眼帯姫のいないところで秘密会議
「よう、酒はイケんのか?」
(この人……少女マンガのヒーローなのにヤカラっぽいよなぁ。)
「飲めなくはないです。」
魔王はランベルトとピエトロ、ウンベルトの三バカトリオに囲まれている。彼らは今日日勤でもう終業したはずだが、何故魔王の部屋に来ているのだろうか。
酒とつまみを持って。
「そんじゃあ、失礼しまーす!」
「うわ!えっ?えっ?ええっ!?」
小さく隙間から話していたクワンだったが、ピエトロが勢いよく扉を引っ張って開けたものだから体勢を崩してしまった。それ以上に、ズカズカと部屋に上がり込む彼らに目を丸くしている。
「我々は騎士の代表だと思ってくれていい。ここ数日のお前の動向を見て、警護対象の心理ケアが必要だと上官が判断した。」
ウンベルトが真顔で言うので、クワンは眉根を寄せつつ首を傾げた。なんだかその様子がエリザベッタを彷彿とさせるのでランベルトはイラッとする。
「おい、ボーッとしてねーで座れよ。飲むぞ。」
「へっ!?いや、え!?ここ、神殿ですよ!?」
「うん、そうだよね。だから帯剣してないよ?」
「そりゃ見れば分かりますけど、え!?」
「まあまあ、いいから!座って座って!」
神殿から借りているとはいえ、ここはクワンの自室だ。何故主導権が彼らにあるのか。疑問に思いつつも言葉に出来ないクワンなのであった。
「はい、コレ。クワンさんの分ね。」
「え、ひとり一本なんですか?」
ピエトロがドカッと床に置いた木箱から瓶を取り出し、栓を抜くとひとりに一本ずつ渡していく。
「騎士団の伝統だ。」
ウンベルトの言葉にますます頭に疑問符が浮かぶ。クワンに顔を向けず、持参したつまみをテーブルに広げながら言われて、尚更不安になった。
「あ、あの、どうして俺のところに?」
「カウンセリングといったところか。」
「要するに話を聞いてやれって言われたんだよ、上に。」
「人選に納得いかねーけどな。何で俺なんだよ。」
「いやあ、大切でしょ。女の扱いが一番上手いし。」
「あの女の扱い方なんてサーカスのライオンか熊の調教師に聞いた方が有益だろ!」
「だがお前も彼に聞きたいことがあるんだろ?」
「うるせー!」
「ホラ、許可取ったとはいえうるさくしたら追い出されるよ。」
髪を切ってよく見えるようになった切れ長の目をぱちくりとさせるクワンは完全に会話から置いてけぼりになっている。その様子にピエトロが苦笑した。
「ウチの殿下がごめんね?今日の昼間、結構辛そうだったからさ。」
今日の昼間。チェレステは推しとデートと浮かれていたが、それを本人の口から聞いた後のクワンは足取りの覚束ない様子で背中は哀愁漂っていた。
騎士たちの同情は酒という形になってクワンの元に届けられたのだ。
もう騎士のほとんどがクワンに対して悪意を持っていない。彼が魔界へ帰れば捕虜となった仲間も戻って来る。これから友好関係を築こうという相手とわざわざ対立する必要もない。騎士はみな貴族子弟。騎士であっても政治を知らぬわけではない。宰相からは彼を賓客と思うようにとのお達しだ。
賓客に酒瓶で飲めと強要するのは正しいもてなし方かどうかは分からないが。
なんかよくわかんないけどカンパーイ!とピエトロが酒瓶を持ち上げると、残りの二人の騎士もそうしたのでクワンも小さく瓶を持ち上げた。
瓶に直接口をつけて一口飲み三人を見るとグビグビと水を飲むように飲んでいる。高い酒ではないのは箱の時点で察していたが、水分補給するように飲むとは豪快である。
先程まで部屋でひとり悶々としていたクワンの舌に、赤ワインの渋味だけが残って言い表しようのない気持ちになった。押し流して誤魔化そうと再び瓶に口をつけ、彼らの真似事をしてみた。
そこにようやく瓶から口を離したランベルトが開口一番爆弾を落とす。
「お前、あの我儘女の何がいいの?」
「ぶふっ!」
ランベルトの発言の意味を即座に正しく理解したクワンはワインが鼻から出そうになった。口からは少し吹き出してしまったが。
「なっ!なっ!なっ!」
「今日は恋バナしに来たんだよ〜!」
「私が選ばれた意味が分からん。」
「俺ら三人セットで考えられてるからじゃね?」
「癪だけどあのクソ女と近いからだろ。」
「お前、愛しの婚約者サマの姉君にクソ女とか言ってるのバレたら元々ない好感度がますます下がるよ?」
ランベルトは舌打ちをしてまた酒瓶に口をつける。ヤケ酒にしか見えない。
「昼間、落ち込んでいるように見えたからな。皆、心配している。」
「あ……。」
失恋でヤケになって国を滅ぼされてはたまったものではないからなのだが、クワンは誰かに八つ当たりするようなタイプではない。内に閉じこもってグジグジといつまでも引き摺るタイプだ。
だからこそジローラモ団長とロドリーゴ副団長は日勤の騎士たちの業務報告(魔王警護の騎士は日誌とは別に彼らに直接報告することになっている)で今日は溜息をついてばかりだった。
あわれ魔王クワン・チュンイェン、と。
「んで。どーすんだよ、お前。」
ランベルトの口の悪さと態度の悪さを注意する者はここにはいない。つまみのナッツをばりぼりと咀嚼しながら片手は決して酒瓶から手を離さない。
「チェレステ殿下と結婚したいのか?」
「へえっ!?あっ!えっと!」
「アレと結婚したいだなんて魔王っていうより勇者だよな。」
「ふえっ!?あっ、うえっ!?」
「魔族との戦いがなければ世の中は平和になる。殿下もお役御免だ。」
「どこがいいの?顔?おっぱいは大きいよね。」
「おい、魔王。アレは見た目は良くても中身は猛毒だ。猛毒だが、俺にはお前にアレを引き取ってもらわなきゃならん理由がある。観念してアレを落とせ。性格の悪さでおつりが来るような女だが、あの顔と身体で何とか手を打て。」
顔……庇護欲系儚げ美少女。
身体……儚げ美少女なのにそこそこ巨乳。魔力も聖力も多い。
性格……明るくて積極的。自分にも優しい。
だけど魔王は、そんな女性が自分を好いてくれるとは思っていない。落とせと言われてもどうすれば好きになってもらえるか分からない。まだ出会ったばかりだから時間をかけてアピール?でも、魔界とこちらの国交が成れば、きっとチェレステに人気が集まるだろう。そうしたら、女性が喜びそうなものも分からず、気の利いた話も出来ないクワンなど、この身体が彼女の推しであっても振り向いてもらえない。
クワンはとにかく非モテ男思考。転生してチートとしか言いようのない実力者なのに、自己肯定感が低いままだった。




