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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫の恋愛観

体調不良で更新滞ってしまいました。

申し訳ありません。

 命のやりとりというものは精神を落ち着かせてくれる。


 普通は高揚するものなのでは?と護衛の騎士たちは思ったが、エリザベッタの美味しい手料理の前に沈黙を保った。


 エリザベッタは婚約者と会いたくなった。


(気の迷いったら気の迷いっ!政略結婚は不可避としても、あんな人を好きになったら後で泣きを見るんだから!!本気で好きになったらだめっ!あっちだって絶対すぐ飽きるんだから!!)


 婚約者と会って、顔を見れば、スンッ……と我に返れるはずだ。謎の思い込みでランベルトに会いたいことをヴィオランテに告げる。


 今の彼に会うには神殿へ行かねばならぬ。魔王クワンに付きっきりだからだ。


 ぶつくさと文句を言っていたが、仕事をサボったりはしないのだ。当たり前のことなのに、エリザベッタには好感の持てるポイントだった。


(騎士の仕事は真面目にやってんだよね。仕事、好きなのかな?領主の勉強はサッパリやってないけど。まあ、今はそれどころじゃないし、終わったら彼に教えてあげられるように私が……いやでも離婚するかもしれないし!王命が無効になるかもしれないし!あ!あのクソオヤジならついでに私を処分しようと王命で撤回して魔界に送り込まれるかも!!)


 そうしたら、どうする?


 どうするべきだろうか。


(普通の恋愛ならともかく、政略結婚ってどうやって関係を築くものなの!?)


 エリザベッタは頭を抱えた。うっすらと記憶に残る前世のいわゆる()()()()()。相手の顔も声も名前すらも思い出せないが、恐らく何人かとの交際経験があるのは分かっていた。けれど、子がいたという記憶はないので結婚には至らなかったのだろう。


 前世は付き合うも別れるも自由だったが、ランベルトとの結婚は王命であり、避けられるものではない。父王の思いつきで魔界に放り出されない限りは。


(魔界に行けば、自由恋愛。そっちの方が性に合ってる。)


 魔族は皆美しいので自分では不釣り合いなのではないかとも思うが、それはランベルトと並んだところで同じこと。魔族に女が存在しないのでそれはそれは大切にされるという。一途なイケメンに溺愛されるなんて夢のような生活ではないか。


(まあ、今の顔も別に、可愛いと思うし。どうしても昔の感覚で大した顔じゃないって思っちゃうんだよね。自分の顔なんか覚えてないくせに。)


 エリザベッタは残りの獲物を捌きながら思った。


(やっぱり、一度ランベルトと膝突き合わせて話し合った方がいいな。私もあの人のこと先入観で見てた部分もあるし。)


 エリザベッタは前世の頃から全てをハッキリさせたいタイプだった。それが男を追いつめて、別れの原因になっていたことを都合よく忘れている。


 ダン!と肉切り包丁を獲物に叩きつけた。


 何処までも漢前なエリザベッタなのである。


 その頃、街歩きをしていたチェレステと魔王はとにかく目立っていた。


(聖女様だ……お忍びか?)


(聖女様が男といる……。)


(親そう……でもないのかな。)


(あれ、でも、あの男って……?)


「あんらぁー!クワン、ずーいぶんと別嬪な彼女連れてるわねえ!!」


 八百屋の女将が声をかけた。


(勇者……!)


 街の人々は思った。女将さんはどうやらその別嬪な彼女がチェレステであることに気付いていない。勇者なのか、愚者なのか。


「おっ、おばさん!違うよ!彼女じゃなくて!」


 いつも売り物にならない野菜を恵んでくれる女将さんに、顔を真っ赤にして否定した。


「彼女じゃなくて婚約者よ!」


「ほえ!?」


「なーんて」


「あれまあ、結婚すんのかい?クワン、だったら早く定職見つけないとだよぉ?ん?アンタ、チェレステ殿下に似てるねぇ?」


 こういうおばちゃんというものは往々にして押しが強いし話を聞かないものである。


「あ、あ、あの、もうすぐ国に帰ることになりそうなんです。だから、手伝いが出来なくなるかも……。」


「そうなの?家業が嫌で逃げてきたんだろ?まあ、でも、アンタはお坊ちゃんぽいしね。力はあるけどアタマ使う仕事の方が向いてそうだし、嫁さんもらうんならその方がいいよ。幸せにおなり。たぁーくさん、子どももこさえるんだよ!」


「ふえ!?」


「ええ、たくさんの子どもに囲まれて、幸せな家庭を築くわ、女将さん!」


 魔王はひっくり返りそうになった。


(冗談だよな!?冗談だよな!?)


 ここ数日共に過ごしただけで魔王はチェレステを好きになりかけていた。チョロインよりもチョロいチョロボスだ。非モテ男は身体的接触と優しさに弱い。それは一度死んでも治らぬ彼のメンタリティ。


「ごめんなさい、あんなこと言って。」


「は、は、ほあ、」


「迷惑だった?」


「へ、ひ、や、あお、」


「クワンさん、街の人に好かれてるみたいだから、ああ言っておけばクワンさんがいなくなっても皆さんは心配しないかなと思ったのよ。」


(ああ、なんだ……。)


 また勘違いしかけた。こんな美女がうだつの上がらない自分なんかを好きになるわけがない。顔だって、確かに自分でも綺麗だとは思うが、性格が滲み出て情けなさが見えるし陰気臭い。

 余程、あのランベルトというヒーローの方がカッコいい。だって、彼は自分に自信がある。女性の扱いにも慣れている。


「お気遣いありがとうございます……。」


「お礼を言われることじゃないわ。ふふ、でも、今日は本当にデートっぽいこと出来て楽しい!前世も全く縁がなかったから。クワンさんはわたくしの推しだったのだし!推しとデート!夢みたいだわ!」


 魔王の心は打ち砕かれた。


 彼女が自分に優しいのは、この身体が彼女の推しだったから。


 クワン自身を求められているわけではない。


 魔王は下唇を噛んで涙を堪えた。


 こんなこと、よくあることだ。


 すぐ勘違いする自分が悪いのだ。


 項垂れる魔王の背中に、騎士たちの心からの同情が集まっていた。

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