忍ともいえる。商人としての演技では人当たりが良さそうな好青年。そのギャップに萌えた。
魔族の部下や眷属がいても満たされない心をエリザベッタによって満たされ、恋をする。エリザベッタに酷くしたくないのに、強引なことしかできない自分に苦悩する姿がたまらない。
「でも結局、エリザベッタの力を借りたランベルトに負けちゃうんだけど。」
「少女漫画ですもんね。」
「悪役令嬢は退場しないといけないしね。」
「じゃあ、俺と一緒に退場しましょうよ。」
「え……?」
「俺と一緒に、魔界に行くもよし、俺がこっちに来てもいいです。門が開いたままならこっちの世界も魔素が増えるし、耐性のつく人も年々増えるはずです。俺たち魔族は長寿なんで、嫁取りも元々長期計画なんですよ。みんな気が短いからさっさと嫁をもらえってうるさいだけで。……俺。このまま殿下を見送りたくないです。せっかく会えた日本人仲間なのに、このままだと、チェレステ殿下もエリザベッタ殿下も人の寿命で終わってしまいます。そしたら俺は、また、ひとりぼっちだ。」
長身のクワンに見下ろされているのに、なんだか捨てられた子犬に見上げられている気分になったチェレステ。
「もし、殿下が頷いてくださるなら、俺、聖国で交渉決裂して、例えこの世界中を敵に回しても、絶対に貴女を離さないし、守ります。ダメなら潔くあきらめます。門も閉めて、別の方法考えます。まあ、戦争は避けらんないけど、何とかします。散々考えて、出てきた答えが物騒なんですけど。今は俺、人間じゃなくて魔族なんで、許してください。」
脅迫のような口説き文句。
(クワンさまみたい……!)
チェレステは恍惚としていた。
やっぱりチョロいチェレステである。




