眼帯姫のお姉さまは魔王の想い人
更新滞りがちで申し訳ないです。
今後は日曜更新で参ります。
時間は変わらず夜八時です。
男たちのわちゃわちゃした恋バナ回です。
「うっ、うっ、うっ……!」
「まあ、なんだ。ホラ、もっと飲め。」
「うぁー、らんべんろはん、いひひろでふねぇ〜!さっすらひいろー!」
「ヒーロー?」
魔王は酔っ払っていた。
魔王のくせに一本飲み干すとあっという間にぐらんぐらんと上半身がコマのように周り出し、今はソファの肘掛けにしがみつきながらもまだ酒を飲んでいる。
「そうっすおー!ヒーローっす!さっすらもれのほひにうまれはおこと!あ、おろろ!あれ?おここ?」
「男、な。」
「もれってなんだ?」
「話の流れ的にモテじゃない?」
ランベルト、ピエトロ、ウンベルトは呂律の回らなくなった魔王の通訳が欲しいと心から願う。
「ひいなあ、おれ、おらぁですね!うまれーまえからもれなかったんれす!ひっこもりのぉ、ばいろもつづかないよーなぁ、ねっからの〝おらく〟!」
〝おらく〟とはなんだ?
三人は頭をひねる。チェレステかエリザベッタならおそらく分かるのだろうが、彼女たちをここに呼ぶわけには行かないのだ。本人に聞くしかない。
「おらくとは?」
「〝おらく〟はぁ、あー、〝オタク〟ですよぉ!〝あにめ〟とかぁ、〝げいぇむ〟とかぁ、〝まんが〟とかぁ!こかーね、〝まんが〟のせかいなんれすよ!ヒロインはえりられったれんか!あくやくれーじょーはちぇれすれれんか!らんれるとはんをろりあっれぇ、たたかうんれす!」
うえ〜!と魔王がうめいている間に三人は話し合う。
「まんがってなんだ?」
「さあ?」
「ヒロインがエリザベッタ殿下、悪役令嬢?がチェレステ殿下ということは小説か何か、物語なんじゃないか?」
「ハハッ!!あの女が悪役令嬢!そのまんまだな!!」
「お前なぁ。」
「あ!?だってそーだろーがよ!!」
「そんでヒーローがお前、か?」
「ひぃろぉ?」
「英雄は英雄だけどな。英雄に相応しくない人格だが。」
「うっせえ!俺よりよえーくせに文句ゆーな!」
「お前もかなり酔っ払ってんな。」
〝まんが〟は恐らく物語。ヒーローのランベルトを取り合って戦うということは恋物語なのであろう。
「てか、この世界が物語ってなに?」
「クワン、詳しく……は無理か。」
「あ〜?なーんれーすかぁ〜?」
「おい!クワン!この際ここが物語の中だろうがなんだろうがどーだっていい!!俺とエリザベッタは、俺とエリザベッタはどーなんだよ!?まさか悲恋モノじゃあねーだろうなッ!?」
「あはは〜!しょーじょまんがのせおりぃははっぴぃえんどっすよぉ!おひめままはおーひはまほしあわへにくらひまひたにきまっれますよぉ!おれみたことねえけろ!!!」
「知らねーのかよ、役に立たねえな、クソッ!」
「ちぇーすれれんかあ、おれがおしだったんすぅ。なかみがおれみてーなきもめんになっれもーひわけないふ……おれじゃ、おれじゃ、ちぇーすれれんかに、うっ、うっ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!うえっ。」
「コレ、賭け、副団長の一人勝ちじゃね?」
「あり得るな。チェレステ殿下はその物語でクワンが好きだったってことだろ?」
「今も好きだろ。顔は。」
「かおらけららめなんれすよ!ならくつづかないんれす!」
「それ、ランベルトのことじゃん。」
「正に。」
「ああ!?てめーらそこに直れ!叩っ斬ってやる!!」
「神殿内は帯剣禁止だよーん。」
「騎士団内の私闘もな。」
「あ゛〜〜〜、クソッ!!!」
男たちの夜はふけていく。
いつの間にか三人は三人の前世の話を信じている。
酒とは思考を弛めるものだ。良くも悪くも。
翌朝。酒臭い部屋で男四人がソファや床で無様に寝かけているのと大量の酒瓶が神官に見つかり、彼らは大目玉を食らった。罰として神殿内の清掃を命じられている。
「あ゛〜、あったまいた……」
「クワンまでやんなくてもいいのに。飲まされた方なんだから。」
「いえ……皆さんだけにさせるわけには……。」
「クワン、いいやつだな。」
「魔族だけど、いいやつだよな。」
「あ゛!?エリザベッタに惚れるんだろお前惚れるんだろ許さん後で叩っ斬る!!!」
「いや、どー見てもチェレステ殿下一筋でしょ。」
「お前、欲目も大概にした方がいいぞ。」
「遊び人が本命出来るとめんどくさいヤツになるって本当なんですね。」
「おっ、クワン言うなぁ!」
「正に。」
「てめぇらなぁッ!!」
男四人、すっかり仲良くなった。酒の力は偉大である。
「でもさぁ、クワン、どーすんの?殿下のこと。」
「エリザベッタはやらねーぞ!あったまってぇ!くそっ!」
「いや話の文脈を読め。どう考えてもチェレステ殿下のことだろう。」
彼らは気付かない。そこに近付く足音に。
「チェレステ殿下は……好きです。でも、俺なんか相応しくないっす。」
「んなこたないだろ。魔王だよ?」
「他国の王と考えれば立場的にも問題はない。過去、戦争が終わり平和条約を結ぶ際に王族同士の婚姻があったと聞く。」
「まあ、セオリーっちゃセオリーですけど……自信ないす。政略結婚はやだし。」
「政略じゃなきゃ結婚する気あるってこと?」
「そりゃそーですよ。かわいいし、美人だし、巨乳だし、明るいし、こんな俺にも気を遣って色々話しかけてくれるし、前世日本人の仲間だし。そりゃ最初は見た目からでしたけど好きになって当たり前です。」
ガチャン、パリン、カラン
男たちは振り向いた。
そこには顔を真っ赤にして立ち尽くすチェレステと、ピッチャーに入っていた果実水が床にシミを作っていた。
割れたのはガラスか。
はたまた魔王の恋か。




