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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫のお姉さまは攻められると弱い

ぎゃー!予約するの忘れてました。

もうダメダメだぁ

「殿下……!」


「あちゃー!やっちまったな!」


「いいんじゃね?クワンのこの調子だといつまで経っても進まんだろ。おーい!クソ女!コイツがお前のこと好きだってよ!!!」


「らっ、ランベルトさん!?」


 わなわなと震えているチェレステを案じながらも、神殿での専属付添人は彼女の落とした差し入れの果実水を入れていたピッチャーやグラスの破片を拾っている。


「フッ、フンッ!当然でしょ!わたくしはこの国一番の美女なのだから!」


「それって自分で顔しか取り柄がないって言ってません?」


「失礼ね!他にもいろいろあるでしょ!?」


「ないない。」


「申し訳ないですが思い浮かびません。」


「聖力くらい?」


「でもクワンの本気には太刀打ちできねーだろ。」


「昨日の闘気とやらは凄まじかったな。」


「アレな。一周回ってアホらしくなったわ。」


 昨晩、まだクワンの酔いが回っていない頃、「結局魔王の実力ってどんくらいなの?」という話になり、魔力と生命力を練り上げ闘気に変換して攻撃力を高めるという技を披露した。それを使えば指先で軽く叩くだけで酒瓶など粉砕してしまう。


 結局、粉々になった酒瓶の山が神官に見つかり、ますます怒られてこうして罰を受けているわけだ。


 ちなみに人間がやると徒に寿命を削るだけなので決して手を出してはいけない。


「別に!わたくしが彼より弱くたって戦争やるわけじゃないんだからいいでしょう!?」


「ついこないだまでしてたけどな。」


「だいぶ手加減されてたな、俺ら。」


「格の違いというものを思い知った。」


「ちょっと!王国騎士のくせに弱音吐くんじゃないわよ!」


「厳然たる事実です。」


「ていうか、お前さぁ。俺らにかみついてるヒマあんならクワンと話せよ。」


「どうせその足元のヤツも点数稼ぎに持って来たんですよね?」


「殿下。クワンはとても純情な男です。その気がないなら期待を持たせないでいただきたい。」


「ちょ、ウンベルトさん!?」


 チェレステは顔を真っ赤にして今も震えている。クワンも真っ赤だが、ただおろおろとするだけだ。


「お、男なら人を頼んないで自分から口説きなさいよね!バカァッ!!!」


 チェレステは逃げた。走って逃げた。神殿の、自分の部屋まで逃げた。聞きたくなかった。あんな風に、クワンの気持ちを聞きたくなかった。


 自分も悪かった。中身がクワン自身ではなく、同じ転生者ということは分かっていたが、ちょっと推しと恋人ごっこがしたかっただけだ。確かにボディタッチは多かったし、思わせぶりなことも言った。あの顔を拝めるなら、なんだっていいと思っていた。


 それがクワンにとって、どれだけ失礼で、どれほど傷付けるかも忘れて。


 ウンベルトに図星を指され、挙句の果てにクワンを罵倒して逃げてしまった。


(最低だ……!)


 クワンは好きだ。悪い人じゃない。いい人だと思う。だからといって、これが恋かと言われると難しい。チェレステは前世今世通して二次元にしか恋をしたことがなかったから。


 前世で最期の恋はクワンだ。だけど彼はチェレステの恋したクワンではない。


 改めてここは現実なのだとチェレステは認識した。


「チェレステ殿下!チェレステ殿下!」


 ドンドンドンと扉を叩く音がする。ここは神殿内にある聖女のための男子禁制の区域。外で巫女たちの制止する金切り声が響いている。


「殿下!殿下!話を聞いてください!」


 話と言っても何を言ったらいいのか分からない。泣いてるこの無様な顔を見せるのもイヤだ。こんな不細工な顔を見て幻滅されたくない。


(幻滅、されたくない?)


 相手はクワンであってクワンでない人なのに?


「クワン!ドア蹴破っちまえ!今が押しどきだ!!!」


 ランベルトの叫ぶ声が聞こえた。あからさまにネタばらしをしてどうするんだとチェレステは嗤う。


 バン!バン!


「おやめください!」


 バン!バン!バン!


 しかし、どうやら本当にクワンはドアをぶち破るつもりらしい。チェレステは怖くなって身がすくんだ。


 逃げ場がない。どうしたらいい?


 バン!バン!バン!ドキャッ!!!


 ガンと大きな音と木端が舞う。木の扉を破ったのだ。蝶番はへし曲がり、ひとつは吹き飛んで、少し遅れてカランカランと音を立てて落ちた。


「魔法で破れば一発だったのに。」


 悔し紛れに出た言葉はつまらない嫌味だった。


「あ……忘れてました……」


 彼ほどの力があれば、こんな扉は一瞬で粉砕どころか消し炭にできる。昨晩、ただでさえ禁じられていた魔法を使用したので神殿に遠慮したのかもしれないが、顔を見れば本当に単純に忘れていたようにも見えた。


「今のさっきで何の用?」


「あ……えと……」


「いいから押し倒しちまえ!どうせその女は男に耐性なくてチョロいから!」


 ランベルトの言いように眉を寄せた。


(チョロくて悪かったわね!私は転生してから、するちょっと前からクワン・チュンイン様一筋よ!)


 しかし、転生してみたら肝心のクワンであってクワンでない。正直、チェレステは戸惑った。ある意味、クワンと結ばれるという道はハードルが下がったように思うが、問題はそうではない。そうではないのだ。


「いやしませんて!無理ですから!……殿下。あの、すみません。俺、殿下が……えっと、好きです!えっと、えっと、あの、結婚してほしい!……と、思ってます……。」


 なんだか歯切れの悪い告白とプロポーズだ。チェレステはますます不機嫌になってクッションに顔を埋めた。


「でも、俺……殿下に相応しくないと思ってます……見た目は確かに、だいぶ、前世より、マシになりましたけど……中身は相変わらず、オタクだし……まあ、こっちにはオタ活できるような環境じゃないですけど……。」


「それは……確かにそうね。」


 つい返事をしてしまった。ちらと見れば、クワンはチェレステが口を開いてくれたことでホッとしている。


 チェレステ自身も不満要素だと思っている。だが、まずは自分の死亡フラグ回避が最優先。オタ活はひとまず棚の上に置いてきた新たな人生だった。


「俺、殿下に相応しくなりたいです。好きになってもらいたいです。チャンス、ください。ダメですか?」


 ダメなんて、チェレステが決めることじゃない。チェレステはこの世界に生まれてモテてきた。確かに性格に難ありで離れて行く者もいたが、身分と見た目と能力でモテてきた。


 チェレステ自身を見て好きだと言ってくれたのは、クワンが初めてだった。


 そんなの、胸がときめかないわけがない。


 チェレステは、やはりチョロいのであった。

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