眼帯姫の大人な恋愛相談室
今日と日曜投稿します
『お姉さまはクワンさんのこと、好きじゃないんですか?えーと、見た目じゃなくて性格のことですけど。』
『スッ!?』
(す?)
ランベルトは二人をつぶさに観察している。エリザベッタが見た目は幼くとも時折大人の表情に見えるのは、一人きりで孤独に耐えながら苦労してきたからだと思っていた。
そうではなかったと言われれば、色々と思い当たる節がある。
二歳から一人で過ごしてきたはずなのに、娼館通いのことを「病気持ってそう」と言ったり、ランベルトの女遍歴を周囲から聞かされる度に向けられる冷ややかな視線だったりと、女性関係しか今は思い出せないのが情けないが。
(最初から、何もかもを理解しているってことか……参ったな。)
ランベルトもまた混乱していた。クワンに前世の話を聞いたときは大した問題にもならぬと考えていたし、子ども扱いすると怒るのは年頃の娘らしい背伸びだと思っていたが、エリザベッタの中身が成熟した大人、己より精神年齢が高いとなれば、もっと他にやりようがあった。
果たして自分の思うエリザベッタは本当のエリザベッタなのか。
悩みどころである。
(それでも俺は彼女と結婚したい。心を向けて欲しい。それだけは変わらない。)
なんとも難儀な性格である。いささか思い込みが激しいのではないだろうか。遊び人が一途になると執着が激しいという定番のパターンに陥っていた。
『まあ、まだ分かんないですよね。知り合ったばっかだし。』
『そ、そうなのよ……あっちだってそうなのに、なんであんな、ぷっ、プロポーズなんかしたのかな……』
(童貞が先走った……とか言うとお姉さま泡吹いて倒れそうだな。)
確かにそれはおすすめ出来ない。ツンデレではあるが、儚げな見た目通り、彼女は純情無垢な乙女だ。エリザベッタは別に未経験だからどうのと悪く言うつもりもないが、このままだと二人の仲は進展しない気がした。
(ここはお姉さまを洗脳……じゃなくて、クワンさんが好きって方向に持ってった方が穏便にことが済むのでは?だって実際、推しキャラだったんだし、魔界の衣食住も保証されてそうだし。条件は悪くなくない?あ、でもあちらの親と同居になるのかなぁ?やっぱ一回魔界に行った方がいいな。それはまた追々として、今はお姉さまの気持ちだよね。)
エリザベッタはなんだかお見合いおばさんの気分だ。聖国での話し合いという名の脅迫が済めば、本当のお見合いが待っている。どうやら魔族も好戦的ではあるが皆知性を持ち、人間のように感情があるようなので、聖女たちとのお見合いは案外上手くいくのではないかとエリザベッタは思っている。
ネックなのは寿命による年齢差だが、それも魔族と番ってしまえば彼女たちの寿命は魔族と同じになる。それに付随する問題も多々あるが、行き来が自由に出来るならばむしろ聖女の延命となりこちらの世界にも好都合なのではないだろうか。
エリザベッタは意外と発想力が豊かだ。交渉の場で魔族側についた方がいい案ではあるが。
『とりあえず、プロポーズはおいといて、お付き合いしてみたらどうですか?クワンさんのことそういう対象に見られなくても、お姉さまの立場だとどっちみちこれから魔族が口説き落としに押しかけてきますよね?男女交際に慣れてないなら、尚更お試ししといた方がいいですよ。美形に熱烈にアプローチされて、靡かない自信あります?』
花嫁は大切にすると聞いたので無体なことはしないだろうが、激情家が多そうなのでそれはそれはラテン系の如く愛を囁いてくるだろう。
エリザベッタはチェレステはそういう異性からの声かけに弱そうな気がした。自身がされたらドン引きするだろうが、姉はコロリといきかねない。
(最終的にお姉さまが幸せなら相手は誰でもいいんだけどさ。)
チラとランベルトを見た。果たして彼と結婚して自分は幸せになれるだろうか。目が合うと彼は苦しげに口を引き結んだ。
(耳慣れない言葉で意味が分からないと、気分悪くならないかな。結構アレ怖いんだよね。)
経験者は語る。疎外感と恐怖をエリザベッタはこの王宮でいつも感じていたし、今でもそれは変わらない。
『魔族の人たちは婚活が目当てなんですから、話が結婚に行き着くのは仕方ないんじゃないですか?あっちでもかなりせっつかれてたみたいですし。』
『あ……そっか……』
『まあ、クワンさんは見た目通りの年齢ではないみたいですけど、心は、自分もそうですけど、前世の年齢で止まってる感じしますし、多分ただのウブな男子なんですよ。お姉さまもそういう感じ、しません?』
『する……言われてみれば、確かに……』
『でしょ?だから、まずはお付き合いからお願いしますって言ってみたらどうですか?』
『それって、友だちからお願いしますって言うもんじゃないの?』
『正直、友だちのままじゃ分かんないこと、たくさんありますよ。男って付き合いだすと釣った魚にエサはやらないタイプいるし。お姉さまの肉体年齢と立場的には健全なお付き合いになっちゃいますけど、カラダの関係持つと豹変するクソ男もいますからね。』
「ぴゃっ!」
(ううーん、耐性ナシか。BLも嗜んでたみたいだから、そういうのも平気だと思ったけど……自分ごとになるとまた別なのかな?)
それはそうだろう。BLとて、ファンタジーである。何度か知り合いに連れて行ってもらったゲイバーで飲んだ経験を思い出し、エリザベッタはそう思うことにした。
『クワンさんにも私から直接、お話します。自分からは言いにくいですよね?あ、合意があれば無理に我慢する必要もないと思いますよ?男の本性出ますからね、アレ。』
自分でそう口にして、またランベルトを見てしまった。エリザベッタはそこそこの大人なので、多分、ランベルトと結婚してしまえば彼を受け入れるだろう。
(こっちもそのうち扱いが雑になったりするのかなぁ)
エリザベッタもまた、話し合いを避けてきた。
いい加減、自分の婚約者にも向き合わねばならぬときが来たようだ。




