眼帯姫の魔力量
王宮は厳戒態勢であった。秘密裏に。
ランベルトはめずらしく爪を噛んでいる。孤児院にいた頃の癖だ。父親に引き取られて矯正されたのだが、相当焦っているのだろう。
婚約者が魔王と共にいる。
心配になるのも当たり前だ。
「おい、そんな顔すんなよ。」
「ピエトロ、うるさい。」
「いやいや。チェレステ殿下がいるんだぜ?何かあったって勝てはしなくても、負けはしないよ。」
「そういう問題じゃない。」
隙間から見えたエリザベッタと魔王は並んで座っていた。エリザベッタが無意識に取る自分への距離よりも近かった。
(どうして会ったばっかのアイツとの方が親しげなんだよ!)
それは前世が日本人という共通点があるからなのだが、ランベルトにそれを知る術は今のところない。
要するに、嫉妬だった。彼は気付いている。今の自分がとてもみっともないことを。エリザベッタが取られるのではないか。あの、チェレステの予言のように。
(クッソ!エリザベッタは俺の……!俺の、婚約者なんだぞ!!)
彼女の思いが自分に向いていないと分かっている。けれど、婚約者であるのならば。結婚すれば。いつかは、自分を見てくれる。そう思っていた。
チェレステの行動によって、何もかも変わってしまった。けれど、彼女を責めるわけにはいかない。彼の心は苛まれる。どうしても、自分へ想いを返してくれないエリザベッタに対して負の感情を抱いてしまう。ならば、さっさと既成事実を作って、領地に閉じ込めてしまえば……?
ヤンデレコースに乗りかけているランベルトなのであった。
一方、のんびり気分で馬車に乗る魔王御一行。
『魔界ってどんなところですか?』
『なあに、エリザベッタ。魔界に興味あるの?』
『行けるなら行ってみたいなと思いまして。』
『確かにね〜。』
魔界など未知の世界だ。ちょっとワクワクしている二人にヴィオランテは呆れている。危機感がない。
『ねえねえ!聖女と合コンしない!?』
『ご、合コンですかぁッ!?』
『そうよ!私、前世でも合コンって未経験なの!魔族ってイケメンばっかりなんでしょ?戦闘しないなら顔で釣られる聖女もいると思うの!』
顔で釣られている聖女代表のチェレステなのだが、何分前世でもまともな恋愛経験がないので仕方ない。マンガのストーリーが終わったら、今世こそリア充になってやる!と考えていたチェレステなのである。
『エリザベッタも出ましょ!』
『私は婚約者がいるので……。』
『あ、あの人ですよね?紫眼の。』
『そうよ。ランベルト・クリザンテーモ。』
『あの人、なんかヤカラっぽくて怖いですよね?俺、初めて会ったときから、ちょっと怖くて……。ああいうタイプ、苦手なんです。顔がいい分、なんていうか、凄みがあるっていうか……。』
顔がいい分、自分にも凄みがあることに魔王は気付いていない。しかし、戦いの場での邂逅を〝会った〟で済ませるのはいかがなものか。
(そういえば、私のこと、美しいって言ってたのは、やっぱりおじじとかいう眷属に言わされてたのかしら?それともチェンって人?あーあ、そう考えるとなんかガッカリだわ。)
イケメンは正義なチェレステであっても、口説き文句は心からの言葉が欲しい。しかし、口説き文句が流れるように口の端からこぼれだすランベルトのような男では信用ならない。
チェレステは案外男を見る目があるのかもしれない。目が養われた場は二次元が主であるのだが。
『あの、ぶっちゃけ聞きますけど、チェレステ殿下は魔界で暮らすことは問題ありませんか?』
『魔界自体は問題ないけど、魔界への出入口がウチから遠いのがね〜。エリザベッタに会えないのがちょっとね。』
『そ、そうですか……。あ、転移ってこっちでは使われてませんよね?同じ世界なら何処でも行けるって魔道具なんですけど。時空の歪みを固定する魔道具の開発途中で出来たモノなんです。それがあるならどうですか?』
チェレステは考えた。魔界で暮らすことになったとしても、ほとんどドアトゥドアで時間も短縮して異動出来るなら何ら問題はない。
ただ、それをこの世界に持ち込むことによって問題が起きる可能性もある。国同士の争いは魔王が現れるようになるまで歴史上幾度もあった。転移の魔道具をこちらで運用出来るようになると、犯罪に使われたり軍事利用されないだろうか?
きちんと王女としての教育を受けているチェレステにはそれがとても懸念材料だった。
『あれば便利だけど、問題もあるんじゃない?』
『ああ、悪用されないかどうかってことですよね?設置場所とか利用規定とか、国際会議なんかで話し合えればいいんですけど。あ、でも、魔力使用量すげえッスけど。俺の魔力で百分の一よりちょっと少ないくらいなんで、多分普通の人は一人で使えないと思います。大人数で移動出来るものになると更にコスパ悪いですし。』
『……ねえ。貴方の魔力量と私の魔力量ってどれくらい差があるの?何分の何?』
『あれ?こっちには魔力を数値化する技術ないんですか?』
『水晶の光の大きさで比べるだけですよね。』
『そんな古典的な方法しかないんですか!?』
どうやら魔界には魔力量を数値化する魔道具があるらしい。魔界は魔道具先進国……いや、先進世界であった。
『んー、聖力抜きなら千分の一くらいですかね?』
『そんなに少ないの!?』
『はい。あ、でも聖力が多いので、合わせると三分の一くらいです。それってすごいことですよ。』
それでも三分の一。彼の魔力量はどうなっているのか。それを全て目の前の身体に受け入れられる器と、更にそれを押し込められるという事実は騎士団の連中が聞けば絶望することだろう。
『あ、私の魔力量ってどれくらいなんですか?』
『俺の三分の一だからチェレステ殿下と同じですね。でも、二人ともまだ伸び代あると思いますよ。なんかこっちの人ってただ漫然と持ってる魔力使ってるだけで、訓練して増やそうとしないですよね?』
『魔力って増やせるの!?』
魔力は成長が止まると増加も止まると考えられている。訓練で行うのは魔力消費の抑え方だ。訓練で魔力量自体を増やせると誰も気付きもしなかったのだ。
『え、それも!?』
どうやら魔界との交流は有益らしい。
(大事な交渉材料だわ。王宮についたら計画練り直さなくっちゃ!)
そうして自分の仕事を増やすチェレステなのであった。




